9.垣根は相手がつくっているのではなく、自分がつくっている②
「学区の七不思議を作ろう!」
「学校の七不思議的な?」
「そう、それの学区版」
「学校の怪談的な?」
「そう、それの七不思議版」
「学校の七不思議って、この学校にあるの?」
「知らない。でも、それの学区版」
白熱してるような、そうでもないような、とりとめのない会話をしているのは、中田さんと田中さん。五時間目のことだ。
『とりとめ』とは、要点とかいう意味だから、この会話に『とりとめのない』という表現をするのは、間違いかもしれないけど、なんとなく、とりとめのない会話に感じる。
正直、中田さんの中で班でやる事が決まっている事に戸惑いを感じるし、一年生に教えてあげる内容が『学区の七不思議』で良いのかというのも戸惑うポイントだ。
「なんで私たちの班の内容がもう決まっているの?」
僕の疑問を黒瀬さんが口にする。
頷きながら中田さんを見ると、口を尖らしながら、不貞腐れたように言う。
「だって、したかったんだもん……」
うわぁ、中田さんの不貞腐れなんて誰得なんだよ。指まで口元に持っていって、あざといスタンスが全開。でも、全然あざとさが感じられないよ。せめて吉岡さんなら、あざとさも似合うんだけど……。
「気色悪ぅ。あざとさでも演出してんの?あんたにそんな格好似合わないわよ」
そう言いながら、中田さんの真似をして、尖らせた口元に指を当てる黒瀬さん。
僕の心が見えてるの?と思える発言だけど、黒瀬さんも似合っていない。
「だったら、他に何か案があるのかよ」
「…………」
「ほらな──だから、七不思議で」
「ば〜か。だから、今、この時間に班で集まって考えるんじゃないの」
「バカ野郎?もう決まってんだから、いいじゃねえか!」
「はぁ?馬鹿?馬鹿なの?」
「バカで言うな!バカって言う奴がバカなんだぞ」
「じゃあ、あんたも馬鹿だね」
「はぁ。バカにすんな」
どんどんヒートアップしていく二人の会話。それにしても、黒瀬さんの煽りスキルって凄いな。
「ね、ねぇ、だったらさ、学区のって言うか、学校周りの危険な所とか、不思議な事をまとめたらどうかな?だったら、七不思議も入るし……」
流石、田中さん。
「明くんの案なら賛成」
「だったら……良いか」
黒瀬さんも中田さんも賛成したみたいだ。
でも、中田さんがこんなに直ぐに折れるなんて気持ち悪いかな。僕はよく弄られてたけど、あまり中田さんを知ろうとも思ってなかったし、意外と素直な面があるみたい。
授業も終わり、塾に行く田中さんにバイバイした後、僕と中田さんと黒瀬さんはノートとプリントアウトした近隣地図を持って、学校を出た。
中田さんは目的地があるみたいで、学校に近いところから回ろうと言う僕の案を聞こうともせず、先を歩く。
仕方なくついて行く。
「山田、あんたがこんなに付き合い良いなんて知らなかったよ」
「ん?」
「だってさ、いつも僕には関係ありませ〜んって顔してさ、俺別(俺だけは別なんだぜ)オーラ全開だよね」
「そ、そうかな?」
「そうだよ。良く言えば『孤高』、普通に言えば『ボッチを拗らせてる』ってとこ。よく真希ちゃんは、こんなのを好きになってるなぁって、本当に思ってた」
いま、悪口の合間に不穏な言葉を耳にした。『真希ちゃんは、こんなのを好き』、って、えっ、吉岡さん、僕の事を好きだったの?そ、そりゃあ、僕も吉岡さんを好きだけど──それは、友達として、幼馴染として好きなわけで……。
「吉岡さん、僕のこと好きなんだ…………」
「そう、そういうところ!誰に対しても、『さん』付けして、壁を作ってるみたいじゃんか。真希ちゃんくらい、吉岡さんじゃなくて、真希ちゃんって呼んであげなよ」
「でも、先生が、ひとを呼ぶ時は『さん』を付けて呼びましょうって…………」
「あんたは、一年生?一年生なの?」
「…………」
「それに何今更感だしてんの、真希ちゃんがあんたの事を好きって、みんな知ってるわよ」
そうなんだ……皆んな知ってる事なんだ。僕だけが知ってる事っていっぱいあるのに、僕だけが知らない事もあるんだ…………。
「で、でも、黒瀬さんだって……」
「みどり。翡翠の翠の字が一つで『みどり』」
「み、みどりさんだって、そんなに喋るタイプとは思わなかった」
あぁ、僕は何を言っているんだ。
黒瀬さんは翠さんっていうんだ。知らなかった。でも、黒瀬翠─黒と翠─ダークグリーンだ──なんて、言える雰囲気でもない。
「ん〜。みどりさんよりも『ちゃん』の方が好きかな。『みどりちゃん』リピートアフターミー」
「み、翠ちゃん」
「ちょっと硬いけど、まぁ良しとしようか。で、学校で?当たり前でしょ。学校では私の他に喋ってくれる人がいるんだもの。私が喋る必要ないでしょ」
そ、そういうモノなの?
女子って、喋りたくて喋りたくてしょうがなくて、ひたすらに口を開いているものじゃないの?
まぁ、人それぞれか。
「それにしても、中田はどこに行こうとしてんだろ?」
翠ちゃんは、僕には『みどりちゃん』を強要したくせに、僕達のことは呼び捨てなんだ…………。




