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第26話
懐かしさの中にいる。
花も、水も、あんなに綺麗な月も私は知らなかったのに。
幻翼痛。
ありもしないものへの郷愁。
風に揺れる風鈴に、線路を歩く子供達。
それはフィルムの中の物語だ。
また日が落ちる。
野宿とは言っても、向こうに比べれば天国だった。公園の蛇口を捻れば綺麗な水が出るし、小遣い程度の小銭でもあれば自動販売機にはお菓子やパンまで完備されている。
二人が心配しているだろうな、と思うと申し訳なくなる。
それでも、帰るつもりにはなれなかった。
大人になるということが、何かを所有して何かに所有されることだというのならば、私は永遠に少女のままでいたかった。
自分の中に『激しさ』がある。
それはあの二人には無いものだと思う。
豊かさから弾かれた人間にしか無いもの。
追い詰められた時に発してしまう攻撃性。
『秘密』があった。
誰にも知られたく無い秘密であり、誰かと共有したい誇りでもあった。
しかし、その誇りが、信念が揺らいでいた。
顔も知らない男の子供を孕んで、それで幸せだという少女。
自分の軽蔑してきた人々そのもののはずの存在が、あんなにも眩しい人だなんて。
母親の顔と、あの眩しい少女の笑顔が交互に頭をよぎる。
帰りたい。
帰りたい?
どこに?
ふらふらと、気付けばあの溜池に向かっていた。




