始まりは突然に
「ん……はぁ…またあの夢…かぁ」
当時9歳だった湊に色濃く残った10年前の悪夢…あの日以来満足に眠ることすら叶わなくなった湊は今日も重たい瞼を擦りながら布団を出て身支度を済ませる
「おはよう湊くん。だいぶこっちにも慣れてきたね」
「おはようございますおばさん…そうですね1年も住んでますから」
隣の家のおばさん…いつも気にかけてくれるな。今度お菓子でも買って行こうかな
両親を亡くし親戚も居なく、実家もなかった湊は18歳まで施設におり、去年両親が密かに買っていた別荘のある北海道の田舎の方へ引っ越してきたのだ。両親が貯めていたお金はかなり膨大で、仕事などしなくとも4人くらいは簡単に養える額であったが、湊は両親がやっていた農業を引き継ぎ作物を売って生計を立てていた
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ガシッ…ガシッ……ガシッ…!!
「ふう…疲れたなぁ」
カァカァカァ
カラスが鳴く夕暮れまで作業をしていた湊は腹の虫が鳴くのを感じると本日の作業を終え、風呂に入った後夕食の用意を始めた
今日はムニエルにしようかな…あれバターがない…うーんもうムニエルの舌なんだよなぁ。面倒だけどコンビニに行って買ってくるか
湊はエプロンを脱ぐと財布とエコバッグを持ってコンビニに向かった。外はすっかり暗くなり人っ子一人いない静かな夜…コンビニに行くために必ず使う一本しかない林道を湊は歩いていた
この道嫌いなんだよなぁ…なんか居そうで…
だが湊の予想は外れ無事コンビニでバターを買い帰っていた
またこの林道…でも行きは何もいなかったんだ。帰りだって
月が雲に隠れ、影が湊の足まで伸びたその瞬間何者かが湊の足を引っ張った
「えっ!?」
「イダダギマァァズッ!」
形容し難い不可思議な存在は鋭く、そして怪しく光る歯を見せながら大きな口を開き、湊を食おうとする
い…いやだ!?こんな、こんなところで…こんな所で!死にたくない…死にたくない死にたく……誰か誰か助け
「ナンデオマエダケ?」
「あっ……あっ…」
出かかった言葉はあと少しのところで詰まり湊は悲鳴どころか、助けすら呼べずに死を覚悟した。その時だった
ダァァァッ!!
まるで雷でも落ちたかのような、まるで風を切り裂いたかのような、まるで大地を震わせたかのような、そんな音が響くと同時に湊を掴んでいた魑魅魍魎はその手を離し灰となり消えた
「あ……あの…えっと…その……………だ…大丈夫…でしたか?」
湊より二回りほど小さな黒髪の少女が、白く透き通った柔らかそうな手で強く握っているガラス細工のように美しく、透き通った緑の剣で自身を助けてくれた事に湊はまだ気がついていなかった。なぜなら
美しい…
まだ名も知らぬ彼女に見惚れてしまっていたからだ




