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第21話 風紀委員と生徒会長

「……お前は……何者だ……? 本当に人間か?」

「ふっ、愚問だな。俺は不破ネメシス。予科生だ。それ以上でも、それ以下でもない」

「っ……嘘を言うな! そんな術式を予科生が使えるわけがない!」

「使えた。それが事実だ」


 指を鳴らしながら、相手を煽るネメシス。

 そして上座の人物が、残りの六人に向けて、何かを言おうとする。

 しかし、その瞬間――――


「影縫制圧」


 ネメシスたちの背後から、術式名を口にする蓮花の声が響いた。

 地下の出入口から乗り込んで来ていたのである。


 施錠されていた扉が、外部から解錠されていた。ミサキが外部から解錠した様子。

 蓮花の切れ長の目が、部屋全体を一度で把握した。


 百八十六センチの長身が、低い天井の地下室で存在感を放つ。

 腕部デバイスが起動した。部屋の全員の影が、床に縫い付けられる。

 全員が一瞬で動けなくなった。だが上座の人物が、無理やり足を動かそうとする。しかし動かない。


「影縫制圧に、殺傷力はない。全員の安全は俺が保障する。ただし、動く事は許可しない」


 蓮花が言い放つが、その声は低かった。落ち着いた声である。


「影読蓮花……くそっ……」


 奥歯を軋ませながら、上座の人物が苦悶とした言葉を漏らす。

 その声には今夜、初めての本物の動揺がある。


「風紀委員が来たということは、お前は最初から……」

「ふっ、それは秘密だ」


 ネメシスの疑問に対して、人差し指を立たせながら、不敵な笑みを浮かべる恒一。

 そして今度は室内に、桃華が入ってきた。蓮花の後から通路を抜けてきたようである。


 艶のある黒髪セミロングが、地下の照明を受けて光っていた。

 深い焦げ茶の瞳が、部屋の状況を一度で把握する。

 穏やかな微笑みが、顔に定着していた。


 しかし、今夜の微笑みは昼間に見せる種類とは違う。

 生徒会長として、事態を処理する顔だ。


「全員、確認しました」


 周囲に視線を配りながら短く桃華は呟く。


「生徒会として、今夜の事態を正式に記録する。全員、明日の朝に生徒会室に来てもらうわ。話を聞かせてほしい」

「話を聞く……だと? ということは……」


 上座の人物が言った。


「拘束や処罰の前に話を聞く。それが私のやり方よ」

「なぜだ……?」

「貴方たちの怒りが、百年の構造から来ていることは分かっている。その怒りを無視して処罰だけすれば、同じことが繰り返される。だから話を聞く」


 腕を組みながら凛々しい声を出して、桃華は真摯に相手と向き合う。

 上座の人物が、彼女を見ていた。長い間、見ている。

 そして遅れてミサキが、通路から部屋に入ってきた。


 金色の髪が地下の照明を受けている。灰色の瞳が、ネメシスを見た。

 彼を一度見て、全身を確認する。損傷がないことを確認した。ただ、それだけである。


 しかし、確認した後の灰色の瞳に、今夜初めての種類の光があった。安堵のような光である。

 そして数分後に、影縫制圧が解除された。ようやく全員が動けるようになる。

 上座の人物が、その場に立ったままだ。逃げるような素振りは見せない。


「俺たちは煽動されていたのか……? 供給元に……」

「その可能性は高い。しかし、断定するには調査が必要だ」


 周囲を見渡しながら、蓮花が淡々と答えた。

「調査に協力するつもりはあるか?」

「……あるかもしれない」


 少し間を置いてから上座の人物が、天井を見上げたまま口を開く。


「ふっ、それで十分だ」


 静かに口角を上げる蓮花。そして状況が落ち着いてから、ネメシスと恒一が通路に出た。

 ミサキは、一足先に地下から出て、寮へと戻っている。


 そして地下の通路は静かである。二人が並んで立った。

 低い照明が、二人の顔を照らしている。


「ふむ、終わったな」


 ネメシスが言った。


「……ああ、一応だけどな」


 少しの間を空けてから恒一が答える。


「お前は今夜、供給元の解析を、あの場で始めた」


 隣りを歩く彼に視線を向けて呟く恒一。


「必要だと判断した」

「俺が因果演算で解析するより先に、お前が神経回路で走査した。速度が俺より上だった」

「俺の走査は接触型だ。端末が目の前にあった。有利な状況だったというだけだ」

「……それでも、だ。お前の実力を今夜、直接確認した。トーナメントで見た時より、さらに上だと分かった」


 そう言うと彼の暗いグレーの瞳が、ネメシスを解析するように見ていた。


「……一つだけ聞く」

「なんだ?」

「お前は何者だ?」

「ふん、さっきも言った気がするんだがな。ただの不破ネメシスだ。予科生のな」


 小さく溜息を吐き捨てながら、ネメシスは告げる。


「それは名前と徽章の話だ。俺が聞いているのは、それ以外の話だ」

「それ以外とは?」

「トーナメントで因果書換を使った。俺の術式に対して、逆算修復を行った。今夜は接触型の神経走査で端末の情報を瞬時に読んだ。それらは同じ人間が持つ能力の組み合わせとして、俺の因果演算では説明できない」

「説明できないなら、そのままにしておけばいい」

「無理だ。俺は判断ミスを引きずる性質だ。説明できないまま隣に置くことは、判断ミスの可能性を残すことになる」

「真面目な性格だな」

「それが俺だ」

「……ふむ。俺が何者かを俺自身が、まだ完全には把握していない」


 少し間を置いてからネメシスが重たい口を開く。


「どういう意味だ」

「設計された存在だ。しかし、設計の範囲を出た部分がある。その部分が何なのかを、俺は今も理解している最中だ」

「設計された存在、とはどういう意味だ」


 腕を組みながら眉間に皴を寄せる恒一。


「それ以上は言えない。言えない部分がある」

「……そうか。俺が因果演算で導いた今夜の結果から言うと、お前は危険な存在だ。説明できない部分が多い人間は、因果演算の予測精度が下がる。つまり俺が対処できない状況を作る可能性がある」


 組んでいた腕を解いて、恒一は改めて顔を彼へと向ける。

 暗いグレーの瞳が、ネメシスを見続けていた。

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