第3話 支給品のバトルスーツ
「ドイツとフランスが組まされるとはな……」
「構造解析強化系と光精神干渉系の組み合わせだ」
「前衛と後衛が揃った。理論上は完璧な編成じゃないか?」
「でも、あの二人、特別仲が良さそうには見えなかったが……」
「実力だけで機能するペアなら、仲が良くなくても問題ない」
「まあ、警戒対象だな」
上級生たちは、分析と考察を行うように、小声で話し合う。
そしてフィールドでは、アイゼンがリュミエールを見ていた。
感情の起伏がない灰青色の左目が、彼女を一度だけ確認して前方に戻る。
「おい、リュミエール。連携の確認をしたい」
アイゼンが短く吐き捨てた。その声は低く、感情がない。
「……別にいいけど、いつからやるんだい?」
リュミエールが答えた。穏やかな声だが、今日は蜂蜜色の瞳に別の光が混じる。戦闘者としての光だ。
「決まっている。今から試合開始まで、だ」
「……ん、分かった。ただアイゼン、僕への攻撃は事前に通告して欲しいな」
「なぜだ?」
「先週の授業中の件を見ていたからさ。連携中に同じことをされると、流石の僕も困ってしまうよ」
少しの間を置いてから、リュミエールが口を開く。
「ふむ、把握した。今日限定でパートナーへの実験的打撃はせん」
手を自身の顎下に当てながら、悩む素振りを見せていたアイゼンだが、彼女の要求を承認した。
「……実験的打撃、という言い方が既に問題だと思うんだけどね」
リュミエールが微笑んだ。しかし笑みの奥が、いつもより硬い。
そしてルクレツィアのペアは、一学年の中でも悪目立ちしている生徒とのペアだ。
スクリーンに『ルクレツィア・クロウフォード × 如月颯太』と表示された時、如月が表情を動かす。
「クロウフォードさんと俺がペアか……」
如月が呟く。その声には複数の感情が混在していた。ルクレツィアが彼を見る。
サファイアブルーの瞳が、一秒で如月の能力を計算しているのが分かった。
「よろしくてよ、如月さん。炎系の攻撃魔法は制圧力が高いものですわ。わたくしの術式とも、間違いなく相性が良いはずです」
「だけど、クロウフォードさんは先週の決闘で――」
「ええ、負けましたわ」
如月の言葉を、ルクレツィアは覇気を込めた声で遮る。その声のトーンは変わらない。
「ですが、本日は個人戦ではなくタッグ戦です。わたくしの術式は、パートナーが前衛で動いてくださる状況でこそ、本来の力を発揮する設計になっておりますの。先週とは条件が違いますわ」
「つまり俺が前に出て、クロウフォードさんが後ろから術式を重ねる。……ということか」
「そういうことですわ。頼りにしていますわね、如月さん」
「……分かった。俺に任せておけ」
少しの間を置いてから如月は、静かに拳を握り固めて震わせた。
「素直ですのね。嫌いじゃありませんわ、そういう方」
ルクレツィアが僅かに笑みを零す。芝居がかっていない笑みだ。
一方で観客席では、賭けが始まっている。
非公式のネットワーク上に、タッグ戦の勝者予想が上がり始めた。
『優勝候補は神代兄妹ペア。因果系と観測補正系の完全補完は、理論上止められない』
その投稿から五分で、反応が集中する。そしてオッズが表示された。神代兄妹ペア、一・三倍。
『次点は留学生ペア。アイゼン・ヴァイスベルクの防御制圧力とリュミエール・アルノーの後方支援が機能すれば、突破は困難』
アイゼン・リュミエールペア、二・一倍。
『不破・蛇ノ目ペアは未知数。不破の触手は実証済みだが、蛇ノ目の実力が不明。タッグ戦での連携が機能するかどうかで大きく変わる』
不破・蛇ノ目ペア、三・八倍。
『クロウフォード・如月ペアは先週の決闘のイメージが強い。クロウフォードの術式は状況操作特化で、如月の火力と組み合わさればバランスが良い。ただし不破ペアとの対戦は避けたいだろう』
クロウフォード・如月ペア、四・二倍。
そして匿名のコメントが、非公式のネットワークに続々と投稿された。
「神代兄妹の優勝は固い。問題はどのペアが決勝まで残れるかだ」
「不破ペアが神代兄妹と当たった場合、どうなる? エリートの触手責めが見られるのか?」
「そこが今日の、一番の見どころだろうな!」
「触手魔と神代家の因果演算が激突する場面が見たい! 超見たい!」
「それより、触手魔の本当の限界がどこにあるか。それが今日、分かるかもしれない」
観客席の熱気が、開始前から上限に近い温度を持ち、盛り上がりは増すばかりである。
午前九時三十一分。試合開始まで、三十分ほどあった。
既に全てのペアの発表を終えており、それぞれの者が学校に指定された相方の傍に立つ。
施設内の照明が白く、均一に点灯し続けている。
観客席は既に満員で、生徒たちの会話と熱気が、円形の空間に充満していた。
春の光がバリアを通して差し込んでいたが、三千人以上の体温が室内の気温を外より、三度高く押し上げている。
フィールドの脇に設けられた準備エリアに、学校のスタッフが台車を押してきた。
台車の上に、収納ケースが積み上げられている。
「これより戦闘用スーツの配布を行います。各自、指定されたケースを受け取ってください」
スタッフが一覧を読み上げ始めた。
学校支給のスーツは、試験や公式決闘のための標準装備として、開発されたものである。
魔力耐性素材が基本素材に使用されており、術式の直撃を受けた際の損傷を軽減する設計になっていた。全面に魔法補助回路が織り込まれており、着用者の魔力回路と連動することで、魔力の展開効率を最大十五パーセント向上させる。
損傷軽減機構が各部位に組み込まれており、特に関節部と頭部への保護が強化されていた。
生体モニターが胸部内側に設置されており、着用者の魔力残量と身体状態をリアルタイムで、審判システムに送信する。
男子用と女子用で設計が異なっていた。男子用は戦闘装甲型と呼ばれている設計。
上半身に薄型の装甲が展開され、肩と胸部を保護した。
素材の色は深いグレーと黒の組み合わせで、魔力回路のラインが青白く発光する仕様。
動作の自由度を確保するために、関節部は柔軟素材が使用されていた。
全体として、機能性と防御力を両立した、重厚感のあるデザイン。
女子用は軽量型と呼ばれる設計だ。機動力重視の設計で、男子用より装甲部分が少ない代わりに、全身の動きを妨げない柔軟素材が多用されている。
素材は黒をベースに、魔力回路のラインが細く白く走っていた。
しかし、その機動力重視の設計が、別の特徴を生んでいる。密着度が高いのだ。
体の動きを完全に追従する素材のため、着用者の体型が素材越しに明確になる。
腰から腿にかけてのラインが、スーツの素材を通して鮮明だ。胸元の曲線が、密着素材により際立つ。
動く度に素材が体の輪郭を追い、それが観客席からも視認できる設計になっていた。
機動力のための設計が、結果として着用者を余すところなく見せる。
そして女子生徒たちが、スーツを受け取り、着替えエリアに向かった。
着替え後、準備エリアに戻る女子生徒の姿を見て、観客席から反応が上がる。
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