表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
50/54

第3話 支給品のバトルスーツ

「ドイツとフランスが組まされるとはな……」

「構造解析強化系と光精神干渉系の組み合わせだ」

「前衛と後衛が揃った。理論上は完璧な編成じゃないか?」

「でも、あの二人、特別仲が良さそうには見えなかったが……」

「実力だけで機能するペアなら、仲が良くなくても問題ない」

「まあ、警戒対象だな」


 上級生たちは、分析と考察を行うように、小声で話し合う。

 そしてフィールドでは、アイゼンがリュミエールを見ていた。

 感情の起伏がない灰青色の左目が、彼女を一度だけ確認して前方に戻る。


「おい、リュミエール。連携の確認をしたい」


 アイゼンが短く吐き捨てた。その声は低く、感情がない。


「……別にいいけど、いつからやるんだい?」


 リュミエールが答えた。穏やかな声だが、今日は蜂蜜色の瞳に別の光が混じる。戦闘者としての光だ。


「決まっている。今から試合開始まで、だ」

「……ん、分かった。ただアイゼン、僕への攻撃は事前に通告して欲しいな」

「なぜだ?」

「先週の授業中の件を見ていたからさ。連携中に同じことをされると、流石の僕も困ってしまうよ」


 少しの間を置いてから、リュミエールが口を開く。


「ふむ、把握した。今日限定でパートナーへの実験的打撃はせん」


 手を自身の顎下に当てながら、悩む素振りを見せていたアイゼンだが、彼女の要求を承認した。


「……実験的打撃、という言い方が既に問題だと思うんだけどね」


 リュミエールが微笑んだ。しかし笑みの奥が、いつもより硬い。

 そしてルクレツィアのペアは、一学年の中でも悪目立ちしている生徒とのペアだ。

 スクリーンに『ルクレツィア・クロウフォード × 如月颯太』と表示された時、如月が表情を動かす。


「クロウフォードさんと俺がペアか……」


 如月が呟く。その声には複数の感情が混在していた。ルクレツィアが彼を見る。

 サファイアブルーの瞳が、一秒で如月の能力を計算しているのが分かった。


「よろしくてよ、如月さん。炎系の攻撃魔法は制圧力が高いものですわ。わたくしの術式とも、間違いなく相性が良いはずです」

「だけど、クロウフォードさんは先週の決闘で――」

「ええ、負けましたわ」


 如月の言葉を、ルクレツィアは覇気を込めた声で遮る。その声のトーンは変わらない。


「ですが、本日は個人戦ではなくタッグ戦です。わたくしの術式は、パートナーが前衛で動いてくださる状況でこそ、本来の力を発揮する設計になっておりますの。先週とは条件が違いますわ」

「つまり俺が前に出て、クロウフォードさんが後ろから術式を重ねる。……ということか」

「そういうことですわ。頼りにしていますわね、如月さん」

「……分かった。俺に任せておけ」


 少しの間を置いてから如月は、静かに拳を握り固めて震わせた。


「素直ですのね。嫌いじゃありませんわ、そういう方」


 ルクレツィアが僅かに笑みを零す。芝居がかっていない笑みだ。

 一方で観客席では、賭けが始まっている。

 非公式のネットワーク上に、タッグ戦の勝者予想が上がり始めた。


『優勝候補は神代兄妹ペア。因果系と観測補正系の完全補完は、理論上止められない』


 その投稿から五分で、反応が集中する。そしてオッズが表示された。神代兄妹ペア、一・三倍。


『次点は留学生ペア。アイゼン・ヴァイスベルクの防御制圧力とリュミエール・アルノーの後方支援が機能すれば、突破は困難』


 アイゼン・リュミエールペア、二・一倍。


『不破・蛇ノ目ペアは未知数。不破の触手は実証済みだが、蛇ノ目の実力が不明。タッグ戦での連携が機能するかどうかで大きく変わる』


 不破・蛇ノ目ペア、三・八倍。


『クロウフォード・如月ペアは先週の決闘のイメージが強い。クロウフォードの術式は状況操作特化で、如月の火力と組み合わさればバランスが良い。ただし不破ペアとの対戦は避けたいだろう』


 クロウフォード・如月ペア、四・二倍。

 そして匿名のコメントが、非公式のネットワークに続々と投稿された。


「神代兄妹の優勝は固い。問題はどのペアが決勝まで残れるかだ」

「不破ペアが神代兄妹と当たった場合、どうなる? エリートの触手責めが見られるのか?」

「そこが今日の、一番の見どころだろうな!」

「触手魔と神代家の因果演算が激突する場面が見たい! 超見たい!」

「それより、触手魔の本当の限界がどこにあるか。それが今日、分かるかもしれない」


 観客席の熱気が、開始前から上限に近い温度を持ち、盛り上がりは増すばかりである。

 午前九時三十一分。試合開始まで、三十分ほどあった。

 既に全てのペアの発表を終えており、それぞれの者が学校に指定された相方の傍に立つ。


 施設内の照明が白く、均一に点灯し続けている。

 観客席は既に満員で、生徒たちの会話と熱気が、円形の空間に充満していた。

 春の光がバリアを通して差し込んでいたが、三千人以上の体温が室内の気温を外より、三度高く押し上げている。


 フィールドの脇に設けられた準備エリアに、学校のスタッフが台車を押してきた。

 台車の上に、収納ケースが積み上げられている。


「これより戦闘用スーツの配布を行います。各自、指定されたケースを受け取ってください」


 スタッフが一覧を読み上げ始めた。

 学校支給のスーツは、試験や公式決闘のための標準装備として、開発されたものである。


 魔力耐性素材が基本素材に使用されており、術式の直撃を受けた際の損傷を軽減する設計になっていた。全面に魔法補助回路が織り込まれており、着用者の魔力回路と連動することで、魔力の展開効率を最大十五パーセント向上させる。


 損傷軽減機構が各部位に組み込まれており、特に関節部と頭部への保護が強化されていた。

 生体モニターが胸部内側に設置されており、着用者の魔力残量と身体状態をリアルタイムで、審判システムに送信する。


 男子用と女子用で設計が異なっていた。男子用は戦闘装甲型と呼ばれている設計。

 上半身に薄型の装甲が展開され、肩と胸部を保護した。


 素材の色は深いグレーと黒の組み合わせで、魔力回路のラインが青白く発光する仕様。

 動作の自由度を確保するために、関節部は柔軟素材が使用されていた。


 全体として、機能性と防御力を両立した、重厚感のあるデザイン。

 女子用は軽量型と呼ばれる設計だ。機動力重視の設計で、男子用より装甲部分が少ない代わりに、全身の動きを妨げない柔軟素材が多用されている。


 素材は黒をベースに、魔力回路のラインが細く白く走っていた。

 しかし、その機動力重視の設計が、別の特徴を生んでいる。密着度が高いのだ。

 体の動きを完全に追従する素材のため、着用者の体型が素材越しに明確になる。


 腰から腿にかけてのラインが、スーツの素材を通して鮮明だ。胸元の曲線が、密着素材により際立つ。

 動く度に素材が体の輪郭を追い、それが観客席からも視認できる設計になっていた。

 機動力のための設計が、結果として着用者を余すところなく見せる。


 そして女子生徒たちが、スーツを受け取り、着替えエリアに向かった。

 着替え後、準備エリアに戻る女子生徒の姿を見て、観客席から反応が上がる。

最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます。

宜しければ評価とブックマーク登録をお願い致します。

活動の励みとなり更新が維持出来ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ