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第1話 バトルトーナメント開催!

 四月十五日、午前九時〇二分。試験当日だ。空は晴れている。

 雲が少なく、春の青空が学校の上に広がっていた。

 気温は十八度で、入学以来最も暖かい朝である。


 風が穏やかで、外周結界の光が昨日より薄く見えた。晴れた日の光が、結界の視認性を下げる。

 第三訓練棟の外に、生徒の列ができていた。一年生だけでなく、二年生と三年生の姿も多い。

 上級生が観戦のために、早朝から集まっていた。


 開場時刻の三十分前に、すでに列が施設の外周を回っている。

 入口の前に、学校の公式告知板が設置されていた。


『一年次前期実力試験、魔法バトルトーナメント、本日開催』


 さらに、その下に小さな文字で追記がある。


『本試験は国家代表候補選抜の一次資料として記録されます』


 第三訓練棟の内部は、先週の決闘の時とは、別の設定になっていた。

 円形の戦闘フィールドの直径は変わらなかったが、フィールドの中央に仕切りラインが引かれている。

 観客席は満員だ。


 三千人を超える収容人数の全席が埋まっており、立見のエリアにも生徒が詰めている。

 入学以来、最大の人数が、この施設に集まっていた。

 魔法防御バリアが、先週より一層厚く展開されている。


 七層構造から九層構造に増設されており、各層の魔力密度が高かった。

 バリアを通した内部の光が、僅かに青みがかって見える。


 フィールドの外周四箇所に、医療班が待機している。

 先週の三名体制から、今日は六名体制に増強されていた。

 担架が二台、回復術式を使える術師が二名、魔力補填剤のケースが三つ用意されている。


 審判システムの端末が八台、フィールドの周囲に配置されていた。

 教師陣の専用席が今日は、二列に拡張されている。

 一学年の担任だけでなく、全学年の担任と教科担当の一部が出席していた。


 最前列の中央に冬華は座っている。

 漆黒の長髪が肩から流れ、切れ長の目が正面のフィールドを向いていた。

 腕を組んでいるが、その表情は変わらない。


 しかし今日の彼女の視線は、先週の決闘を観戦していた時のよりも鋭いものだ。

 そして、その隣には見慣れない制服姿の生徒が座っている。


 彼女の名前は再生院桃華である。艶のある黒髪のセミロングが、肩の下まで自然に流れていた。

 前髪が軽く流され、表情を隠していない。

 制服を着崩すことなく、きちんと着用していたが、その着こなしに堅苦しさがなかった。


 顔立ちは整っている。派手さがなく、男女問わず綺麗と認識される顔だ。

 輪郭に角がなく、親しみやすい印象を作っている。

 やや大きめの目の瞳が深い焦げ茶色で、今は観客席全体を落ち着いた視線で見渡していた。


 口角が自然に上がっており、穏やかな微笑みが顔に定着している。

 話しかけやすい雰囲気を、意図せず纏っていた。体型は細身で均整が取れている。

 制服越しでも分かる女性らしい柔らかさがあった。


 胸元の膨らみが、きちんと着た制服の上からでも存在を主張しており、細身の体型との対比が際立つ。

 生徒会長の腕章を左腕に着けていた。それ以外の装飾品は、小さな髪留めだけである。


「さすがに、今日は満員ですね」


 冬華に向けて桃華が呟く。その声が穏やかだった。落ち着いていて、場を和ませる種類の声。


「ああ、当然だ」


 短く彼女(冬華)が答えた。


「去年の一年次試験の観客は、最大でも千二百人でした。今日は、その倍以上ですね」

「一組の構成が例年と違う。それだけだ」

「神宮寺先生は、今日の優勝者を予想していますか?」

「予想は無意味だ。結果だけを見る」


 少しの間を置いてから冬華は返す。


「先生らしいお答えですね」


 桃華は小さく笑みを零した。それから、彼女の視線がフィールドに向く。

 深い焦げ茶の瞳が、静かにフィールドの中央を捉えていた。


「去年から噂は聞いていました。今年の一学年には、特別な生徒が来る、と」

「……誰から聞いた?」

「いくつかの方向から、です。聖統院の関係者からも、ミネルヴァの関係筋からも、それぞれ別の言葉で、しかし同じ方向を指す話が来ていました」

「それで今日来たのか」

「はい、直接見たかったので。……それに再生院の人間として、確認したいことがあります」


 桃華の声のトーンが僅かに変化する。穏やかさを保ちながら、しかし真剣な色が混じる声だ。


「……ふん、試験が終わってから話せ。今は見ることに集中しろ」


 神妙な雰囲気を滲ませる彼女を見て、冬華の切れ長の目が一秒だけ止まるが、それだけ言うと静かに腕を組む。短く返事をしながら桃華は頷いた。そして視線をフィールドに戻す。


 盛大に鳴り響く陽気な音楽と共に、選手たちが続々とフィールドへの入場を始める。

 一学年の生徒たちが、二つの入口から交互に入場した。

 観客席から様々な反応が一斉に上がる。


「あ、あれが噂の……神代家の人間か……。なんかこう……神々してく美しいぜ……」

「おおっ! 新入生代表の子じゃーん! 超可愛い! 俺と付き合って~!」


 神代美弥が入場した時、観客席の一部から大きな声が上がった。


「ん……あれ? アイツも確か神代家の人間だろ? なんで予科生の徽章をつけているんだ?」

「神代家の長男が予科で入学したって噂……あれは本当だったのか……」


 神代恒一が入場した時、疑問という色の反応が観客席に立ち込める。


「おっと! あれが予科に完全敗北した英国の留学生か!」

「ああ、そうだな。例の触手魔に負けたお嬢様だ」

「でも実力は本物らしいけどな。噂では例の予科が卑怯な手を使ったから負けたとか」


 ルクレツィアが入場した時、上級生の区画からは嘲笑混じりの声が上がった。


「……なぁ、おい。あれって、まさかフランスからの留学生か?」

「どれどれ……あー、どうやらそうみたいだな。まさに光系の術師だ」

「超可愛いじゃねぇか! なんかこう……赤面させたくなるほど愛おしいな! あー、告白したらワンチャンないかなぁ……」


 リュミエールが入場した時、その圧倒的な容姿により、観客たちの反応がやや遅れている。

 そしてアイゼンが入場した時、観客席が少し静まり返った。

 灰鉄色の装甲デバイスを、前腕に装着した状態での入場が、他の生徒と明らかに異質である。

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