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第10話 勝者、生物兵器!

「あ、あはっ、あぁぁぁ……っ!」


 激しい絶頂の波に何度も何度も襲われ、ルクレツィアが完全に果てたその瞬間、締め付けられていた身体の決壊が完全に崩壊する。


 何の遮りもない剥き出しの太腿を伝い、熱い質量が地面へと盛大に溢れ出し、彼女の誇りは文字通り木端微塵に吹き飛んだ。


 すべてを出し尽くし、失禁の海の中で手足を震わせながら、ルクレツィアは糸が切れた人形のように意識を失い、そのまま地面へと崩れ落ちた。


 そして先ほどまで硬直していた審判員が、唐突に自分の役目を思い出したかのように、動き出して端末を閉じる。


「勝者、不破ネメシス!」


 その声がフィールドの、円形空間に均一に届いた。

 マイクを通した音声が、天井の四隅に設置されたスピーカーから流れ、観客席の最上段まで届く。


 そして勝敗が決した時点で待機していた医療班が一斉に動き出し、慣れた手付きでルクレツィアを担架に乗せると、その場から忙しなく消えた。


 やがて声の反響が消えた後、三秒の静寂が訪れる。その三秒が、終わった。

 観客席が、一斉に動いた。下段席から予科生たちの声が上がる。


「か、勝った……」


 最初に言ったのは誰かわからなかった。しかし、その声は連鎖する。


「本当に勝ちやがった!」

「不破が勝ったぞぉぉぉぉ!」

「あの英国の名門貴族に、本当に勝っちまったんだ!」


 立ち上がる生徒が出た。壮大な拍手が一斉に沸き起こる。

 最初は数人だったが、予科生の席全体に広がった。声と拍手が重なり、下段席が熱を持ち始める。


 昨日まで下を向いていた生徒たちが、今は立ち上がっていた。

 昨日の自己紹介の時に薄かった拍手が、今は驚くほどに厚い。

 それがどういう意味を持つか、フィールドに立つネメシスには関係がなかった。


 しかし、音として確かに届いている。だが一方で正科生の中段席は、対照的に静まり返っていた。

 如月颯太は、立ち上がりかけた姿勢のまま、止まっている。

 ただフィールドを見ていた。言葉が出ない様子。昨日の時点での判断は、合理的だったはずだ。


 英国王立魔導院の留学生と、入学二日目の予科生。どちらが優位かは、データが示していた。

 オッズが示していた。経歴が示していた。それが覆った。


「お、おかしい……。こんなのあり得ないだろ……」


 如月の隣の正科生が、低い声で吐き捨てる。


「あの触手は何だ……!  術式展開の痕跡がまったくなかった!  デバイスも使っていないぞ!  あれは本当に魔法なのか!?」

「分からない……」

「分からないだと?  お前ほどの成績優秀者が、分からないと言うのか!」

「見たことがないんだ。どの国の魔法体系にも、自身の肉体から直接あのような有機物を生成し、相手の魔力を完全に吸い尽くすような術式は存在しない……」

「じゃあ、あいつは一体何を使ったって言うんだ!」

「だから、分からないと言っている!」


 苛立ちと怒声混じりの会話が止まった。そして全身を震わせながら、如月が大きく口を開く。


「予科の判定が間違ってたんだ……! きっとそうだ……! そうに違いない……!」


 その声は周囲に聞こえる程度の大きさだ。


「あいつは最初から正科相当の能力を持っていた……。予科の判定が誤りだった……。ただ、それだけのことだ……」

「でも、あの触手は……」

「新種の魔法か、あるいは特殊な肉体改造の類だ……。いずれにしても、あんなものは反則に近い手段だ……」

「しかし、反則の判定は審判員が下すもので……」

「その審判員が見落としたんだ! そうに決まっている!」


 その声は、わずかに大きくなっている。そして周囲の正科生の数名が、如月の言葉に乗った。


「そうだ!  術式展開がない魔法なんて、そもそも魔法として認められるわけがないだろ!」

「クロウフォードさんが可哀想すぎる……。あんな高貴な方が、あんな屈辱的な目に遭わされるなんて……」

「あんな反則まがいの、おぞましい手段で勝ちを拾うなんて、到底納得できるか!」


 怒号が重なり始め、空気は段々と熱を帯び始める。その声が、下段の予科生の席にも届く。


「おい、正科生の奴ら、反則って言ってるぞ……」

「せっかくネメシスが勝ったのに……!」

「あれが反則だって言うなら、クロウフォードさんが使った王印弾で魔力回路に直接干渉する術式は何なんだよ。そっちだって大概だろ」

「審判員が問題なしと判断して試合終了したんだ。それがすべてで、何よりの答えだろうが!」

「正科は、ただ自分たちエリートが負けた側の言い訳を、今必死に作ってるだけだろ」

「昨日は、さんざん予科生は足を引っ張るだの何だの言ってた癖に、これかよ!」


 観客席の正科側と予科側の間で、非難の応酬が始まった。

 単発の言葉のやり取りが、互いの区画で増幅されてゆく。


 円形の観客席が、区画ごとに別の方向に動き始めた。

 だが一方で上級生(正科生)の最上段では、別の種類のざわめきがある。


「ちっ、触手の生成原理が分からない」

「術式展開ゼロ、魔力消費ほぼゼロ、肉体から直接有機物を生成。これは人体改造の範疇を超えてる」

「NMSウイルスって聞いたことあるか?」

「名前だけならな。詳細は機密扱いだったはずだ」

「不破ネメシス。入学直前に登録されたデータで、それ以前の記録がない。それ自体が異常だ」

「……まさか、ミネルヴァ絡みか?」


 一人の男子の声が、途端に低くなった。


「まだ分からない。ただ、あの生徒は普通じゃないぜ」


 上級生たちは観客席で、互いに声を落として話し合う。

 戦闘への興奮ではなく、見たものの意味を測ろうとしている声だ。


 一方で教師陣の専用席は、沈黙に包まれている。

 数名の教師が端末を確認したり、フィールドを見たりしていた。


 しかし、声を出す者はいない。冬華だけが最初から同じ姿勢でいた。

 腕を組み、切れ長の目がフィールドを見つめている。

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