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第9話 恥辱を味わうイギリス少女

「あ、あああ……っ!  皆、見ている……っ、私の、こんな最低で破廉恥な姿を……っ!  やだ、見ないで……そんな欲望にまみれた目を、この私に向けないでくださいまし……っ!  私は高貴な貴族、ルクレツィア・クロウフォード……!  気高き魔法師候補生のはずですのに……っ!  なぜ、なぜこんな、男子たちの前で……っ、触手で、こんな……ひ、あぁぁぁぁっ!?  魔力が……私の中から、無理やり引き抜かれていく……っ!  熱い、熱いですわ……っ!」


 触手を通じて全身を駆け巡る痺れは、もはや痛みなのか快楽なのかの判別を許さなかった。

 魔力を強制的に吸収される衝撃は、彼女の神経系を直接的に蹂躙し、身体を自由にするための信号を全て、甘美な絶望へと変換していく。


 ルクレツィアが、これまでの人生で培ってきた、クロウフォード家の誇り、英国の威信、そして一人の淑女としての自尊心。


 それら全てが、魔力と共に触手へと吸い取られ、ネメシスという底知れぬ捕食者の糧となっていく。

 そして体内の魔力を九割ほど吸収された彼女は、人形のように脱力した状態で地上へと下ろされてフィールドの地面に膝をついた。


 既に触手による拘束は解かれていたが、ルクレツィアは自力で立ち上がることができない状態。

 魔力回路への接続が切れた後、彼女の全身から力が抜けていた。

 膝が地面についている。両手が体を支えるために地面に触れていた。


 金色の波打つ髪が、顔の前に垂れていた。

 サファイアブルーの瞳が、地面の一点を見つめている。

 しかし、焦点が定まっていない目だ。


「た……立てませんわ……」


 ルクレツィアが呟く。それは独り言に近い声だ。


「足に……力が入りませんわ。魔力回路が空になったみたいで、身体の制御が上手く……」


 下唇を噛み締めながら必死に立とうとするが、その意思に反して彼女の足は動かず声は途中で消える。

 ほとんどの魔力を吸い尽くされ、地面にへたり込んだルクレツィアの視界は、弱々しく揺れていた。


 魔力は魔法師にとって、身体機能の一部と連動している。

 その魔力の大部分を短時間で処理されたことで、彼女の身体機能そのものが低下していた。

 呼吸は浅く、視野の端が滲んでいる。


「これが完全な敗北、ということですのね……」


 俯きながら消え入りそうな声でルクレツィアは呟く。

 そしてネメシスが、彼女の前に膝をついた。目線を合わせる形で。


「おい、ルクレツィア」

「……なんですの」

「一つだけ、やることがある」

「なにを……ですの?」

「NMSウイルスの感染処理だ」


 手を自分の顎下に当てながら彼は淡々と告げた。それを聞いて、ルクレツィアの目が、わずかに動く。


「感染? 私が、ウイルスに……?」

「魔力回路への接続中に、微量だが移行した。意図したものではないが、放置すると第一段階の症状が出る。身体能力の低下と魔法制御の乱れだ」

「今の状態が、それ、ということですの……?」

「第一段階の初期症状と、魔力消耗の両方が重なっている状態だ」

「ウイルスのワクチンは……?」


 少しの間を置いてから彼女は、表情を恐怖の色に染めながら尋ねる。


「安心しろ。俺しか作れない。ゆえに問題は何もない」

「ど、どうやって、投与しますの……」

「ああ、簡単なことだ。貴様の口に直接ワクチンを投与する」


 背部の触手たちを、小刻みに蠢かせながら、ネメシスは口角を上げて答えた。

 そして、観客席は完全に静まり返っている。


 二千人以上が、フィールドの中央で膝をついた二人を見ていた。誰も声を出す者はいない。 

 そしてネメシスは、背中に力を込めて新たな触手を一本、細く生成した。


 その触手を軽快に操り、ルクレツィアの顎に触れる。

 それは強制的ではなく、ただ支えるように優しく。


「おい、貴族令嬢。大人しく口を開け」

「……本当に、ワクチンですの?」

「そうだ。俺の細胞から生成した抗体だ。NMSウイルスの完全なワクチンを作れるのは俺だけだ」

「……なるほど。国家がそれを管理したがる理由が、よく分かりましたわ……」

「ふっ、そういうことだ」


 鼻で笑うように、ネメシスは軽く返した。

 そしてルクレツィアは少し間を置くと、ゆっくりと震えながらも口を開く。


 ネメシスは人差し指を彼女の口へと近づけ、親指の爪で皮膚を軽く裂き微量の体液を流す。

 それは透明に近い、わずかに粘度のある物質。

 それがルクレツィアの口の中に流れ落ちるように投与された。


「よく味わって飲め。貴重なワクチンだからな」


 不敵な笑みを浮かべるネメシスだが、人差し指の傷は即座に修復されて完治する。

 そしてルクレツィアは恐怖心を押し殺すように目を閉じ、口内をくちゃくちゃと生々しい音で満たす不穏な液体を屈辱とともに咀嚼していく。


 特異な風味と匂いを舌で完全に味わい尽くさせられた後、彼女は喉を大きく鳴らして一気に嚥下した。

 その数秒後、ルクレツィアの全身を駆けていた痺れが、少しずつ引き始める。


「感覚が、戻ってきておりますわ……」

「ワクチンが回路に作用している。五分で完全に解除される」

「魔力は……?」

「戻るのに時間がかかる。今日中には戻らない」


 大きく肩を竦めながらネメシスは返した。

 そしてルクレツィアは、地面についていた手を、ゆっくりと持ち上げる。

 自身の指先を見た。震えが、少し収まっていた――そう思った、次の瞬間だった。


「あ、え……っ!?  な、何ですの、これ……ッ!?」


 細胞に染み込んだネメシスの抗体が、彼女の空の魔力回路と激しく拒絶反応を起こす。

 あまりの激痛と、それを遥かに凌駕する猛烈な快感の濁流が、ルクレツィアの脳を直に貫く。


「ひ、あぁぁぁぁぁぁっ――!」


 気高き令嬢の口から、これまでにないほど凄絶な絶叫が迸った。

 あまりの衝撃に、サファイアブルーの瞳は完全にひっくり返り、背中が弓なりに跳ね上がる。

 全身の神経が極限まで狂い咲き、下着すら奪われた無防備な生足が激しく痙攣した。

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