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 『食の祭典』の舞台となる商業の街ビトーニヤは食料品だけが魅力の街ではない。あらゆる種類の物品、人材、情報が飛び交い、その密度と賑わいは帝都に並ぶとも囁かれている。『中央大陸の心臓』の異名は伊達ではなく、食料品の潤沢さが優先的に宣伝されているのは単に聞こえが良いからに過ぎない。そんな街であるから衣料品の品揃えも幅広く、各店は『食の祭典』の開催も相まって多数の商品を入荷していた。


「……そんな街だから、ミーシャに似合うとっておきの服だって絶対見つかるって寸法よ」

「す、すごい説明口調……」


 パティは全ての女性の味方である。そして責任感が強く、子供に優しく、面倒見が良い。と自分で思っている。だからこそ売りに出された時の簡素で地味な衣服のままでいるミーシャの事を放っておけない。格好を誤魔化すためにパティのマントを貸しているものの、端から覗く質の悪い生地は悪い意味でマントと浮いていた。


「そんな悩みももう解決よ!各種耐性を取り揃えた布地に魔力循環を補助する魔石製のボタン、そこらの雑魚魔物の牙じゃ傷一つ付かない防刃ローブ!なにより防御力とかわいさを両立してるのがこの店の売りね」


『食の祭典』、もといテロリスト連中との決戦を前日に控えたタイミングでパティとミーシャはビトーニヤの一角に看板を構える仕立て屋に足を運んでいた。ケースに並べられた色とりどりの装飾品の中から一際綺麗なボタンを取って渡してやると、ミーシャは両手で恐る恐る受け取った。


「うわあ……可愛いボタン……!。で、でも、私なんかが付けて似合うんでしょうか……?」

「自分に『なんか』って使うな。それに人に合う服はそれぞれで千差万別って言うけどね。ここは受注生産も含めれば万とか億とか、そのくらい揃ってるんだよ?ミーシャに似合う服はいくらでもあるよ」

「は、はい……。でも、このお店はお金もかかりそうですし……。ここじゃなくても良いかな、なんて」

「子供がお金の心配しないの。お金はリオ、っていうか国が出すから。法律で『犯罪被害者保護ナンタラ法』ってのがあってさ。ミーシャみたいな子が普通の生活に必要な物は国がお金を補助してくれるの。だからそっちの心配はいらない。そもそもこのお買い物はリオに頼まれたからでもあるの」

「へ、へえ……。リオさんが。それは、嬉しい、です……」


 リオ、という言葉が出た途端にミーシャの警戒心が緩むのを感じる。全く分かりやすい子だ。


「ちょっとちょっと、アッシュとモンブラン作ってた時のテンションはどうしたの?似合う服はある、買うお金もある。無いのはミーシャの心一つ。今がその捻じくれた自己肯定感を引き伸ばす第一歩よ」

「は、はい。私も素敵な服が欲しい、です。でもどんなのが似合うかとか、そういうのは分からないので、手伝ってほしい、です」

「まかせな。ついでに杖と魔石も見繕うよ」


「で、ドレスタイプのローブにマント、ブーツにバレッタ。下着に杖と魔石も買い揃えたと」

「そうよ、防御力だって、そこらの騎士団より鉄壁になったでしょうね」

「それは良いことさ。本当に。で?この0が沢山ついた請求書は……?」


 仕立て屋からの請求書はそれ自体がそこらの用紙とは異なる質感と手の入った意匠が施されている。やはり高級店は紙ぺら一枚にも違いがでるものだ。


「そりゃ質には値段が伴うからね。無駄な買い物じゃないでしょ」

「これ多分保障の適用外だよ」

「は!?騎士団と帝国は国民の生活を守らないっての!?」

「常識の範囲内なら帝国だって喜んで払うだろうけど、この値段は度がすぎるよ。馬車を新車で買えるくらいあるじゃないか」


 流石に無理があったと自覚していたのか押し黙るパティに、リオもため息を隠せない。女性同士なら話しやすいだろうと考えていたが、パティの金銭感覚については全く考慮していなかった。返品も手か、とリオが提案しかけた瞬間、テントの入口が勢いよく開いた。水色の髪をした長身の青年はぬるりと二人の間に割って入った。


「やあ二人共。さっきミーシャちゃんを見かけたんだが新しい服が随分お気に入りの様だったね。時にパティ、君に貸してた世界樹の弓なんだが、昨日背中に掛けてなかった気がしてさ。それに裏マーケットに世界樹の弓が一張流出したって話を聞いたんだが……」

「あ゙あ゙ーっ!そんな話なんて知らない!弓とか似たようなのがいくらでもあるし!それとリオ!ミーシャに買ってあげた分はアタシが全部払うから!じゃ!」


 矢継ぎ早に言い残して疾風の様に逃げ去るパティを、二人は呆気にとられて見送った。


「ジャックさん、パティの弓ってそんなに高価だったんですか?」

「あれは東大陸にある『世界で一番古い』と呼ばれる木の枝を素材にしたやつでね。切り出した年代にも寄るけど人によっては全財産使ってでも手元に置こうとする逸品さ。それこそ貴族用の高級馬車が買えるくらい」

「そんな凄い弓をなんで手放して……、いや、あのオークションまでは持って……、まさか」

「理由までは聞かないさ。パティは何も考えずに行動するタイプじゃない。ただ何故だかよく誤解されるんだよなあ」

「それは……なんででしょうね」

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