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決闘の結末

「決闘は一本勝負、時間と場所の制限は特になし。距離は30メートル空けた状態。2人共、準備はよろしいですかぁ?」

「はい!」「もちろん!」

「騎士団本部カナン隊副隊長プリシッラ・ランベルディア立ち会いの元、カナン隊所属シンシア・フルフィールと、サマナ支部リオ・アーネスの決闘を執り行う。両者構えて……、初めぇ!」


 形式通りの開始宣言を唱え終え、プリシッラは二人の決闘を見守る形に入った。


 子供を救う任務の中で子供の安否を度外視したと主張するシンシアに対して、それでも外敵を排除するために限られた中で最善を尽くしたと反論するリオ。どちらの考えも正しく正義であり、そして正しく青い。


 どちらも正義なのであれば、あとは感情だけが物を言う世界だ。二人が戦いの中で何を見つけ、どうやって自身の気持ちに折り合いをつけるか。何にせよ、プリシッラにはどちらでもいい話だった。


 二人は宣誓の合図の後も睨み合ってその場に留まって互いの出方を伺っている。15で、共に感情が昂っている割には冷静だ。シンシアはリオの優れた魔法出力を、リオはシンシアの本部所属という肩書を警戒して実力を見定めようとしている。


 それでも我慢の限界が来るのは早い、先に動いたのはリオの方だ。口許で小さく魔法を唱え、前方に高さ4メートル弱の氷壁を数個、隙間なく視線を防ぐように展開した。だがその程度ならシンシアの想定内だろう。


「来たわね。喰らいなさい!シャイニーベル!」


 シンシアはリオと対照的に大きく叫び、軽やかな音色と共に白黄色の剣閃を氷壁に向けて撃ち出す。剣閃と衝突した氷壁は音を立てて崩れ、吹いた風がシンシアのサイドテールを微かに揺らぐ。


 きっと、シンシアの脳裏には悔しがるリオの顔が浮かんでいたのだろう。だが、形を失って霧散する氷の向こうにはリオの顔はおろか、その人影すらも存在してはいなかった。


「くそっ、見失った!ああもう!出てきなさいよ腰抜け!」


 即座に相手の動きを崩そうとする動きは良いが、距離を縮めない辺り、まだまだ詰めが甘い。だから最善手のつもりでも一歩遅れるし、今も本来は格下の筈の相手を見失う。


「ノコノコ前に出るわけないだろう!?グランフリーズ!」


 先程までリオが立っていた位置の後方、木々に隠れた森の奥から声が響く。と同時に冷気が木々の隙間から漏れ出し、幹を氷結させ、空気を尖らせ、空き地を覆い尽くさんと広がる。


 中々の大技だ。消耗も激しそうだが、チンピラをその場に留めて一網打尽にするには充分だろう。彼は最低限の護衛を置いた少数対多人数の戦闘が適正なのかもしれない。だが、この場においてその選択は。


「舐めすぎよ、リオ。ユーフォニウム・ブライト!」


 先程よりも肥大化した閃光が一直線に打ち出され、地面を抉りながら鈍い低音を鳴らして突き進む。冷気の波やちょっとした大木では話にならず、円形だった空き地がとんがり帽子の様な形状に開拓されてゆく。


 とんがり帽子の先にあたる部分、シンシアの剣閃が収束した地点には、杖を前方に構えたリオが仁王立ちで構えている。シンシアの技に正面から対処できない事は理解しただろうに、それでも真っ向から勝負しようとするのは彼の意地か。対するシンシアも片手剣を握る右腕を一回転させて上段に構え直し、空いた左手で頬を叩いた。彼女なりの気付けなのだろう。


「素直と言うべきなんですかねぇ、2人共。リドネが相手なら初手で終わってますよ」

「茶々入れないでプリシッラさん!大丈夫、私絶対に負けませんから」

「うん。ならそのために全力を尽くしなさい」

「分かってます。救うべき人を蔑ろにして自滅して、それでベストを尽くしたなんて。そんな話聞いて我慢してられませんよ。そんなやり方続けてたら、きっと何処かで潰される。だから、私が今ここで叩き直します」 

「立派。それなら私に気を回さないで、リオ君だけに集中なさい」

 

 なんだかんだと持論を振りかざしてはいるが、結局の所、シンシアはリオが羨ましいのだ。


 カナン隊長には真面目だの優秀だの褒められるシンシアだが、全ての称賛には『新人の割には』という枕詞がつくことを彼女は嫌というほど理解している。他の新人の様にモンスター相手に慄きもするし、初歩的なミスも定期的に起こす。


 無論こちらとしてはシンシアの裁量で発生するミスなどたかが知れている。と言った所で、入隊1年目から隊長補佐に抜擢という期待と、自身の実力の狭間で当人が悩むのは避けられないだろう。


 そこに現れたのがリオだ。本部に比べれば緩い支部で優秀だのと持て囃され、自身の選択をベストと言い張れるメンタルも持ち合わせている。おまけに同い年。今回自分が助ける側に回ったことで、シンシアはリオを通して自分の未熟さを見せつけられている様な気分になったのだろう。ついでに予想するなら、リオはシンシアと話して自分の力不足や不甲斐なさ辺りを実感したのかもしれない。


 と、プリシッラが長々と思案した内容は恐らく的を得ている。その辺を話せばこの下らない決闘自体は終わるだろう。とはいえ、


「余計こじれそうだよなぁ。全く、思ったより長びくし、負けた方のケアもいるんだろうな。私はカナン隊長にはなれないなぁ」

「やはりそう思うかプリッシラよ。戦況はどうなってる?やはりシンシアが優勢か?」

「!?……どうも隊長、それにリドネにアッシュさんも。話は無事に終わったんですね。シンシアも頑張ってますがリオ君も中々ですよぉ」

「へえ、そりゃ期待できる。お、また状況が動くぞ」


 4人の眼前では再び氷塊と閃光が衝突し、冷気が頬を掠める。2人は互いに動く様子はない。中距離で撃ちあいつつ様子見でもするつもりだろうか。それは余りにも悠長だ。救援が見込める実戦や目的が敵の討伐出ない作戦ならともかく、1対1の決闘を制するのに手っ取り早いのは速攻による短期決戦。何より観戦する身から言わせれば退屈だ。プリシッラはため息をつき、横に並ぶ3人に意見を求めた。


「2人のどっちかと戦うとして、皆さんなら何秒かけますかぁ?」

「俺なら5秒だ。女の子の方はよく知らないが、剣士ならどうせ矛でのめして終わりだ」

「私の足なら3秒で終わるね。彼らの魔法や剣技なんて出す暇も与えない」

「じゃあ私は1秒で!」


 明らかにふざけているリドネは無視するとして、残りの2人の見立ては概ね正しい。シンシアもリオも年の割に強いのは確かだが、それでもカナンやリドネには遠く及ばない。体力も判断力も無く、そして何より足りないのは実戦経験。先程から中距離戦に切り替わった本当の理由を、プリシッラはなんとなく察していた。


「シャイニーベ……、ぐうぅ」

「グランフリー……がっ」


 2人は息切れをするかのように言葉を詰まらせ、武器を落として両手で胸を押さえた。しばし息を荒げて堪えているようだったが、やがて力なく膝から崩れ落ちた。遠目に確認した限りでは両者共に意識を失っている。お互いにいがみ合っている割には、面白いくらいに息の合った最後だ。



「おやおや。……まあ、新人の決闘の結末にしては妥当なんじゃないか。プリシッラ、決闘者はいないが一応形式通りに」

「ええ。ゴホン、両者とも、魔力放出過多による意識喪失。よってこの決闘の勝者はなし。全く情けない、これが他の隊との訓練だったらとんだ恥さらしですよ」

「まあいいんじゃないっスか?情けなくても気を失うまで戦ったんだ、気は済んだでしょ」

「取り合えず2人を街まで運びましょうや。俺が馬を連れてくるんで、擦り傷なんかの手当てをやっとってくださいよ」


 どうにも歯切れの悪い決着だが、プリシッラは内心安堵していた。きっと他の3人もそう思っているだろう。この結果はカナンの言った妥当、という評価が正しい。2人の戦いはどちらが勝っても遺恨を残していただろう。ここで2人の間に単なる力の序列を作ってしまうのはよろしくない。プリシッラから見れば下らない決闘だったが本人達には真剣そのもの、リドネの言う通り気が済んだのなら今回はそれでよい。


「いいんです。そうやって課題にぶつかってやられるんですよぉ。失敗や悩みを成長の糧にするんです、シンシア」


 こっそりと囁いたプリッシラの言葉を、聞いた者は誰もいなかった。

 


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