Deviance World Online エピソード7 『圧勝』
INT、それはプレイヤーの知能を示す数値である。
そして勘違いしてはならないのだが、コレは決して知識量や賢さを示す数値ではない。
これは脳が働く数値、脳が情報を取得し処理する際に求められるスペックを数値としている。
理性を以て働かせる処理ではなく、全ての生物が無意識に行っている基本的な処理。
ソレを底上げする数値であり、そしてあらゆる魔法的処理の負荷を軽減することを示す数値。
AGIがどれ程高くても音速が出せない、あるいは音速を制御できないのはこのINTが低く脳が情報を処理できないことに起因する。
「速ッ、!!」
INT700に迫らんとしているロッソは、完全には無理でもソレに迫るだけのAGIを制御可能だ。
とはいえそこまでINTに特化している性質上、ロッソのAGIは非常に低い。
ソレはなんと脅威の10、まずまず歩行することもままならない速度。
だがしかしロッソはそのステータスの低さを補うため、ワルキューレの肉体を装備している。
ゆえにステータスだけで見れば、完全前衛職である彼らを圧倒するに至っていた。
「『構え』『突進突き』」
「『マジックシールド』」
もちろん、デメリットもある。
この肉体では数多い肉体を起点とするスキルを使用できなくなっていた、分かりやすいモノであれば『緊急回避』や『大切断』など。
魔術師職でも扱いやすい回避スキルや攻撃スキルを多きく制限されてしまったのは分かりやすい痛手であり弱点、だがソレを補うための魔術。
そもそもスキルだって大本をたどれば魔力を用い実行するモノ、結果が同じなら別段魔術で補ってもよいだろう。
「『レールガン』」
右腕を突き出し、内部に格納された鉄球を魔術によって加速させ射出した。
大きさ10mm程度の鉄球、捌くのは容易でない。
だというのにパーシヴァルはその弾丸を槍で弾き、巧に反撃へと移る。
技前という奴か、技巧極まったその動きは完璧に等しいカウンターへとつながるだろう。
だがその技術を披露すべき相手が悪い、彼女は。
ロッソは魔女だ、魔女に正攻法で立ち向かっては勝利を得るなど夢物語に等しい。
その攻撃を見透かしていたかのように左腕を変形させ、内部に格納されていた毒の刃を突き出す。
弾丸よりも弾きやすい攻撃だろう、ただしその質量と速さを考えなければ。
回避はできない、いやさせない。
鋭く迫る一撃へ確かに避けることを達成した、僅か薄皮一枚を切り裂かせ。
「『対価魔術』、ねぇヒュドラの毒って知ってる?」
「────まさか」
「死の概念を織り込んだ猛毒、皮膚接触でも十分死ねるわ。毒物としては最悪の部類、殺すことしかできないだけの毒。この刃に塗ったのはソレの希釈版よ、効果は多少落ちたけど致死性は一切変化しない代物ね」
「『リファイン』ッ!! 『フレッシュ』!! クソッ!!」
HPなど削れない、ただ肉体が一気に変色し力が入らなくなる。
即死の状態異常であり絶死の猛毒、モルガンやロッソが用いる最上級の解毒魔術や対状態異常魔術。
あるいはアルトリウスの仮想属性による属性無力化を用いなければ即死効果を無視するなど能わず、一瞬にして命を刈り取られる。
そんな猛毒を前にし、さらには対価魔術によって効果を底上げされている状況であるにも関わらず未だ死んでいないのは頑強にもほどがあるという話だ。
「パーシヴァル卿ッ!!」
「『騎士の拘束』、ッ!! 殺せ!! もう形振り構うな、『混沌たる白亜』はキャメロットにとって最大の障害となるッ!!」
「あら、随分遅かったわね」
きっと、その判断を下すのが遅すぎた。
遊んでないのだ、騎士ごっこをしてオンラインゲームで悠長に遊び戦っているわけじゃない。
この一か月、毎日ログインし毎日擦り切れるまで下準備と工作を重ねキャメロットに勝るよう様々な準備を整えた。
文字通り遊びで戦っていない、ゲーム時間を山のように積み上げ精神をすり減らしたかがゲームに本気となっている。
そうであるからこそ、この結末は必然であった。
「『マジックキャンセラー』、『インセプション』『オーバーリーサル』」
『騎士の誇り』や『騎士の決意』などの『騎士』系スキルは全て魔法攻撃、魔法防御など魔法的行動に分類される。
故にスキル『マジックキャンセラー』や『アンチマジック』などで解除しやすい、そもそも錬金術師という魔術系生産職相手に魔法攻撃が通用すると考えることが無謀に過ぎた。
そして失策を悟り、状況を回避する手段はあれども。
時間が、猶予がない。
「『チャージシールドインパクト』ォォォォォオオオ!!!!!」
「『クリエイト:ウォール』『チェイン』『サンドプリズン』、盾職が最後の方まで残るなんて皮肉な話ね」
「隠れるなッ!! 正々堂々と戦え、戦うんだッツツ!!」
「笑えるかしら、コレは十分正々堂々よ。正面へ姿を晒し対等に戦った、この程度の防御で正々堂々じゃないって言われたら失笑が漏れるわ」
そもそも、十分な猶予で殺しきれなかったのは貴方たちでしょう?
砂の牢獄に拘束し、自らが作り上げた壁へ磔刑に処せば左手を向けた。
今度は魔法『レールガン』を用いた鉄球による殺害などという生温い火力で仕留めるつもりはない、盾職はその程度では死なない。
用いるのは竜の息吹、科学でも錬金術でも魔術とて十分に発揮しえなかった最上の攻撃を。
この肉体でならばこそ、圧倒的な頭脳でこそ発揮できよう。
「『吐息』」
ちなみに、ブレスではない。
竜のブレス、いわゆる竜の咆哮や竜の吐息などの竜が放つ攻撃には足元にも及ばない物質的な攻撃。
腕の内部に固着させた竜の鱗へ、数千MPを注ぎ込み特殊な炎属性へと転換させ放つ唯の魔力照射。
だがそれだけで生半可には消えない死を具現化する、絶対的な炎を幻視させる。
かつて見た『黄昏の赤き明星』宛らに、北方の絶望が翳した終幕の光を。
「まだ、だっ!! 『我が盾よ、命となりて』」
「黒狼に言わせれば三流ね、死ぬタイミングを逃し無様に生きると惨いわよ?」
無理に生き残り、反撃を行おうと叫ぶ口とは反対に体は炎によって焼却され続けている。
やるべきだったのは戦いではない、行うべきなのは防御でも反撃でもなく撤退だった。
通信が断絶した、アルトリウスと連絡が取れない時点で即刻対比すべきなのだ。
今はイベント終了直後であり、キャメロット本陣にも十分な戦力が存在せず黒狼がワルプルギスを用い進行すると見せつけていた時点で守りを固めるべきだった。
キャメロットが、自らの勝利を得たいのならばだが。
「『レールガン』、どうする?」
「降参する、もうどうあがいたってこの場は私たちの負けだ」
「案外物分かりがいいのはどうしてかしら?」
「アルトリウス卿がいる、それにランスロット卿とガウェイン卿が応援に向かった。負けるわけがない、負けるはずがない」
ロッソは苦笑し、そのままレールガンを放った。
頭部がつぶれる、返り血が頬に付着し。
そして、呆れたように語る。
「無理でしょ、本気の村正を相手にして高々二人のトッププレイヤーで止められるわけがないのだから」




