Deviance World Online エピソード7 『錬金術師の極致』
実際、答えは用意されている。
世界は二つによって別つことが出来る、真実それが本当に答えであるのかは不明だが。
それでもロッソは確かに、そう考えていた。
「はは、受けてあげる。『錬金術:極』『錬成:黄金』」
────神よ、どうかこの哀れな鉛がごとき魂を
黄金のような輝きへ昇華させたもう────
人は醜く愚かだ、正解を求め失敗を重ね続ける。
その上に欺瞞に満ちた正しさを答えとするからこそ、人は愚かだ。
けれども例えその答えが欺瞞に満ちていても、鉄心を以て進み続ければソレは何時か正解となる。
世界にとっての正解ではない、自分にとっての正解。
世界は二つによって別つことが出来る、正しいかそうでないか。
ましゅまろは間違え、死んでいった。
だがしかしその最後まで自らの遺志があり、そうして沈みゆくことすら承知し。
誰の制止すらも聞かず、自らが得た翼で空を飛んだ。
たとえその先がどうしようもない破滅でも、彼女は自らの限界へ挑んだのだ。
「『素は土、素は肋骨、素は神の御業』」
モードレッドの刃は彼女を完全に両断し、彼女は確かに死んでいる。
口すら動いておらず血飛沫が地面に薄く広がっており、とてもではないが生きている様には見えない。
だというのに、詠唱がある。
「『錬成する、私は神を足蹴にしよう』」
神に至る、というのは複数の条件や状況が整わなければならない。
ソレは全て容易なことではなく、普通の人間では。
いいや、正しく言おう。
神に至るのは酷く容易い、全ての条件は盲目的に神へ全て差し出せば達成する。
だがその果てにあるのは人としての尊厳なき、神の従僕。
モノを知らぬ徒、重さ無き神威。
死することのないだけの道化、でしかない。
「『酸素39kg、炭素11kg、水素5.7kg、窒素1.9kg』」
神に挑む無法を、神ならざる人が神域へ至る足掻きを。
何百と費やした時間を、何千と試行した失敗を。
そのすべてを費やしてもう一度、実験をしよう。
「『揺籃から常世へと降り立つは、我が魂の結晶なり。【賢者の意志】』」
ロッソのレベルは98、だった。
だがこの短い戦闘において経験は錬磨され、鋭敏となる。
彼女のレベルはすでに99を越え始め、100に届かんとしていた。
そしてまた、彼女もソレを自覚していた。
プレイヤーが持つ長年の疑問として、進化とはなんなのかという話がある。
DWOは限りなく現実に等しく、あるいはもう一つの現実世界と称してもいい。
故にゲーム的要素以外にも、進化というモノが何か重要な役割を担っていると考えられていた。
問題は、何を担っているのか。
結論、進化が担っているのは人類の先鋭化と劣化である。
本来は数世代に渡り、細胞による体の組成を変化させ新たなパーツを得るのが進化だ。
一世代では成し得ない、種としての昇華を前提に置いた生物の歩み。
だがその種としての昇華を殴り捨て、ただ一人の個人が未だ嘗て誰も辿りついたことのない領域へ迫らんとする。
進化というよりは変態、肉体の在り方そのものを歪める変化。
自らの肉体に蓄積された経験へ、肉体を適合化する行為をこの世界では進化と呼ぶ。
人間種において、その昇華に求められる最低レベルは100。
積み上げられた100の経験を全て自らの身体を鍛え直す炎とし、存在としての上位化を図る行為。
ソレによって多大な弱体化と、ソレを上回る圧倒的な才能によって世界に再び降臨する。
「種族名、人造人間。生まれ変わった気分ね、色々と?」
空中に突如現れたフラスコを、機械の腕が掴んだ。
上半身が縦に裂け、内部が露出したソレの中にフラスコが入れられる。
ぎこちない動きと共に起き上がり、形容し難いソレは人型へと変化した。
黒狼や、ドレイクにとっては見覚えのあるボスの姿へと。
「進化……、したのか?」
「進化? そんな甘いモノじゃないわよ、言うなれば変態。昆虫が羽化するのと同じく、肉体の構成そのものごと作り変えたの。今の私の本体と言うべきモノはフラスコ内に漂う赤子そのもの、殺そうと思えば簡単に死ぬ程度の存在よ」
喋りながら身体の動きを確認するかのように、一歩踏み出す。
いや、踏み出した瞬間までしかモードレッドは認識できなかった。
上下が、反転してる。
世界が回転しながら、視界が大きく揺れ。
何が起きたか理解する猶予もなく、踏み潰された。
「うーん、流石はボス。素体のレベルが違うわね、動きやすさが圧倒的に高いわ」
腕の中から現れた2本の刃、そこには血液が付着しており。
何が起きたか、日を見るより明らかな答えに対して理解したくないからこそ。
納得が出来ないからこそ、ギャラハッドは叫ぶ。
「あの一瞬で、モードレッドの首を落としたと言うのですかッ!!?」
「剣聖の動きをラーニングしておいたの、とはいえ彼女とは違うけどステータスにモノを合わせた音速の斬撃。どう? 凄いでしょ、天才の技すらもこうして容易く再現できるのだから」
演算と学習、データは村正経由で無数に撮れた。
ロッソには近接戦闘の心得などない、モルガンよりマシと言うのも歩けば棒に当たる運動音痴よりはまだマトモと言うだけであり黒狼や村正などの元来動ける側の人間と比較すればさほど上等な動きができるわけでもない。
だがソレは自分の経験による技能の問題、結果さえ得られれば良いのならばだ。
そもそも完成された結論から逆算し、身体の動かし方をデータへ変換。
そのまま、寸分違わず動かさせれれば良いだけの話。
「ソレが狙いだったのですか、『ウィッチクラフト』」
「最初から狙っていた、って言う話ならノーよ。そもそも正規の進化っていうのは条件が厳しすぎてとてもこの戦いの前に満たせる気がしてなかったし」
だが偶然にも満たしてしまった、幸運にも満たせてしまった。
はっきり言って未知の領域、プレイヤーでは誰も到達したことのない種族にロッソ自身もワクワクが抑えられない。
何が出来るのか、あるいは何処までできるのか。
自分でも把握できない圧倒的なスペックに、どうにも興奮が隠せない。
「けど私目線これで五分、なるほどね。黒狼があそこまで入念に準備する理由も分かったわ、確かに万全で予想通り想定通りなら勝てない」
消えゆくモードレッド、彼女の王剣が一際強く輝く。
刃から光が溢れ暴発する、回避はできない。
いや、回避などする必要がない。
そう言わんばかりに右手を広げ、そのまま結界を広げた。
「馬鹿な……、最低でもVIT500は必要なはずッ!! それを無詠唱の結界でだなんて。進化直後の、レベル1の人間が出来ていいわけがないッ!!!」
「だって、INTが700近いもの。私の魔術出力は相応に上がってるわよ、当然防御魔術も攻撃魔術も」
さて、戦いを再開しましょう? そう言うように微笑みかけ。
次の瞬間、土煙が舞い上がる。




