Deviance World Online エピソード7 『錬成』
不味い、と私は思った。
思考時間がさらに引き延ばされる、ゾーンに入ったというヤツだろうか。
或いは走馬灯? 疑似的にでも命の危険を感じている、と言うのが原因だろう。
穂先が私の目の前、数センチに迫っている。
「『転移』」
私、ロッソは思わず安どのため息を吐いた。
余裕はない、死ぬかと思う一瞬だ。
いや死んでいた、わずかに残った『思考加速』の時間がほんの一瞬を稼ぎ助けたのだろう。
安堵のため息を吐いて、そんな暇がない時を引き締める。
「本の、項を破り捨てた?」
「危ないところだったわ、魔石を一つ消費したじゃない」
とりあえず1人は落ちたわね、コレは行幸。
二人目も早く落とさなければならない、5人だけだったといっても相手は円卓だ。
余裕はないのだ、と自戒した瞬間だった。
「は?」
確かに、違和感はあった。
違和感は間違いなく存在していた、だから絶対の回避を行ったというのに。
みるみるHPが低下している、とてもじゃないが完全に攻撃を回避したときの減り具合ではない。
全身の穴と言う穴から汗が溢れている、何をされたのか分からないというのはとても言葉では言い表せない恐怖なのだ。
「『ポーション術』『回復力向上』、っぅ、、、ッ」
ダメだ、ポーションじゃ庇い切れない。
持続回復でHPの減少と対抗したが、やっぱりポーションの等級が低すぎる。
技術の限界を感じる、歯痒さを噛み締め魔導書のページを破く。
この本は闘技大会で使った黒狼の本と同じ代物であり、あるいはそのアップグレード版。
魔力を一切使用せず、一部以外は詠唱や宣言も全く必要がない。
その中にある回復の魔術を使用し、無理矢理命をつないだ。
ポーションなどの使い切りアイテムにリソースに限界がある決闘でもなければプレイヤーは早々死なない、互いのインベントリに詰め込んでいるリソース勝負になる。
「……マジか、あのコンボを受けたらさすがのアルトリウスも死ぬ前に殺しきる方針に切り替えたんだぞッ!!」
「ハハッ、底が見えたわね!! で何方が勝ったの?」
「アイツを除く円卓12人の負け、ってナニ喋ってんだ!! オマエの仲間じゃねェんだぞ!!」
底、見えたかしら。
バケモノ過ぎてなんか馬鹿らしくなる、とはいえこの雑談で性質は分かった。
多分攻撃の雰囲気から固定量を減らすんじゃなくて割合減少の攻撃でしょうね、それもスキルやアーツとは別物。
魔術が近いのかしら? となると、村正の刀剣を用いた魔術と同類か。
うーん、止められないわね。
アレって理屈があやふやで正確な攻略法がないのよね、魔力に直前干渉したら止められるけど逆を言えばそのレベルまでしなくちゃならない訳だし。
発動後はまずまず制御不能、私もモルガンも出来たためしが無い。
いや、私は一度だけあるけど再現性が無さすぎる。
曲芸の領域ね、まぁ何処かの北方の傭兵はソレで転移魔術に干渉してきたらしいけど。
「耐久戦封じとか嫌らしい攻撃ね、貴方を殺したら解除されるかしら」
「生憎と、とだけ言っておこう」
「そう? 私の見立てじゃ、その槍がインベントリに移動した時点で無効化されると思うのだけど?」
返答は槍、か。
まぁ私でも答えない、ソレに可能性だけならどちらもあり得る。
武器製造も専門内だからよく分かるのだ、一部例外とでも言うべき力を持つ武器は空間や距離を無視して効果を発動すると言うのは。
分かりやすいのは黒狼の持つ水晶剣、アレは何処に存在してようと世界ごと上書きしても破壊されない。
ゲームシステムや世界の法則を上書きしてるのでしょうね、変わらないというのが絶対の結果として出力されてる。
あの武器もその類かもしれない、まぁ違う可能性もあるけど……。
「外れ値って嫌ね、存在するだけで前提を書き換えなきゃいけない」
「君みたいな優秀な人間も、またハズレ値だろう?」
「あら、言ってくれるじゃない。『ゲシュンク・ギフト』、ありがたく受け取りなさいよ」
「『マジックキャンセル』」
カウンター気味に放たれた魔法つぶしのスキル、そこから馬ごと突っ込んでくる猪突猛進な挙動に対し詠唱を無視して防御結界を張る。
一人減ったという事はそれだけ、警戒すべきリソースを減らせるという事。
長期戦になって消耗するのは私も彼らも一緒だ、むしろ一人で五人分のリソースを削る必要がある私の方が消耗は激しい。
激しい近接戦を行わないからこそスタミナに余裕はあるが、それは積極的に攻めへ転じてないトリスタンやギャラハッドにも言える。
遠距離職が同じぐらい近接攻撃を仕掛けてこられたら、ソレこそ堪ったものじゃないけれど。
「『迅速迅雷』!! 『フレイムスラッシュ』、だらぁぁぁアアア!!!」
「『人馬一体』『体勢回復』、『五月雨突き』」
「ああもう!! 鬱陶しくて仕方ないわねッ!!」
文字通り馬力が違う攻撃を放つパーシヴァルに、範囲魔術で適当にとらえられないモードレッドが邪魔だ。
それに無数に用意したはずの『SNS』もかなり削られている、いやこちらは仕方ないか。
個体個体で自立思考しているわけじゃない、事前に組んだプログラム的な奴による反応で処理している関係上もとよりトーテムポール程度の役割しか期待していないのだから。
まだ逆転はたやすい、確かに私が使える手段は豊富だ。
この程度の逆境を超えられない、なんて私の経験とプライドが許さない。
いいや、しかし。
まだ四人いる、あのスキルを切るには少し分が悪すぎるでしょ。
自力で逆転しろ、となれば難易度はやはり高い。
インベントリ内にレーザー砲を収納しつつ、モードレッドのクラレントを受け止めた。
ミシッ、と嫌な音が手から伝わる。
耐久度の限界が迫っていることを示していた、完全に防ぎきれず杖を使ったのが不味かったわね。
「やっぱりパーシヴァルを先に殺さなきゃダメね、このデバフ? も厄介だし」
HPの減りが早い、ポーション効果は山なりに発生する。
さっきまでは拮抗していた回復量は、時間経過とともに衰えパーシヴァルのデバフが勝るようになるという事。
デバフを踏み倒す方法は二つ、アンデッド化するか神聖魔法みたいな祈りをささげるか。
あるいはポーションだけれど、コレは期待するべきではないでしょうね。
ポーションは特定の攻撃や魔術のデバフに対し、それに対抗する薬効を以て無力化するモノ。
システム的に優遇されてる種族特性みたいな特定優遇の効果じゃないの、誰でも使えるからこそ相応に不便さを伴っているわ。
その不便さを踏み倒すための手段もあるけど、ソレを実行するには設備と時間が足りないわけで。
どうにも勝ち目が見え切らない、勝ち筋を見出すのが難しい。
「仕方ないか、『錬成:爆薬』」
なら強引にでも引き出そう、その勝ち筋を。
爆薬を一瞬にして大量に生み出す、そして指先から出した炎で着火し。
一瞬にして、爆発させた。
「ハハッ、『カウンター』『クラレント』ォォォォオオオオオ!!!!」
広範囲に対する爆発、それはクラレントのエネルギー吸収によるカウンターを誘発する。
そしてこの攻撃はアイテムによる暴発の攻撃、私も十分にダメージを負っており。
いずれにせよ、その攻撃を受ければ私は死ぬ。
だが、ソレでいい。
「はは、受けてあげる。『錬金術:極』『錬成:黄金』」




