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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『終わらぬ夜の暗月』

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Deviance World Online 間話『正しい』

 この世界は、不純で未成熟で醜く汚らしい。

 だけども美しく尊くあるべきだ、私はそう思っている。


 科学者ロッツェ・バレニア・バレンタイン、三度改名した末の名前は存外口馴染みがよかった。


 名前とは絶対個人を示す記号にして符丁でしかない、だというが人は皆その名前を重視し本質を見ようとしない。

 醜く醜悪であるまじき人の姿だ、コレが私たちと同じ種であると思えば反吐が出る。

 本質こそが全てであり中身こそが答えであり、世界とは宛ら卵の内に溜まった黄身のようなもの。

 だというのにもかかわらず、無知蒙昧な彼らは外殻こそを重視するのだから。


「だから超越するべきだ、か。下らん、実に下らんな。()()()()()()()()、何処まで何を犠牲にするつもりだ」

「あら、分かっていますか? 今の状況を。今際の際で良くその言葉を言えますね、グロリア・センダン師」

「ハハ、だからだよバレンタイン君。君を育てた凡夫であり愚末の科学者の一端として言わせてもらうが、君は採るべきではないデータを収集した」

「ええ、私も分かっています。けど、知りたい」


 そう、私は知りたい。

 すべてを解明したいしすべてを理解したい、だから私はすべてを超越する。

 人間という枠組みを超越し、人としての寿命を超克し。

 世界を相手に、私は無謀の戦いを挑む。


「だから先生、私の邪魔をしないでください」


 乾いた音、手がジーンとしびれ返り血が生ぬるく私の体を冷やしてくる。

 その生暖かい感触は確かに認識ではなく理解という形で脳裏を焼き、私にささやかな興奮を授けた。

 何処までも冷え切っており温かみのない興奮、自分に対する諦めの感情として。


 ある種の憤りであり、自分自身への失望だった。


 私の先に道はない、そう突き付けられたのはコレが最初だ。

 研究成果ではなく人類の残虐性によって私は一つ目の証明を断った、可能性を遮断し自己証明を諦め研鑽を捨て去った。

 数十年が経過し今にして思えば若さゆえの過ちであったというのが分かる、主張は主張によって覆さなければならないというのに私は邪魔だと認識した師を撃ち殺すという手段を取った時点でやはり研究者として間違っていたのだろう。

 それでもあの瞬間は正しいと確信していた、()()()()()()と邁進するその瞬間は私は確かに正義だったのだ。


 人は外殻によってすべてを認識する、そこに本質が宿らないというのにだ。

 そんな事は在って成らない、私たち人間は中身を知り中身で触れ合うべきなのだから。

 だから私は脳の全てを暴こうとした、頭蓋に包まれた神秘を引きずり出し。


「先生、桜がきれいですね」

「……ええ」

「知ってます、桜なんて咲いていないんでしょう? 今は何月ですか? 明日は何日ですか……? いえ、大丈夫です。これもまた、僕の選択ですから」


 二人目は、私の研究助手だった。

 年若く才能あふれ、優秀だった彼は私の実験。

 そこで用いていた薬液により脳に障害を起こした、この会話も彼が死ぬ2か3か月前の物だっただろう。

 彼は地球で育ち、日本と呼ばれていた国に生まれた青年だった。


「死にたくない……、死にたくないよお母さん……」


 冷え切り骨ばった遺体は機械的に焼かれ処分される、ソレを見届けたときの私は不自然なほどに凪いでいた。

 一片たりとも申し訳なさは感じなかった、もとより私は他人に深い情愛を感じる人間ではない。

 行動の結果に憤りを感じることがあるとはいえ、才能の浪費に不甲斐なさを感じる事は在れども。

 その過程に過ぎない人の死に、何かを感じるほど精神が未熟(成熟)などではなかったのだ。


 ただ、彼の言葉は私の胸に突き刺さっている。

 可能性として彼を救える私ではなく、なぜ母の名前が出てくるのか分からなかったからだ。

 彼の母に彼を救える可能性はない、既に彼の母親は死んでいるのだから。

 だというのに、なぜ彼はつぶやいたのか私には到底理解できなかった。


 理解できないのは、私の研究が熟していないからだ。

 だから死体の山を堆く積み上げ、可能な限りの可能性すべてを考慮した。

 私が未熟であったのは正しく、見えていない理論や器官も多く存在し。

 人という神秘性の塊がより一層美しく感じられ、私は嫉妬した。


「嗚呼、完全とはどれほどに遠いモノか。ギーチェ・ウェンデルフィンの言葉です、知っていますか?」

「いいえ、興味ないわね。その前に実験結果のレポートは何処かしら、この話。もうすでに8回目なのだけれど? いい加減になさい、次はクビよ」

「そうやって、私も殺すんですか? 何のメリットもありませんよ?」


 この時は研究が行き詰っていた、というより資金繰りが上手くいかなくなり施設の劣化が始まっていた頃だ。

 彼女はスペースニアンでスラム出身、最も無能な癖に一番長く私の下で働くこととなった人間であり。

 最後は実験で心をやられ電脳麻薬にやられ、自殺した。

 過去の著名な人物を引用し主張と織り交ぜ私を批判する子であり、躁鬱状態を繰り返していたのだろう。

 20年ほど一緒にいたが、いつも同じ顔で楽しそうに私を馬鹿にしていたのを覚えている。

 最後は別の研究基地で働いてもらったが、死んだのはその時だったはずだ。


『ロッソさん、私はあなたが大嫌いです。私の親を殺し弟を殺し、けれど私は生きるために貴方の従僕となって働く私が嫌いです。貴方は世のため人のためと言いますがその無意味な殺人の果てに何が残るのでしょうか? 【目的は結果であり目的によって成果が得られることはない】という言葉を知っていますよね、貴方は何が目的でその過程で何を得ようとしているのですか? この無意味な実験を繰り返した果てに何が残るのですか? 教えていただけませんか、この世界に貴方が必要な理由を』


 彼女は私をロッソと呼んだ、血に塗れた赤だと。

 何一つ輝くことがない赤色、すべてを犠牲にするくせに何も手に入らない赤い手を持つ女だって。

 戯言だとわかっている、けれども彼女がそう叫んだ真意は分からなかった。

 事実を客観的に抽出すれば、私は彼女の家族の仇だっただろう。

 けれどもそれには語弊があり、彼女は自ら望んで家族を差し出した。

 十分な食事と満足な住居、そして不自由しない衣服の代わりに彼女の家族が実験台になることを許容したのだ。

 そうであれば彼女が真に批判するべきは自らであり、私ではないだろう。


「そう言って胡麻化すべきじゃない、わね」


 遺言として残された録音データを初めて聞いた時、私は後悔を重ねた。

 意味のない後悔だ重ねるだけ無駄でありソレが先に役立つものであるわけがない、けれどもこれが私なりの追悼であり私にできる唯一の報い。

 私の正しさこそが彼女にとっての怒りであり、彼女が知った不条理なのだろう。


 分かっている、だからその死骸を添えて私は先へ進むのだ。


 研究はその80年近い間で結論が出始めていた、人類の本質とでもいうべき21グラムは人間が持つ感情の側面をデータとして存在させるために生じる余剰のエネルギーだという答え。

 そしてまたソレが特殊な脳波形として存在し、干渉が可能であると。

 私と、そしてラヴクラフトは発見したのだ。

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