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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『終わらぬ夜の暗月』

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Deviance World Online 間話『始まらない戦い』

 黒狼にとっての最悪は三つあった、1つはアルトリウス足止めの失敗。

 2つはワルプルギスの運行停止、この2つは成立した時点で計画の完全な破綻を意味する以上これらを満たさない事が物語を始まるための最低条件だった。

 だから黒狼は三つ目の最悪のレベルを落とし、満たしても構わない程度の内容と断定する。

 その結果が引き起こしたのは、やはり"最悪"だ。


「かと言って、予防して防げるものでもないか」


 奇しくも、あの日と状況は真逆だ。

 傭兵が守り抜き、制したあの日と真逆に今度は黒狼が攻め貫かなければならない。

 今度は始めるためではなく、終わらせるために。


 だからこそだろう、黒狼を突き動かしていたのは笑えるほどの熱意だった。


 落ちた劇場、両足は砕けていそうだ。

 再生するまでにかかる時間も全て込み込みで5分、丁度作戦開始時刻ピッタリ。

 その間に致命傷を避け過剰な浪費をせず、耐え忍ぶ。

 たったそれだけで、初めて黒狼は盤面のポーンになれる。

 顔も形も姿もない、語るべき言葉も訴えるべき瞳もない顔の無い人間(ジェーン・ドゥ)に。

 だから黒狼は奥歯を噛み締めポーションを突き刺した、剣を構え口を歪ませ息を吐く。

 全ては全てのために、一つは一つのために。


「タイム、って認められるか?」

「オンゲーにポーズはねぇだろ」


 荒っぽい口調の直後、踏み込みだけで地面を破りながらモードレッドが突撃してきた。

 スキル『突進』、連鎖で『バーニングダッシュ』もか。

 地面を焦がしながら放つのは蹴り、空中で体の軸を捻り放った攻撃は確かに黒狼の顔面を捉える。


 反撃は、簡単なはずだった。


 無理矢理に、ではあるが剣によるジャストガードでダメージを極限まで減らす。

 体をひねり一撃の重さを逸らす、ただそれだけなのに腕が震えた。

 蹴りが顎を狙い穿つ、紙一重の回避を見せながらその背後より迫る突撃槍(ランス)の重みを知る。

 体が歪み骨が砕ける錯覚、いや実際にはそこまで威力などないだろう。

 けれども如何せん、重みが違いすぎている。


 地面を何度もバウンドし黄金の劇場、その壁に叩きつけられ止まるまでに黒狼は無詠唱で魔術を展開した。

 放たれるは揺らぐ水の刃、ザザザッと突き刺さる攻撃の連続はギャラハッドの盾によって完全に防がれている。

 戦いは数だ、数は力で絶対的な有利そのもの。

 黒狼もまた『顔のない人々』を用い自らが有利な数による圧殺を強いるのだが、けれど今は使用できない。

 いや、より厳密に語ればできないのではなく使用しないのが正しいのかもしれないが。


「正義の味方が寄って集って虐めって、痛む心はないのか?」

「テメェが素直に虐められるような人間ならなァ!!」

「ウルセェんだよ、お前」


 再び迫るモードレッド、放たれるは王剣クラレントによる怒りの一撃だ。

 先ほどの勢い任せの一撃よりも鋭く重い、重心移動と捻りを加えた攻撃だからだろう。

 柄にもなくおふざけ無しに悪態を着きながら、スキル『柔道』を発動させ『一本背負い』を成立させる。


 はっきり言おう、殺しきれる気がしない。


 彼ら彼女らの強さは全員トップクラスだ、少なくとも上位100名の中には入るだろう。

 それを五分間程度で殺しきれるだなんて舐めすぎだ、サラッと流しているがこの状況は間違いなく最悪に両足を踏み入れている。

 殴られ嬲られるのが精々オチ、それでもギリギリ成立するレベルで戦いを演じれているのは黒狼だからだろうか。

 まぁ、普通に両足と片手が使い物にならないのだが。


「煽ってんじゃねぇよ、こっちは泣きたくて仕方ねぇんだぞ? いやマジでさ」


 飛んできた糸の矢を認識してから肩を落とす、詰みだ。

 垂れた血液で糸の視認性が急速に向上し、また響く琴の音が絶望を与える。

 カッカッカッカッ、地面を叩く靴音とともに現れた正体は三つ。


 『遊鳴の騎士』トリスタン

 『太陽の騎士』ガウェイン

 『最優の騎士』ランスロット


 分かってはいた、分かってはいたがどうしようもない。

 全身から力が抜ける、だって文字通り詰んだのだから。


 割と、このままでは状況が打開せず黒狼は確実に死ぬ。

 あと五分あればすべてがひっくり返るだろうが、その後分を稼げるほど黒狼にも余裕はない。

 というよりそれだけの時間を与えてくれるかと言えばかなり疑問が残る、今なお拘束が増え地面にこれ以上なく縫い付けられている状況だ。

 それを完全な意識外から放つトリスタンの実力にも、そして完全な拘束を行っているというのに一ミリも油断していないガウェインとランスロットの存在があまりに邪魔すぎる。

 有体に言ってしまえば、黒狼は匙を投げたのだ。


「負けだ負け、無理無理。こっから大逆転は相当無茶があるって、いやホント」

「そういうのならば炎系統の魔術を展開するモノじゃない、必然こちらも警戒しなければならなくなる」

「何をする気か知りませんが、この糸に繋がれてまともに魔術を使えるとは思わないで頂きたい」

「強制絶かよ、終わってやがる。せめて縛りぐらい入れておけよ、クソが」


 魔力放出に異常なほど制限がかかっている、あの弓には存在しなかった効果のはずだ。

 となればトリスタンの能力か、あるいは弓が進化したか。

 村正レベルの職人技があれば例え最高峰の武器だとしても作り変えることは可能だ、だがここまでの性能を付与できるのか。

 疑問は頭を下へ垂らし、それと同じく全身の加重がますます増え膝を着くほかなくなった。


「で、殺すのか? 俺を」

「そうしたいのは山々だが、そうもできない理由がある。いくつも質問があるが先にコレを聞くべきか、()()()()()()()()()()()()()()()? 『不死王(ノーライフキング)』」


 ステータスとは、絶対の自己証明だ。

 そこを改竄するのは原則不可能であり、世界が客観的に下す事実以外は記載されない。

 ランスロットは『看破』と『鑑定』スキルを利用し、黒狼のステータスを覗いていた。

 そこで現れたいくつもの称号、刻まれた名称は思わず殺すのを躊躇うほどに可笑しくまた重要な内容である。


 殺せない理由が出来た、顔を陰に隠しながらほくそ笑む。

 どうやらまだ死なないらしい、死なないのだから可能性はまだある。

 カタコンベに落ちようが骸の灰になり果てようが、可能性があるのならば黒狼は挽回できると確信し。

 まだわずかに動く右手で、自分の手の甲を突き刺した。


「悪いなキャメロット、俺はまだ死ぬわけにはいかない。モルガンの願いをかなえてやるっていう、目的があるんでな?」


 垂れる血液は術式を勝手に描く、展開された術式は黒狼を血液で覆い凝固させ始めた。

 一種の凍結、血液が固まり瘡蓋になるように黒狼を守り黒狼を封じる。

 数多の呪詛を含んだ血液で、黒狼は自らを自らで完全に封じるのだ。


「待てッ!! 何を考えている、何をしようとしているッ!! 答えろ!!!」

「言っただろ、独りよがりの女の願いをかなえてやる。俺はただそれだけのためにお前らを倒す、じゃぁな最強のクラン。精々、俺たちの仲間に殺されるがいい」


 次の瞬間に、ワルプルギスから二つの影が現れる。

 モルガンとロッソだ、二人が杖を構えながら速攻で爆撃を行いキャメロットを退かせた。

 今回はイベントと違い戦闘手段を選ばない、可能な限り最上級の武装を用いた最強状態だ。

 その二人が降臨すると同時に、王都の方から巨大な狼煙が出ている。


「サー・ガウェイン、我々は王都に向かうべきだ」

「トリスタン卿、二人の相手は任せます」

「あら、逃げるの? まぁそっちの方がありがたいと言えばありがたいけど」

「三席を誰も出さず私に勝てると思うとは思いあがり甚だしい、笑わせてくれます」


 準備はすべて整えた、ワルプルギスから音が鳴り響き『混沌たる白亜(カオス・グウィバー)』は福音を得る。

 すべての準備は整った、では総力戦と行こうか。

 キャメロットとカオス・グウィバーの、純白に等しい白と最もドス黒い白の戦いを。

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