Deviance World Online 間話『前座』
船内での戦い、廊下を超高速で駆け回りワルプルギスを破壊しながら進むバトルシーンは古典的なアクションアニメのようで当たり前のように上下左右の関係がない。
そしてもう一つ、壁という概念も当たり前のように存在していなかった。
当然と言えば当然だが、外敵や自然環境から身を守るために制作された外装とは違い内部居住空間は人間が生きるのに十分な程度の厚みを持った壁しか存在しない。
例外的にエンジン部分、鍛冶場やモルガンやロッソの貯蓄庫は重大な汚染や莫大な熱量を放出するため強固に作っているが侵入してきた騎士。
騎士アグラウェインが持つパイルバンカーが黒狼の持つ粗悪パイルバンカーと同じ代物ならば、その外壁程度容易く破壊してくるだろう。
「ま、式装でないだけマシか」
ため息と同時に体をひねり、一気に蹴り飛ばす。
侵攻予定時刻兼アルトリウスから稼げる最低残り時間まで10分、つまりはたった一人の騎士相手に30分以上は粘られている。
船自体はロッソの錬金術によるカバーによって高度を回復させており、一応は下からの攻撃が当たらない状況ではあるモノのこうして膠着状態が続けば最終的にアルトリウスが飛んでくるだろう。
それをされたら最後、すべてがお終いだ。
だからと言って、この騎士を攻略できる手立てもない。
というか黒狼の攻撃は火力が高すぎる、何もない空間で使うのならば別段問題にならないが壊したくない場所で扱うには少々以上に周囲への影響が大きいのだ。
第一の太陽を放ち、この船が落ちては元も子も……。
「あ、そうじゃん」
別段、この船が落ちなければいい話だ。
無限の魔力の供給源、黒狼の作戦の要であるここさえ消えなければ別段一切の問題がない。
そうと分かった瞬間、インベントリから銃を取り出す。
対魔物戦闘用16mm拳銃ジャクソン・キラー、旧アメリカ合衆国のジャクソンさん(34)が考案した対戦車拳銃J・AK48セミオートマチックをベースとしたうえで火力狂いが頭をバカにして火力を向上させた代物。
使用者もただでは済まないという拳銃としての欠陥を圧倒的な火力の抑止力というコンセプトで胡麻化したただの馬鹿な製品、しかしその火力は本物でありだからこそ魔術で強化すればそれ以上の火力となる。
最も探究会によってその制作は禁止されていたのだが、非合法なルートでは普通に売っているため購入するのがおすすめだ。
定価865000Gというお手頃価格で売っている不人気商品、多分使えば骨折するのはあきらめるべきだろうか。
ちなみにセミオートな理由は法律による規制なので、こちらの世界ではフルオートになっている。
「悪いなのび太、お前には死んでもらう」
「今まで殺せなかった癖に、良く言った」
船に轟音がとどろいた、だってその拳銃は二丁持ちする前提じゃないのだから。
ステータスの暴力とはよく言ったものだ、まさしく超圧倒的なステータスにより達成された偉業であり黒狼以外ではできない曲芸。
そこから放たれる高火力はミスリルに全身を包み守る騎士とて、まともに食らえば腹に穴が開くだろう。
「ガㇵっ、だがッ!!」
「ネロ、構わないな? 許可は不要だ」
「む、何をするつもりであるぞっ!?」
壁を突き破り、腹を撃ち抜かれながら壁ごと壊され落下するアグラウェイン。
周囲を見る余裕もなく、ポーションを体に掛け回復しようとしたその直後。
二本の足が彼の体を地面に叩きつけ、黄金の劇場に再び君臨する。
鳴り響くは発砲音、ファンタジーに似合わないただただ無慈悲な鉄塊の音。
計二十四発、弾倉に残るすべての弾丸を打ち尽くし黒狼は嫌な笑みを浮かべる。
それは見ていて悍ましく気持ち悪いモノであり、生理的嫌悪感を催すほどの邪悪な勝者の笑み。
「じゃ、先に戻ってろ」
瞬間、地面が揺れた。
ここはどこか、それはネロの黄金の劇場をブーストする劇場。
正式名称はないが黒狼は落葉の劇場と呼んでいる、色合いが黄金に近づけようとして橙色だからだろう。
その劇場を固定する結合部をマグナムで撃ち破壊することで落下させたのだ、この男無茶苦茶である。
「おれはコイツを殺す必要があるんでな、殺したら計画遂行だ」
ガチャン、あまりにも重々しい音でリロードされた拳銃は黄金の劇場によってバフを受け金の差し色が入る。
それは黒狼にまで伝播しサンドワームの外套に金接ぎのような跡が発生し、魔力ブーストがかかって。
詠唱は、同時に語られる。
「『虚栄、虚実、空想的天体、太陽はここに降臨する』」
「グフッ、『パラディン・シールド』ッ!!!」
反撃が不可能と悟り、防御に切り替えたのは非常に賢い判断だ。
というか、スキル『パラディン・シールド』は一定時間のカット率999%を誇る。
条件は盾を構え動かない事、しかもこれは座標指定ではなくモーション指定。
体を過度に動かさなければ解除されない通常防御において最高峰の防御を誇るスキル、コレを正面から突破する攻撃はない。
これを正面から突破するのは骨が折れるし、何より馬鹿だ。
「『虚空に輝け虚空の星よ、【黒き太陽】』」
とはいえ、人間はバカなぐらいが丁度良い。
邪道で攻略するのもいいだろう、時間切れを待つのも英断だ。
だがしかしソレでアルトリウスを攻略できるわけがない、コレは自分への試金石でありまた課題である。
黒狼の背後に穴が開き、髪の毛が逆立つとともに全身からフレアが現れた、
環境:太陽を具現化しネロの心象世界と同期させた『黄金の劇場』だから出来る超ブースト、たった一撃のために黒狼はすべてを掛ける。
「『【始まりの黒き太陽】』」
引き金を引き、弾丸を射出した。
極々少々の太陽、弾丸に圧縮された概念上の星。
だが詠唱破棄によって成立させただけでは999%カットを誇るパラディン・シールドを突破することはできないだろう、だからこその後述詠唱。
「『夜の風、夜の空、北天に大地、眠る黒曜』」
詠唱は、長い溜めになる。
それは本来多大な前隙であり、攻撃を差し込まれる危険な状態。
だからこそ得られる多大な恩恵があり、だからこそ含まれる圧倒的な結末があるわけで。
後述詠唱はその前隙を省略し、魔術展開中に詠唱を行うことで魔術強度を高める技法。
だが必然デメリットとして初期性能は完全詠唱に比べ完全劣化であり、場合によっては無詠唱にすら劣る。
だが詠唱を継続させることにより、100%の出力。
否、200%にも300%にも発展させる異常火力を達成することが出来るのだ。
「『不和に予言、支配に誘惑、美と魔術』」
現在火力70%、まだまだダメージは低いだろう。
だが本来のファースト・サンと異なり、コレは弾丸になった極々小の太陽。
故にエネルギー消費は本来のソレと異なり僅かで済み、また持続時間も長い。
その間に消費する以上の魔力を籠めればきっとバカみたいな火力になってくれるだろう、可能な限り永遠と。
「『其れは戦争、其れは敵意、山の心臓、曇る鏡』」
「ぐぅ、だがまだまだ………」
現在出力80%、もう大分堪えるのも辛そうだ。
とはいえ、容赦があるわけでもないが。
淡々と笑みを堪え、詠唱する。
「『五大の太陽、始まりの52、万象は13の黒より発生する』『第一の太陽ここに降臨せり』」
「だが、この程度ならッ!! まだ、まだァァァァアアアアアアアア!!!!!」
火力は100%、本家大本オリジナルの攻撃であればコレが上限。
そしてここからがこのバカげた術式の、もっとばかげた運用方法だ。
刮目するがいい、黒狼の至った領域を。
「『夜の風、夜の空、北天に大地、眠る黒曜』『不和に予言、支配に誘惑、美と魔術』『其れは戦争、其れは敵意、山の心臓、曇る鏡』『五大の太陽、始まりの52、万象は13の黒より発生する』『第一の太陽ここに降臨せり』『夜の風、夜の空、北天に大地、眠る黒曜』『不和に予言、支配に誘惑、美と魔術』『其れは戦争、其れは敵意、山の心臓、曇る鏡』『五大の太陽、始まりの52、万象は13の黒より発生する』『第一の太陽ここに降臨せり』『夜の風、夜の空、北天に大地、眠る黒曜』『不和に予言、支配に誘惑、美と魔術』『其れは戦争、其れは敵意、山の心臓、曇る鏡』『五大の太陽、始まりの52、万象は13の黒より発生する』『第一の太陽ここに降臨せり』『夜の風、夜の空、北天に大地、眠る黒曜』『不和に予言、支配に誘惑、美と魔術』『其れは戦争、其れは敵意、山の心臓、曇る鏡』『五大の太陽、始まりの52、万象は13の黒より発生する』『第一の太陽ここに降臨せり』『夜の風、夜の空、北天に大地、眠る黒曜』『不和に予言、支配に誘惑、美と魔術』『其れは戦争、其れは敵意、山の心臓、曇る鏡』『五大の太陽、始まりの52、万象は13の黒より発生する』『第一の太陽ここに降臨せり』、って少しやりすぎたかな」
王城を守る結界ごと、パラディン・シールドを粉砕しながら笑う黒狼の前に。
円卓の騎士7名が待機し、構えている。
総力戦はここからが、本番だ。
コレが現在黒狼が出せる魔法系統最高火力です、詠唱の数を増やせばもうちょい伸びますね。




