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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『終わらぬ夜の暗月』

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Deviance World Online 間話『ヴィンデ・リーコス』

 ウーサーの言葉によってすべての君主は言葉を押しとめる、時間が貴重だというのは誰しもが分かっている内容だ。

 だからこそ慌てふためき自らの優位を取ろうとしている、だというのにこの王だけは静かに優位を保ち何ら主張をもせず場を諫めた。

 食えない男だ、ヴィンデ・リーコスは内心でため息を吐き認識を変える。

 さすがは『征服王』を殺した国の王であると、年を食った老人ではなく年を経て英知を身に着けた老獪であると確信した。


「『ふむ、我らがあの王の姿とはずいぶん違うぞ? へファイスティオン』」

「『しばし黙るがいい、シーザー。あの男は比較するだけ無駄だ、そして諸王らよ。勘違いしてもらっては困るのだが、これは会議ではない。ただ純粋に脅迫だ、白亜の王ウーサーにこの場を用意してもらったことを含めそのすべてが貴様らに対する脅迫であることを肝に銘じよ』」

「まったく、血の気の多さが変わりませんね」


 ヴィンデは静かに息を吐いた、北方も安定にほど遠いというのに遠く離れた彼らの国へどうやって干渉するというのか。

 確かに自分も脅迫こそしたが、それは相手がアルビオンの王だったからだ。

 少なくとも南方とでもいうべき領土全域に喧嘩を吹っ掛ける真似などする気がない、する意味もない。

 今一度、へファイスティオンの思考が読めず困惑していると彼女がさらに言葉を続けている。


「『真っ先に述べるが諸君らには拒否権などない、また逃れることを赦さない。これは征服王イスカンダルの名の下における脅迫、だ』」

「『へっ、随分物騒なことだ。でぇ? 肝心のイスカンダル、とやらはどこに?』」

「『生憎と殺された、グランド・アルビオンに』」

「『へぇ、仮にとは言え王を殺される程度の国がよくもまぁ大口を叩けるな』」


 若く雄々しい青年は声を張り上げ、我が意を得たりとばかりに叫ぶ。

 それは若さゆえの蛮勇であり強さを知らぬ蛙の言葉、北方の全員はその言葉を飄々と無視しており。

 むしろ慌てたのはエルフの女王だった、嫌らしい笑みを浮かべるシーザー・プトレマイオスを見て本気で慌てている。


 事実、その慌て様こそ正解だ。

 国力云々以前に、ここに居る国家。

 そして国家に属する人間の平均レベルの時点で違う、比較的低いとは言えグランド・アルビオンと北方の平均値の時点で倍近く。

 ステータスの話になれば倍どころか3倍から4倍に迫る、獣王国とてグランド・アルビオンと大差のない国力しか持たない以上はその範疇から外れることはない。

 正確な力量差を知るエルフの女王は、彼らの恐ろしさを知るからこそ獣王国の君主を諫めようとした。


「『キミッ!! 止めなさい、私は自殺する気なんて到底無い!! そもそもイスカンダルが死んだのはグランド・アルビオンに敗れたからではない。破壊者ギルガメッシュに滅ぼされた、分かる? キミが思うよりも彼らは強い』」

「うれしい誉め言葉ですね、そして現状を分かっていない戯言でもある」


 ヴィンデは薄く笑い、深く息を吐けば映像と音声の発信を一時停止する。

 本人は決して認めようとしないが彼女は兄とは異なり魔術の才がある、さすがにレオトールレベルの魔力制御と魔力量は持ち合わせていないがそれは話が逆だろう。

 つまり、レオトールレベルを求めるのが間違っている。


「そもそもこの話し合いのテーブルは誰が設けた物か、あの人モドキは理解しているのか。まったく、ほとほと呆れて仕方がないですね」


 次の瞬間だった、映し出された映像に獣王の青ざめた表情が広がった。

 そしてシーザーのいたずらっ子のような笑みもだ、北方と獣王国は距離にして700㎞程度の距離が存在しそれだけの距離を一切のラグなく接続する技術がある北方。

 言い換えればそれほどの距離から干渉するのも容易い、獣王国に張り巡らされた魔物払いの結界を解除したのだ。

 30秒キッカリに再展開された術式を認識し、生殺与奪の権を奪われていると理解した王は歯ぎしりをしながら青ざめた顔でうつむく。


「『生憎と、王のもとにいたときは余興半分で魔術を使っていたが。伯爵としての立場に戻った吾はそのような真似は出来んぞ、文字通り吾を敵に回すのならばこの瞬間に一切の魔術を扱えなくなると思うがいいぞ』」

「『シーザー、仮にも私が今は盟主だ。個人の暴走は諫めさせてもらう、それにその行動は何ら全体の利益にならん』」

「『ふむ、まぁ別に構いはせんぞ。ただ、甘い対応をすれば吾が動くだけぞ』」


 この時点で、序列は決した。

 もはやへファイスティオンの許可なくしては誰も発言できず、誰も主張できない。

 重苦しい沈黙が会議を支配し、王らの威厳を損ねる。

 ただ一人、例外を除き。


「『雑談はすんだか? であれば有意な話し合いをしよう、まず最初に我が国が与えた損害。それに対し、十分な見返りをよこせという話だったな』」


 白亜の王は、恐れることを知らない。

 冷徹に言葉を語れば冷え透いた目でヴィンデ・リーコスを見定め、再び口を開く。

 憮然とした様子で静かに、いやだと。


「『見返りなど渡すことはできない、不可能だ。すでに我が国庫は底を尽き、また異邦人によって古代兵器を収奪されている。もはや賠償などできないとも、されど我が国土で貴国の王を殺した責はある。その責を雪ぎ払うため一つ、盟約を結ぼう』」


 音が消えた、そう錯覚するほどに静かな空間が出来上がっていた。

 盟約とは、もっとも単純で最も究極な約束手形。

 盟主を立て自らと世界を相手に結ぶ史上最強の契約形態であり、個人間で交わす際に支払う対価はその生命。

 そして国家間で結ぶ場合は、およそ百年に及ぶ厄災を対価に結ばれる。


 魔法が存在しなければ盟約という名の契約は反故にできる、だがこの世界は神が存在し神話が再演され超自然的な力が法を敷く世界である。

 その言葉の重さは唯の契約というものではなく、ただより純粋な足枷だ。

 一度結べば誰もが逃れることのできない絶対的な契約、約定というわけである。


「何の契約だ、南方の王」

「『一年、あと一年以内に十分な賠償が出来なければグランド・アルビオン北部アルビオン川以下全土を明け渡そう』」

「『なッ、キミ何を』」

「『分かっている、されどもはや我が国から渡せるものなど領地しか存在しない』」


 青ざめていたのは、エルフの女王だ。

 ウーサーの落ち着き払った様子と異なり、エルフの女王は青ざめ必死となって叫んでいる。

 彼女とてその叫びが無駄なのは重々承知だ、確かにグランド・アルビオンが生き残るにはその道しかないのは分かっている。

 この一年間で十分な対価を差し出す他に、もはや選択肢はない。

 されど、もしも差し出せばエルフの王国を含めたアルビオン周辺諸国が危機に晒される。

 個人で国を滅ぼせる規格外の怪物たちが屯することになりかねない、それも気分次第で。

 エルフの女王にとってはあり得ない選択肢であり、アルビオンにしては最善策であった。

 それはただ、どうしようもない絶望への最善策。


「『最も、国が滅んでなければの話だが』」


 不敵というにはあまりにも自嘲的で、何処か遠くを見据えながら手元すらも見えていない盲目の視座を晒し。

 ウーサーは悲しそうに言葉を告げる、されども何処か楽しそうに。

 万世の安寧という緩慢な死が、遂に変化する。

 それは良い変化なのか、悪い変化なのかは分からずともだ。


「『話し合いを続けようと、互いが納得する時までは』」


 ヴィンデ・リーコスは美しい顔を、氷細工のような顔を虚無にする。

 特別な言葉なく、ただ時間が刻む音を聞く。

 彼女も薄々と感じていた、レオトール・リーコスが作り上げたわずかな異端の歪み。

 それが花開く瞬間を、その全てに憎しみを抱きながらも確かに見ていたのだ。

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