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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『終わらぬ夜の暗月』

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Deviance World Online 間話『王』

 一つ、王は多くを語らず。


 二つ、世界は全てを見せず。


 三つ、騎士はただ全てを守護する。


 名君にして愚王、最後の王たるユーサー・ペンドラゴンは静かに友であり騎士であるエクターへ語りかける。

 病床に伏しおおよそ健康とは程遠い姿ではあるものの、預言者と呼ばれた男の叡智は健在だ。

 語る言葉は一言一言が値千金を上回る、ソレこそが国王ウーサー・ペンドラゴンが王たる証なのだから。


「どう見る? この盤面を」

「最悪、その手前と言ったところでしょうか。我が国の軍部は事実上の崩壊を迎え、内部に異邦人の手が入り切っている。もはや、この国に未来はありますまい」

「言葉を飾らぬか、良い。もとより我らの関係だ、飾る言葉など不要そのもの」


 窓の向こうに見える屍の戦艦、騒々しい戦闘音に悲鳴の数々。

 そしてアルトリウスの宣言、どうにも手が回り過ぎている。

 ソレはつまり予想以上に終わりが近いことを示しているということだ、結果がどのような形であれども。


「騎士団は総て撤退させた、継承権を持つ我が子は他国へ送った。最悪、従属の民として生き残る事は出来ようか」

「無礼ながら王よ、いつからこの事態を」

「最初からだとも」


 眼前に広がるボードゲームの駒がまた一つ倒れた、枯れ枝のような手でその駒を盤面から外し異なる駒を一つ進める。

 全ては泡沫の泡に違いはない、力無き王は自嘲と共に諸外国との関係性を清算した。

 分かっている、痩せかけたこの国に未来などない事は。

 ソレでも名すら消え失せた国王が望む永世の平和を達成したと言うには、未だ不十分だと悔しく思う。

 永遠など果てしなくとも、生きてる限りは出来ると思ったのだが。

 何もかも、神気取りの愚物が原因だ。


「神託が降ったあの日より、私は総てを知っていた」


 怒りだ、嘆きだ。

 言葉なき王の慟哭であり、懺悔である。

 こうして滅ぶ国を延命したのも、また神への叛逆行為だろう。

 ソレでも王たるウーサーは、そうしなければならなかったのだが。

 王であるために、その十字架を背負わずにはいられなかった。


「我ら人類が次の領域に至るには、未だ早すぎる。娘たちが考えるように、矮小な世界がその課責に耐えられぬ。人と人が互いに殺し合うように、世界は世界を喰み殺す頭尾の蛇なのだから」


 ウロボロス、悠久を紡ぐ永遠の象徴。

 彼岸の彼方に消えた幻想の神獣、世界を滅ぼす怪物の1人。


 世界は薄氷の上に成立し、人はその上で無様に足掻くだけ。

 されどもと思う、無様であってもその足掻きその戦いこそが美しく気高いのではないかと。

 そうして生きる様こそが我らの求める正義そのものではないのか、と。


「王よ、恐れながら私はイスカンダルの言葉に耳を貸すべきだったと愚考します」

「間違いではなかろう、しかして愚者の結論だ。その先に我らアルビオンの未来はない、かの王の提案は我が国を従属とするもの。例え世界を知っている至上たりえる王とてもその選択を選ぶ事はあり得などない、その先に白亜の未来などないのだから」

「安寧を願うのならば、されども間違いではないはずです」

「言ったであろう、『白亜の未来はない』と。その先にあるのは黄金の君主による盟約破棄だ、すなわち世の滅びを示す」


 古き碑文に書かれた言葉はただ一文、『悠久の安寧を保証しよう、気高き王の意思を忘れぬのならば』。

 ただそれだけの言葉でありそれ以上の意味を持たない言葉、気高い王の遺志すらも残されていない記録以上をしない碑文。

 されどその遺跡は第13の魔術師塔地下に保管され他からの干渉を一切許すことはない、先史時代より残された絶対的な記録媒体。

 そうまでして残さなければならなかった理由など、考えるまでもない。

 特に地底の湖を知る王族ならば猶更というもの、歪み変化する騎士の誇りや『正義』の形を糾すために『義正』を望んだ妖精女王ヴィヴィアンの願いもまたそれ相応に重鎮なモノとなる。


「我々は生きているのではない、生かされているのだ。人という文明が滅ばぬように、鳥籠の中にある小鳥のように。羽を捥がれ空を閉ざされ僅かな世界の安寧と自由を与えられる、家畜同然の在り方を赦されている」

「私も、知らなければ貴方を軽蔑していたでしょう。ですが知ってしまっては侮蔑の言葉を吐けるわけがありません、アレは生きる世界が違う」

「世界が恐れる存在、か。祖王はとんでもない存在と交渉したものだ、その咎を我ら今を生きる人間が濯いでいるのも含めてな」


 語るべき言葉はもはやなく、ウーサーは静かに目を閉じた。

 いよいよ始まる些細な戦乱と、そして全てが変わるその日を目の前に。

 枯れ木のような腕は震え、痩せ細った頬は静かに笑みを湛えている。


 ようやく、ようやくグランド・アルビオンは祖王の呪縛より解放され新たな時代へ踏み出せる。

 それが破滅への道だったとしても、歩み出すのがやはり最善なのだ。

 故に『予言を語る者』ウーサーは、王の座。

 玉座へと向かう、全てを始め禍根を終わらせるために。


「これより英雄譚を終わらせる、久遠に果てた英雄譚を」

「……我らが国に、栄光あれ」

「そう、だな」


 魔力でできた画面、はるか先を映す空間の魔術。

 その先に映る38の小国と7つの大国の王族、および。

 北方にある最高位の盟主、『青の盟主』シーザー・プトレマイオス及び『透の盟主』ヘファイスティオン・イスカンダル。


 そして、『白の盟主』にして『伯牙』。

 最古の伯爵にして最強の一族、傭兵団『伯牙』を纏め上げる長。

 名を、こう言う。


「『初めまして、遥か遠方のアルビオンの君主よ。私の名はリーコス、()()()()()()()()。貴国の健闘を讃えこうして、対等な関係で話し合う事を赦します』」


 『伯牙』先代君主レオトール・リーコスに与えられた名を引き継いだ新たな君主、そしてへファイスティオンにより一時的に『白の盟主(ブラン)』の名を与えられた彼女は静かに。

 そして氷のように冷たく無表情に言い放つ、ただただアルビオンを圧倒的弱小国と見下しながら。

 かの傭兵を思わせるように、されど余程かの傭兵よりも人間味がある言葉で。


「『この度の戦争、貴方たちが行った虐殺。その罪に対する咎として貴国に存在する準古代兵器【聖剣エクスカリバー】【聖槍ロンゴミニアド】【聖剣の鞘】の徴収を課します、問題ありませんね』」

「馬鹿を云うものじゃない、準古代兵器だ。そう易々と貴国に明け渡せるわけがないだろう、そも」

「『横暴が過ぎるというもの、キミも此方に随分な被害を与えてくれたじゃないか。世界の滅び(ワールド・エンド)、神話の伝承にしか出てこない怪物のアナウンスが流れたと思ったら我が領域の半分以上が水晶の魔力に汚染されている。キミは、いかなる手段でこの罪を返す気かな?』」

「『舐めたことを申しますね、レイドボスを擁していることを許容している時点であなた方に発言権はないと思っていますが』」


 新たな顔が現れ、発言し混沌と変貌していく。

 周辺諸国含めた様々な王や君主が言葉を発し、自らの思惑を貫き通そうとしているのだ。

 再び来る『ワールド・エンドボス』を回避し自らのみが生き残る、そのためだけに。

 だからこそ狂乱したように騒ぎ声を上げる王たちを目の当たりにし、ウーサーは冷ややかに笑う。

 やはり、その程度かと。


「皆の者、静かにすると良い。時間は有限だ、限られた時間の中で有意義な語らいをしようではないか。世界が滅びるやもしれん、その一瞬前の時間を貴重に使ってな」


 王たるは、多くを語らない。

 ただ、万里全貌を知る瞳を持ち万物真理を突く一言を語ればよいのだ。

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