Deviance World Online 間話『絶対的正義』
およそ285体、それがわずか10分で討伐したモンスターの総数だ。
溢れ出る一体すらも溢す事なくアルトリウスは鏖殺する、その上で感じる違和感に見切りを付けた。
キャメロットの専用掲示板に無数の書き込みがされている、しかも基本的に使用されていないスレッドにまで。
爆弾が仕込まれていた、情報統制を諦めアルトリウスは早々に13円卓以外の全クランメンバーの発言権を剥奪し収集を付ける。
その上で13円卓全員がチャットに何も書き込んでいないことを確認し、王城および全域で何かの問題が発生していると認識。
これで二つ、自分の優位を潰されたと確信を抱きながら。
(大規模血盟としての長所である情報伝達の速さ、そして僕という絶対的なキングの拘束。そして、これが三手目かな?)
背後から襲いかかるモンスターを目もくれず切り裂きながら、ソレの装備を見る。
本来はキャメロットの一般的な装備品であり部外者では入手不可能な代物だ。
分かっている、内通者が居たことは。
故に本質的な問題点はそこで無く、もう一つの方。
(何故この装備を着せていたか、察するにコレらはアンデットか何か。統制している本体、『不死王』かな? 彼が気絶か意図的に暴れさせた結果に情報伝達が不可能な阿鼻叫喚の地獄絵図が完成したと。どっちかは不明だけど個人的には後者であって欲しいね、13円卓が反応しないのは出来ないから。つまりは、内部に彼らが完全に拘束されるレベルのモンスターが存在する)
黒狼がいれば大きく舌打ちしていただろう、何十もモンスターを倒しながら至極冷静に状況を判断するなと。
放つ一撃一撃が即死攻撃に等しい、悲しむべきは一ミリも即死属性や死属性を纏っていない通常攻撃でしかないことだが。
アルトリウスの状況判断は的確であり適切の一言、そして黒狼の狙いはその状況判断でも対応できないほど物量を用意すること。
一見すれば黒狼が一手有利を取っているように見えるが事実は異なる、そも先手を取る黒狼が一手有利になるのは必然。
その上で、一手有利を覆すほどにそのキングは最強であるのだ。
「まぁ、それが狙いだろうね」
この塔を破壊させる、あるいはただ拘束し続ける。
幾ら無限に等しく思えてもこれがプレイヤーの用意したギミックならば終わりはある、その終わりまで堪えればアルトリウスは短期的な勝利を得るだろう。
ただし、その甘露な勝利はこれ以上ない毒牙でもある。
けれども王城を無理に破壊し城壁に刻まれた防御術式を破綻させれば王都全域に張り巡らされている対魔結界が剥がれ落ちることを意味する、本来はそう簡単に壊れる代物ではないが彼の持つ武器は準古代兵器『エクスカリバー』そのもの。
どう転ぶかアルトリウス本人にも、皆目見当がつかない。
「乗るしかないね、厄介だ」
そして怖い要素はもう一つ存在する、消えない死体だ。
死んでいないわけではない、エクスカリバーの直撃を受け頭部が消失しているモンスターでも消えていないという事は死体が残るように調整されているという事でしかない。
つまりは殺せば殺すほどに不利な状況を形成するということ、しかし不利な状況を形成しないために放置すれば王城内に疑似的なスタンピードが発生する。
どちらもダメだ、故にアルトリウスは第三の選択肢を選んだ。
「聖霊よ、僕に力を貸してくれ。『エクスカリバー』、『プロミネンス』」
別段、魔術が使えないと語った覚えはない。
むしろアルトリウスの本懐は魔術であると語るべきだ、彼はそのように考えている。
なにせ試作品である魔杖『ルビラックス』の後継機にして完成品、月光の導きを輝きとする聖剣『エクスカリバー』をその手に持っているのだから。
魔術的センスが彼女に劣ると言えども、無限の魔力は同じく扱える。
収束したエネルギーが周囲の空間を蹂躙した、だが物理的には何ら影響を与えていない。
それは熱が周囲に伝播するように、光がガラスを透過するかの如く一見何の影響も与えぬまま世界を塗り替える。
それだけで魔術の強度が急速に劣化し、黒狼が用意していたトラップは機能不全を起こし始め。
魔物の数が減少した、たったそれだけで。
「『王の伝令』、『状況は逼迫している、僕はしばらく拘束され君たちの助力を行うことはできない。敵はキャメロット内部まで侵攻しており状況を予断を許さないだろう、だが1つ覚えておいてほしい』」
声は、空間を飛び越え万人に伝わる。
最大派閥にして最強血盟たる『キャメロット』、そこに参画するすべてのプレイヤーに。
王の言葉とはただ一言すらも聞き零すことを赦さず、万人に伝播するモノなのだから。
「『退くな、立ち続けろ。君たちが前進し弛まぬ努力の末に安寧を望むのならば、僕は最善を示し続ける』」
魔力が溢れ真昼というのに月の導が目に見えるようだ、それはアルトリウスという男の恐ろしさを示すとともに力強さを証明しており。
或いは黒狼が最初に捨てたモノがどれ程に捨てるべきでなかったか、を示しているかのようだ。
現れるモンスターを片手で切り裂き、返り血の一つも浴びず純白の鎧と蒼銀のマントは風に翻って。
夕刻、黄昏に片足を踏み入れようとする世界は眩いばかりの極光に照らされ騎士の影を示す。
万人の瞳に宿り瞼に描かれる、新たな英雄の姿を。
「『僕たちは、正義だ』」
***
「ああ、きっとそうだろうさ」
高度が急速に低下しながらも、フェイルノートの拘束を突破した黒狼は眼下に見える王都を眺めその美しい世界に感嘆しながらアルトリウスの言葉を肯定する。
ワルプルギスの右翼はすでに半壊していた、ネロのバフによって持ちこたえているがそれも限界が近い。
安定軌道に入りホバリングを行ったうえで十分に修復措置を取らなければ、いやそれでも完全修復までは時間がかかる。
全く以て運が悪い、トリスタン1人にここまでしてやられるなんぞ最悪と言って過言ではないはずだ。
だがすべてが不幸というわけでもない、幸運もある。
「うむ、これであれば余のドゥムス・アウレアと同期できる。一時的ではあるがワルプルギスの強度を極限まで高め、音響装置の完全稼働を許せるぞ!!」
「盲点でした、確かに内在空間は心象世界。共鳴することで相互の影響を高め合うことは出来なくはないでしょう、ですがソレはどちらかの心象世界に過度な負担が掛かるのではないでしょうか?」
「黙れ、その選択はお前にない」
「あら酷い、けど正しいわね」
次の瞬間、船が揺れた。
船体に穴が開き1人の騎士が壊れたパイルバンカーを廃棄しながらこちらを睨んで、そのまま銃を構え放つ。
直後に、黒狼は撃ち抜かれる。
「名乗りは、不要か」
「ネロ、即座に簡易劇場へ向かえ。他全員は初期配置にだ、山ほど撹乱したと思ってたんだがな。クソッタレの騎士王め、アイツのカリスマ性だけが俺に欠けてると思うんだがお前はどう思う?」
「人間性を忘れている、と付け足しておこう」
まぁ、まともな弾丸程度では黒狼は死なない。
というよりはワルプルギス内部で黒狼を殺すのは殆ど不可能に等しい、何せレオトール譲りの『超速再生』スキルにワルプルギスが保有する無限の魔力が黒狼の体を回復させる力となるだろう。
少なくともここで黒狼が死ぬはことはあり得ない、だがこの船が壊されれば話は変わる。
「最悪だよ、全く」




