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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『終わらぬ夜の暗月』

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Deviance World Online ストーリー7『故に、敗北する』

「聞こえなかったか? そ う 言 っ て ん だ よ」


 次の瞬間、黒狼の右手から焔が吹きこぼれた。

 魔力の過剰な圧縮、超高温を発しながら放たれる一撃。

 パイルバンカー、完成品たるソレに遠く及ばない一度限りの試作機。

 だがそうであるがゆえに、『対価魔術』が成立する。

 つまりは破壊を前提とした、火力の上昇。


「『パイルバンカー』」


 回避などさせない、出来るわけがない。

 そもそも神の権能やその力を振るうというのは回避という概念から最もかけ離れた理屈を用いるという事に他ならない、何せ神の力は神の力でしか対抗しえないのだから。

 まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()など、思考の片隅にも置くわけがない。

 理論上はレイドボスすら一撃で葬れるほどの圧倒的高火力、ダメージ数値で言えば『始まりの黒き太陽』の3倍以上たる1万ダメージを叩き出せる。

 黒狼は自らの右腕を完全に犠牲とし、ソレをドレイクの背へ叩き込む。


「危ないじゃないかッ!!」

「『抜刀』『宴切』」


 その一撃をそれでも察知し回避した直後、黒狼の()()()()()()()()()()()という意図を読み取った村正が特殊アーツを発動した。

 滑るように抉る様に叩き込まれた一撃はドレイクの雷、そして権能の鎧を捉え断つ。

 大きな雷の音とともに刃は弾かれ村正を焼く、確かにその程度で天敵を名乗るなぞ片腹痛い。

 演舞のように軽やかな動きで急襲を仕掛け連撃を叩き込む、鋭く早く凄まじい勢いでだ。


 体が焼けている、ソレがどうした。

 雷が自らの上を走っている、ソレがどうと言う。

 今にも負けるような重圧が背を押す、その程度で自ら諸共折れるのか。


「『呪屍(オセロットアンデッド)』、悪いなドレイク。お前が本気を出していないように、俺たちにとってもここからが本番だ」


 魔力が溢れた、甲板からアンデッドが沸き上がり黒狼の魔力を吸い上げる。

 ワルプルギスと魔力的な接続を行っていなければすでに枯渇している、それほどの魔力量でオセロッドを生み出した。

 だが単品の戦闘能力は決して高くない、そもそも黒狼は『呪屍(オセロットアンデッド)』を一切育成しておらずそのステータスは黒狼の1割にも満たないクソ雑魚だ。

 けれども出せればそれでいい、出すことができるのならばそれで十分。


「『呪楔(ブラッドコントラクト)』、『宥恕性逆理』『呪術』。贄にするのは神の力、さてしばらく耐えてくれよ村正」

「無茶を言ってくれる、手前も」

「お前さん一人でアタシを止められるとでもッ!!」


 一層苛烈になる攻撃は、だが徐々に勢いを失っていた。

 贄がなくなり、能力の制限時間が迫っているのだ。


 神の力は圧倒的で、同時に人の身に降ろすものではない。

 降ろすためには相応の受け皿が必要であり、黒狼とて長期間神の力に殺された末に完成された性質というだけ。

 普通はその受け皿、深淵や天獄に対する耐性は獲得できずドレイクはソレを自らの船員に支払わせた。


 いつの間にか、銃撃は止まっている。

 嵐と豪雨が鳴り響き、船は無様に踊り狂って。

 船長は空虚な戦いに全てを、命をつぎ込んだ。


 黒狼のしようとしていることは、少し複雑で同じく単純である。

 女神、ヘラは英雄を生む女神というのは分かっているだろうか。

 それ以外の側面も多く有しているのだろうが、それでも最も強く出ている側面はやはり英雄を作り上げたという神話だろう。

 故に女神ヘラの力は誰かを英雄にするモノであると言っても差し支えない、それがたとえヘラクレスのような自らの伝説によって成立した存在でなくとも。

 ヘラは、世界有数のキングメイカーなのだから。


 湧き出たオセロッドは黒狼から消えた力の片鱗を受け取り、その本質を書き換えられる。

 神々しい神気と各々の武器を携えながら、ドレイクの雷霆と同等に感じられる質量を放ち降臨した。

 それは現世に依り代を持たぬ神の、権能の降臨を意味している。


「『ーーーーーーー(神の力を異なる神に使わせる、か)』」


 最も、誰がヘラの降臨なぞ望むというのか。

 気狂いの女神、狂気性とストレスの象徴。

 女性の具現、悪性を煮詰めた正義を誰が望む。

 真に降ろすは混沌だ、顔がないゆえに総てである混沌こそが盤面を大きく混ぜ合わせる。


「ソイツは、一体何だい?」

「知らねぇのか? マジモンの神は、俺たちじゃ理解できない言葉を喋る」

「ソンナことは分かっている、誰かって聞いてんだよ!!」


 雷撃は、ソレに受け止められた。

 ヘラの力によって変質した器、それがさらに歪められ犯された末に顔面が割れ中から16の触手と8の眼球に24の小指が溢れ結合し磔刑のように脊髄が付きだした形容しがたき英雄の慣れ果て。

 ケタケタと血液を震わせ声を放ち、異形に変貌した体からは膿が溢れ蛆が湧く。

 真の神、その力の一端であるはずなのにソレは余りに冒涜的だ。


「『ーーーーーーー(好きだぞ? 私は)』」

「黙れよ、この話の主人公は俺なんだぜ? 読者がいたらまた神様かよって呆れられる。そーゆーわけだ、『錬金術:深淵』」


 黒狼が今までスキルを使っていなかったのは舐めプではない、やる気がさほどなかっただけなのと。

 加え、テンションが上がりきっていなかった。


 プレイヤーの中で断然トップを取れるステータス合計値、それに加え物理系のスキルが完全に充足したことで本来の戦い方をせずとも生半可な相手に勝利を収めることが出来てしまっている。

 だが今回の相手は生半可な敵ではない、神の力を扱うトッププレイヤーなぞまともな相手ではないに決まっており。

 そして不必要だというのに倒したくなっていた、この韋駄天のような女に。

 誰よりも本気で遊んでいるこの女を、どうしようもなく倒したくなったのだ。

 理由はそれだけで十分、それだけの理由でアルトリウス戦まで温存しようと考えていた力を用いる覚悟ができた。


 時に、最上の素材とは何であると考えるだろうか。

 ロッソは賢者の石であると答えるだろう、自動生産が困難である上に魔力貯蔵量が多くまた属性付与が簡単に行えるアイテム。

 逆にモルガンはマギアクリスタルだという、機構に組み込むにはあまりに不安定であり僅かな傷で価値を大きく下げるほどに複雑な情報を持つアイテムこそがモルガンにとって最上の素材だ。

 ネロは自らが持つ『トラゴエディア・フーリア』こそが最上の代物と言って憚らない、実際心象世界から零れ落ち鍵の役割を担う剣はこれ以上ない素晴らしい素材だろう。

 村正は魂こそ、至高の素材であると告げるはずだ。

 魂なき刃は唯の鉄屑同様、何かを思う意思があるからこそ刃は無限の可能性を秘める。


「俺は全員、頭が固いと思うんだよ」


 だが、黒狼は違う。

 それらすべては素材として一流かもしれないがソレ単体では完結しえない。

 ほかの何かがあってこそ、真の価値を発揮する。

 あるいはそれを扱えるだけの技術技量があってこそ、か。


「もっと単純に考えようぜ? 理論上無限に再生して理論上無限に火力が上がる武装、それが最強と理論に置くならソレを単品で作りえる素材こそ最高の素材」

「その結論が、ソレかい」

「式装漆式『呪骸武装』、生物の部位やその本体を生きたまま加工し制作する生きている武装。当然、それが本来有しているスキルも扱えるしその力だって用いれる」


 大槍だ、黒狼が変質させ手に握る武器は大槍に他ならない。

 冒涜的に犯された英雄としての力が溢れ、黒狼はソレを砕けた右腕と接ぎ合わせることで再び超越する。

 神? レイドボス? 至高の武装? すべて、くだらないのだ。

 最終的に勝てばいい、勝利条件を突きつけ満たし敗北条件を満たさなければよい。


「わかってんだろ? 詰みだ、お前はこの瞬間に敗北している」

「そんなモノ、やってみなくちゃ分からないさね」


 前方の黒狼、後方の村正。

 片方を殺すのはできる、だが両方を同時に殺すのは無理だ。

 放てる雷撃は残り少なく、魔力残存量は雀の涙。

 そしてそれ以上に、ドレイクは分かっていた。

 まだ黒狼は本気を出していない、まだ彼には奥の手があると。


「『孤高にて』『活路を拓く』、最後の勝負と行こうじゃないか」

「お前の敗因を突きつけてやるよ、そのあまりに賢く臆病な性格こそがお前の敗因だ」


 常勝を望んだ、絶対的な勝利を求めた。

 ギャンブルなど一切望まず、静かに勝てる方法を考え海に逃げ込み。

 白亜の城を騎士の王を倒す方法を、必死に考えた。

 だからこそ故に、彼女は敗北するのだ。

 誰も犠牲にしない、安全で確実な方法を望みキッカケを求めたからこそ。


 ひときわ大きく輝く雷槍は、レールガンを思わせる様に放たれた。

 黒狼の腕となった大槍はその雷槍を正面から受け止め、拮抗する。

 最初に砕けたのは槍の穂先だった、同時に雷槍は勢いが落ち始め。

 明滅している、目を焼く光の中で徐々に徐々に出力が低下していた。


 ニヤリと笑う、黒狼は自らの体内に流れる血液の迸りを槍に含ませHPをそのまま槍に注ぎ込み。

 ただまっすぐに、一直線にその雷撃と拮抗した。

 これほどまでに直線的な敗北の予感は初めてだ、これほどまでに分かりやすい窮地は初めてで。

 今の命が崖っぷちにあると幻想し、だからあと一歩踏み込むのだ。


「俺が、勝つ」


 醜く歪で決して素晴らしいモノではないだろう、けれど黒狼は羽をもっていた。

 最強(誇り高き牙)に目を奪われ、彼のあまりに歪で愚かな生き方を理解した末に拒絶し。

 黒狼は遅まきながら、自らの羽を知った。

 かつて、黒狼はこう告げたはずだ。


『なぁ、翼のない鳥が翼を得て初めて空を飛んだ時。果たしてソイツは海と空を見間違えると思うか? 空だと思いながら海に突っ込む、そんなことがあると思うか?』


 分からない、見間違えるかもしれないし正しく判断し空を飛ぶかもしれない。

 少なくとも黒狼はソレを知りえず、知るすべなどなく。

 だからその歪で到底翼に見えない()で、一歩踏み出す。


「ああ、そうだね。アタシの負けだ、『不死王(ノーライフキング)』」


 負けていたのは、黒狼だった。

 HPは既に存在せず、体はポリゴン片に変貌しながら消失を始めている。

 神の力は相殺しあい、肉体の一部として運用していた黒狼が先に砕けていた。

 それでも、黒狼の穂先は突き進み荒れる船の上でドレイクの腕を深々と貫いては。

 そのまま力尽きる様に、消失する。


「アタシの、敗北だよ」


 飛べない鳥が空を飛ぶ話、それには一つの教訓がある。

 身の丈は弁えろ、そんな当たり前の教訓が。

 当たり前すぎて忘れるような教訓があり、遥か昔に黒狼はこういった記憶があった。


『身の程を弁えたら、俺達はここに居ないだろ?』


 星は天上にあり、けれども。

 黒狼の時代においては、既にその地表へ根を張っている。

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