Deviance World Online ストーリー7『天敵』
本来、ヘラは神として武力に優れる存在ではない。
その権能の形状や形もまた、戦いに優れたものではないが。
女神ヘラ最大の強みは、純粋な暴力性にある。
「攻撃力と防御力が2割増しかつ基礎ステが向上してんな、もう安易に殺せねぇぞ」
「そりゃぁ、面白い言葉だねッエ!!!」
ドレイクが放った雷撃、それを拳で迎え撃った。
雷属性のダメージ、追加で発生する筋肉の硬直。
それらは強化された肉体の前でかなり影響が落とされ、十分に通用する攻撃でなくなっている。
博打をした結果に得た力は、その博打に見合うものだったというわけだ。
さりとて問題もある、というよりは問題しかない。
あくまで対等に立っているのは防御力の方面のみ、攻撃力は推定不足。
攻撃したわけではないためどの程度不足しているのかすら分からないが、それでも確信していた。
ドレイクはあの攻撃力で、それ以上の防御力を有していると。
「どうしようかねぇ、なぁ村正」
「五月蠅ぇ、切り続けるだけだろうが」
「ま、そりゃそうか」
【雷神】ドレイク、その力や威圧感は時間経過で増大していた。
もはや一介のプレイヤーに許される領域を超越し、文字通り神掛かった力を発揮している。
それはある種の絶望であり、一種の疑問。
一体どんなギミックを仕込んでいるのか、だ。
神の力とは一端の一端、欠片ばかりの権能を降ろすだけでも莫大な対価とデメリットを伴う。
たとえ直接的に神が協力していようともその事実は一切の変更がない、黒狼が推測するに莫大なデメリットを設けることでその神秘性を維持し神の格を維持する必要があると考えられる。
ではその推測が正解であったとした場合、やはりドレイクのソレは如何に不可解。
ホイホイと莫大な力が与えられ、ましてやその力が刻一刻と上昇するというのは少し以上に疑問がわく。
そもそも、何のギミックがないのなら一度に全てを与えればよい話。
ましてやこんな段階を踏んで与えるなど、不合理極まりない。
(ってのんびり推測してる暇もねぇか、こっち側も問題だ)
攻勢に出ながらも、黒狼は自らの限界限度を悟り始めた。
思っている以上に出力が出ていない、ステータスに相応しい動きは出来ているがあくまでステータスに相応しいという程度。
不完全な形で完成させた神卸、その結末もまた不完全極まる。
そもそもヘラクレスの斧剣に残されていた女神の力は限りなく薄く権能すらも呪う黒狼の呪いでも、その力は一ミリ程度も届いていないだろう。
あくまで今回力が貸与されているのは女神本人がゼウスの力を振るう不届き者を処罰するために行った特例、しかも戦神や大神でないが故に与えた力も権能とかけ離れたステータス。
打点にはなるが、逆転を行うキッカケにはなりえない。
もしもその逆転のキッカケを呼び込めるのならば、それはやはり。
(村正の心象世界、か)
神は神でしか殺せない、神の力は神の力でしか拮抗できない。
それはこの世界のルールであり、心象世界であれば話は異なる。
世界が異なればルールが異なる様に、心象世界では増大し続ける権能や神化すらもかなり緩和できるだろう。
だが村正の心象は安定していない、どうしようもなく。
黒狼が焚き付け、本人も覚悟を持ったことで『魂魄刀・千子村正』を安定して出現させられるようになった。
だがその先がダメだ、あの刀は鍵であると先の戦いで明白になっているに関わらず村正は世界を開こうとしないのだ。
或いは、世界を開くことができないのか。
未だ覚悟が足りない、幾千ほどの宿痾を積み上げる覚悟ではなく自らの清濁すべてを激情で燃やし尽くすような覚悟が。
誰かのためではなく自らのため、常識と非常識が混在する不可解な異界を作り上げる覚悟が不足していた。
「しゃーなし、諦めようか」
「手前っ、何を!!」
「いやいや、別にこの勝負を譲る気はないさ。けどお前の心象を開かせるのは辞めだ、そいつは俺の仕事じゃない」
「そうかい、案外あっさりと諦めるな」
黒狼が焚き付けたところで、結局完全には開かないだろう。
できない博打をするきは生憎と、黒狼にはなかった。
だが、出来る博打はトコトンする主義だ。
再び投げられた雷撃を、今度は逃げずに掴む。
上昇したステータスは神の権能を正確にとらえ、質量を有さないエネルギーの塊を形として認識しとらえられるようになった。
だがそれでは温い、求めるはその先。
神の権能を呪う、呪術を用いその力を犯す。
天罰は神の権能、耐えられるのならば散々に煽り落とさせ利用する方がよっぽど有益だ。
まぁ、普通は命を落とすが故に使えるモノでないが。
「ハ? ハハッ!! アンタ、大馬鹿者って言われやしないかね!! 博打にもほどがあるよ!!」
「心配ありがとよ、よく言われるさ」
一本の雷が黒狼の全身を焼き据えた、ヘラの権能では目の前の海賊を殺すに及ばない。
だが短い攻防で理解した、ゼウスの雷霆とヘラの祝福は非常に相性がいいという事を。
そして見込みは正解であり、生半可な出力が確保できていないその雷霆は黒狼を殺すに至らず。
またもう一歩、新たな領域へ黒狼を押し上げる。
「『呪い』『報復性原理』」
相手の最大魔力量に応じ防御力を低下させ、また魔力操作の難易度を急上昇させる。
身は焦げ燻り電気を帯びれば徐々に力を増し、出力が乱高下しながらも徐々に神域にレイドボスたるドレイクへ近づいていた。
「『雷槍ライトニングボルト』、『環境適応:大嵐』」
そしてドレイクも遣られっ放しではない、バフを掛け目の前にいる大敵を睨み直す。
この状況は拮抗しており、故にソレこそが最大級に不味い。
覚醒してからわずか数十秒でここまで駆け上がってきた黒狼という怪物を見て、その脅威を正しく理解する。
アルトリウスが絶対だとするならば、この男は窮地おいての覚醒。
危険に晒し続ければ、それだけ逆境をコイツは乗り越えると。
互いに状況への対応、理解は早く動きは迅速で。
だからこそ、一人取り残された村正は唯のお荷物でしかないとも言えるだろう。
神域の戦いに、ただの人間が介入できるわけがない。
「手前、儂を無視すんじゃねぇぞ?」
いいや、村正がお荷物だと? それこそ喜劇であり笑い話。
そもそも耐久性においては黒狼よりも村正が勝る、そしてそれ以上に神域の力であっても異なる世界のルールには弱いと先ほど述べたばかり。
心象世界は魂が抱く情景であり、また抱く情景を世界に昇華させたのが心象世界であれば。
その力の一端を引き出す武装固有のアーツ、つまりは特殊アーツもまた神域に佇む怪物へ突き刺さる一種の手段である。
すなわち、天敵。
神を殺すには大層な武器や神殺しを冠する代物など必要ない、必要なのは魂を削り作り上げた一振りの太刀で十分だ。
刃を研ぎ見据え静かに丁寧にゆっくりと刃を立てるのだ、そして心眼がとらえる形で切り裂けばいい。
表裏は一体、世界は紙のように成立しているのならば。
ただ僅かな一振りで、クルリと世界は両断される。
「ついに、私も追い詰められたって」
笑うように、楽しむように。
ゲームでありながら真を思わせるかのように怒気を孕み、怒りを表す。
自らを舐めたバカ者どもを罰する、宛ら神のように。
「お前らは、そ う い い た い の か い ?」




