第15話 従者三名、アイテムを持って合流する
気持ちを切り替え、再び、どのポーズから撮ろうかと、三人でメモ(当然、最後の方の指示はスルーだ)を見ていると。
「おーい、結太ーーーっ! 撮影は順調に進んでるかーーー!?」
パラソルを肩に担ぎ、東雲が歩いて来るのが見えた。
後ろには、鵲と国吉もいる。
鵲は、風呂敷で包まれた四角形のお重のようなものを両手に抱え、国吉は、ピクニックバスケットを左手に提げ、クーラーボックスを肩に掛けていた。
結太は三人に駆け寄って行き、
「それがさー、聞ーてくれよー。イーリスのヤツ、知り合いから、とんでもねー指示されてやがってさー」
メモの最後の方に箇条書きされていた、〝筋骨隆々の男性〟のポーズ(シーン?)指示のことを、手短に説明する。
東雲はビーチパラソルを広げ、スタンドにセットしながら、その話を聞いていたのだが、
「ゲ――ッ! そりゃ最あ……っ、あ、いや……コホン。藤島様のお願いなら、聞ーて差し上げてー気もするんだが……さすがに、そりゃー無理だなぁ。俺の恋愛対象が男で、相手がサギってんだったら、話は違ったのかも知んねーが……。残念ながら、俺の恋愛対象は女だしな。そーゆーのは勘弁してほしいぜ」
そう言うと、僅かに顔をしかめた。
隣では鵲が、うんうんうんと、しつこいくらい首を縦に振っている。
イーリスは真っ赤になって、
「ちょっと、結太ってば! あれは、向こうのおふざけだったって言ったでしょ!? アタシをからかって面白がってただけなんだから、メモの後ろの方のポーズは、撮る必要ないの! さっさと忘れなさいよね!」
結太を恨めしそうに睨みつけてから、ぷいっとそっぽを向いた。
国吉は、クーラーボックスの蓋を開け、お重と、バスケットから取り出した、ラップに包まれたサンドウィッチを入れると、
「昼食はクーラーボックスに入れておきました。昼になったら食べるとしましょう。――お嬢。そのメモとやらを、見せてくださいませんかね?」
「――は?……ま、まあ……べつにいいけど……」
イーリスからメモを受け取り、しばらくの間、書かれている内容に目を走らせる。
それから顔を上げ、
「んじゃー、さっさと始めちまいましょうか。まずは、〝高校生くらいの少年が海に向かって叫んでるところ〟ってヤツから行くとしましょう。――楠木様。ご協力いただけますか?」
国吉にいきなり声を掛けられ、結太は『へっ?』と驚きの声を上げてしまったが、内容を理解すると、無言のままうなずいた。
イーリスはムッとした顔つきで、
「ちょ、ちょっと国吉! 勝手に仕切らないでよ! 頼まれたのはアタシなのよ?」
気に入らないと言うように、両腕を組んで胸を張る。
主を差し置いて、従者が仕切るとは何事だ?――と言うことなのだろう。
自尊心を傷付けられ、拗ねているのだ。
国吉は苦笑して、
「お嬢に任せておいたら、とてもじゃないですが、一日じゃ撮り終わりませんぜ? 島での貴重な時間が少なくなってしまいますが……それでもいいんですか?」
探るように、イーリスに流し目を送る。
イーリスはうっと詰まり、微かに顔を赤らめた。
「わ、わかったわよ。不本意だけど、ここは国吉に仕切らせてあげる。――結太。悪いけど、海に向かって叫ぶって感じのポーズ、お願い出来る?」
「え?……あ、ああ。わかった」
結太はその場で両足を肩幅くらいまで開き、両拳を握ると、海に向かって叫ぶフリ――大きく口を開けた。
国吉は、いつの間に用意したのか、ファインダー付きデジタルカメラを結太に向けて構え、ファインダーを覗き込みながら、
「楠木様。口を開けただけでは、どうにもわざとらしい――不自然な感じに見えてしまいますので、実際に、何か叫んでみていただけますか?」
アドバイスを送るが、いきなり『何か叫べ』と言われても、どう叫んだらいいのかわからない。結太は困って、拳を顎に当てて考え込んだ。
すると、
「好きな人の名前でも叫べばいーんじゃねーのかぁ? 『〇〇さーん、大好きだーーーーーッ!!』……とかってよ」
ニタニタ笑いながら、東雲は結太に茶々を入れる。
「な――っ、何バカなこと言ってんだよトラさんッ!? 茶化してんじゃねーよッ!!」
すかさず真っ赤になって言い返し、結太はチラリと、桃花の顔を窺った。
とたん、目が合い、桃花はハッとしたように目をそらす。
(わぁあああーーーっ、トラさんのバカヤローーーーーッ!! 伊吹さんに誤解されちまったらどーしてくれんだチックショォオオオオッ!!)
恥ずかしさと、桃花に目をそらされたショックで、結太は思わず涙ぐむ。
彼女が目をそらしたのは、当然、結太の好きな人が〝自分以外〟であると思っているからなのだが。
妙な誤解をされてしまったかもしれないと、焦る結太なのだった。
結太は、改めて海に向かって仁王立ちし、東雲に対する怒りを込めて、
「トラさんのバッカヤロォオオオオオオーーーーーーーッ!!」
腹の底から、力の限り叫んだ。
「おっ。いいですねぇ、楠木様。その調子でお願いします」
国吉は、ファインダーを覗き込みつつ声を掛けると、少しずつ場所を移動しながら、結太の姿を連写し始めた。




