第13話 結太、桃花の姿を見てイーリスに抗議する
それを目にした瞬間。
結太と東雲は、ギョッとして目を見張った。
「い……っ、伊吹さ――」
「伊吹様、そのお姿は――っ!?」
桃花が着ていたのは、昨日着ていたような、花の装飾の付いた可愛らしいビキニ――……ではなかった。
紺色のスクール水着。
しかも、咲耶が着ていたような、今時のスク水――スパッツタイプのものでもない。
旧スク水と呼ばれている、紺色の、ワンピースタイプの水着だった。(その上、ご丁寧に、胸元には白い四角形の布地が縫い付けてあり、黒のマジックで〝三年三組 さとう〟と、クラスと名前らしい表記までしてある)
その〝旧スク水〟を着用した桃花は、恥ずかしそうに両手を胸の前で重ね合わせ、落ち着かない様子で、もじもじもじもじしていた。
結太は思わず鼻と口元を両手で押さえ、桃花が視界に入らないように、くるりと半回転する。
(な……っ、なななな――っ、何だありゃあッ!?……何で伊吹さんが、旧スク水なんて着てんだ!? しかも、わざわざ名札付きとかって……コスプレかよッ!?)
今でこそ、学校では着られなくなった、旧スク水。
一部のマニアの間で、旧スク水がもてはやされているということは、結太も、そして東雲も知っていた。
その、一部のマニアが喜ぶような旧スク水を、桃花が着させられているということは、もしや――……。
その可能性に思い至ったとたん、結太はカーッと頭に血が上った。
再び体を半回転させると、桃花を視界に入れないように注意しながら、イーリスの元へと駆け寄る。
「イーリスぅうううッ!!――おまえっ、ポーズ集撮るように頼んで来た漫画家って、男じゃねーだろーなぁ!? だったら、ぜってーぜってーぜってーぜってー許さねーぞッ!? 特に、伊吹さんをモデルに撮影するなんてこたぁ、言語道断だバカヤローッ!! 俺の目が黒いうちは、死んでも認めねーからなッ!? 認めて堪るかってんだチクショウめぇえええッ!!」
体の両脇で拳をギュッと握り、仁王立ちして怒鳴りつける。
興奮状態の結太に、いきなり大声で責め立てられたイーリスは、気圧されたように数歩後ずさると、
「な……何っ? いったい、どーしたってゆーのよ?……何をそんなに怒ってるの?」
意味がわからないと言った風に、戸惑いの言葉を発した。
「何を怒ってるか、だと!?――そんなん、怒るに決まってんだろーがッ!! ポーズモデルだか何だか知らねーが、伊吹さんにあんな水着着させて、どんなポーズ撮らせる気だって言ってんだよッ!! 今時、あんな水着が出て来る漫画が、フツーの漫画のワケねーだろッ!! それわかってて引き受けたのかッ!? だったらイーリス、てめーもぜってー許さねーからなぁッ!?」
今度はギュッと握った拳を前に出し、ふるふると震わせている。
イーリスも、そして桃花も呆気に取られ、しばらく結太を眺めていたのだが。
一方的にまくし立てられ、だんだん、理不尽だということに気が付いたのだろう。
ムッとした顔つきになり、
「ちょっと! さっきから黙って聞ーてれば、言いたい放題言ってくれるじゃない! 人の知り合いのこと、勝手に変な人扱いしないでよね! 漫画家が男かどうか気にしてたみたいだけど、アタシの知り合いは女性よ! どーゆー漫画を描いてるかどーかまでは知らないけど、アタシの知り合いが、そんないかがわしい漫画に、アタシの友達の写真を使うワケないでしょ!? 当たり前じゃない!」
イーリスも、負けじと大声で言い返す。
結太は一瞬怯んだが、彼女の言い分におかしいところがあるのに気付き、
「『当たり前』ってゆーけどなぁ! 『どーゆー漫画を描いてるかどーかまでは知らない』ってのは何なんだよ!? 知らねーってのはダメだろ! 無責任過ぎるだろ! どんな漫画を描くために必要なのかどーか、ちゃんと訊ーとけよな! 『アタシの知り合いが悪いことに使うワケない』って理屈は通じねーよ! 主観で判断するなってんだ!」
「う――っ」
結太の言うことにも一理ある――いや、もっともだと思ったのか、イーリスは悔しげに黙り込む。
そこに、今まで成り行きを見守っていた東雲が割って入って来て、
「まーまー結太。そー興奮すんなって。おまえが腹立てんのもわかっけどよ。知り合いを信じてーって藤島様のお気持ちも、わからなくはねーだろ? だから……なっ? ここはいったん、信じとこーぜ。頼まれたポーズ写真ってのは一応撮っといて、写真を渡す前に、その知り合いって人が描いてるっつー漫画を、見せてもらえばいーじゃねーか。そこでチェックした上で、問題なさそーだったら渡しゃいーし、問題ありそーだったら渡さなきゃいい。藤島様も頼まれちまった手前、何も撮らずに帰るワケにも行かねーんだろーし、ここは協力して差し上げよーぜ。――なっ?」
バシバシと結太の肩を叩き、東雲はニッと笑った。
東雲の話を聞いているうちに、結太も落ち着きを取り戻したようだ。東雲の意見を聞き、渋々うなずいた。
「まあ……イーリスが、写真渡す前に、ぜってー漫画のチェックするってーのと……伊吹さんが、協力してもいい、って思ってんなら……」
「す――っ、するわよ! 漫画のチェック、ちゃんとすればいーんでしょ!……恥ずかしがって、今まで見せてくれたことないけど……あの人が、変な漫画なんて描いてるワケないんだからっ!」
二人の言い分を、うんうんとうなずきながら聞いていた東雲は、桃花を振り返り、
「伊吹様は、どう思ってらっしゃいます?……本当に、協力してもいいんですね?」
確認するように、彼女の率直な意見を問う。
桃花は一瞬、困ったように眉根を寄せたが、イーリスを一瞥すると、こくりとうなずいた。




