第15話 結太、肩すかしを食って呆然とする
結太の『ヤッたのか、ヤッてねーのか?』という質問に、龍生は『ヤッてない』と即答した。
てっきり、答えは『ヤッた』だと思い込んでいた結太は、すぐには何の反応も返せなかった。
しばらくしてから、やっと我に返ると。
「え……えっ?……おまえら、ヤッてねーの? え、マジで?」
大きく目を見開き、もう一度確認する。
龍生は不快そうに顔をしかめ、
「そうだ。悪いか?」
また短めに返し、まっすぐ見つめて来る結太から逃れるように、視線を横に流した。
「ヤッて……ねー、のか……」
結太は呆然としてつぶやくが、再びハッとし、両手を膝にのせて身を乗り出す。
「じゃ、じゃあ、夕食ん時の保科さんのあの反応、何だったんだよ? 龍生のこと、メチャクチャ意識してるみてーだったじゃん。最初は、またケンカしたのかなって、心配してただけだったんだけどさ。イーリスの話とか聞ーてたら、確かに、ただケンカしてるにしちゃー、保科さん、変なこと言ってたなって思って。『来るな』ってのだけだったら、あー、またケンカしてんだなー、だけで済んでたけど。『今はまだダメ』ってのがさ、イーリスも言ってたとーり、すっげー意味深だろ? 『今はまだダメ』ってのが、龍生とキス以上のことすんのが、『まだダメ』ってことなのかとも思ったけど、キス以上のこと要求されたくれーで、あそこまで大袈裟に拒否るかなって気もしてさー。なーんかモヤッちまったんだよなー。おまえら、結婚前提で付き合ってんだろ? なら、付き合い始めてから二ヶ月以上は経ってんだし、とっくにキス以上のことしちまってても、おかしくねーじゃん? 今日だって、オレとトラさんとサギさんとで協力して、別荘で二人きりってゆー、絶好のチャンス作ってやったんだからさー。まーたイチャイチャしてんだろーなーって、ラブラブしまくってんだろーなーって、思ってたのにさ。なのになんだよー、まだなのかよー?……いや。さすがにオレは、昼間っからヤッちまってるとか、そこまでは考えてなかったけどさ。けど、キスくらいはしまくってたんだろ? じゃあやっぱ、保科さんの『まだダメ』ってのは、『キス以上はまだダメ』って意味だったのか? なあ、どーなんだよ? この際、洗いざらい吐いちまえよ。なっ、龍生っ?」
今まで、訊くに訊けなかった分が、一度に噴出してしまったのだろうか。
結太はやたらと早口で、質問と、自分が今まで思っていたことなどを、龍生にぶちまけた。
龍生は呆れ返った顔つきで、饒舌な結太を眺めていたが、彼が全て話し終わると、深々とため息をつく。
「……そうか。おまえに妙なことを吹き込んだのは、やはり、藤島さんだったか」
……まったく。彼女にも困ったものだ。
国吉を海に突き飛ばし、周囲に多大な心配と迷惑を掛けたかと思えば、今度はこれか。
好奇心旺盛なのは結構だが、人の恋路にまで首を突っ込んで来るというのは、ハッキリ言って、不快以外の何ものでもない。
こちらは真剣に、誠実に、恋人と関係を深めようとしているのだ。
それを、ただ面白がられて、外側からちょっかいを掛けられたのでは、堪ったものではない。
(お祖父様に頼まれてしまったから、仕方なく同行を許したようなものなのに……。これ以上問題を増やすようなら、本気でお帰り願わなければならなくなるぞ。もう一度、警告しておいた方がいいだろうか)
龍生がそんなことを考え始めた頃。
興奮冷めやらぬ様子で、結太は更に身を乗り出す。
「なーなー、龍生! ヤッてねーのはわかったからさー、実際、どこまで行ってんのか教えてくれよー。最後までは行ってねーにしても、その一歩手前くらいまでは、行っちまってんのかー? なーなーなーっ、教えろってーーーっ!」
(……うるさいな。ここまでしつこく、プライベートな問題に首を突っ込んで来るような奴だったか、こいつは?)
うんざりして見返した後、龍生は、適当なことを言ってはぐらかそうと、口を開き掛けた。
すると、いきなり結太が走り寄って来て、
「なあっ、マジでいろいろ教えてくれよー! キスについてだけでもいーからさぁ! オレ、伊吹さんに、この島にいるうちに告りてーとは思ってっけど……告って、もしうまく行っちまったら……って考えっとさー、怖ぇーんだよー! オレ、なんにも知んねーしさー! 運良く付き合い出せたとして、それからどーすればいーんだー? 手取り足取り教えてくれよー、なあっ? 経験者としてさー、言えることいろいろあんだろーっ? なー、なー、なーっ!」
龍生の肩をガッシリ掴み、前に後ろに大きく揺さぶる。
いい加減イラッとした龍生は、結太の腕をつかみ、思いきり力を込めてやった。
「デ――ッ! 痛でででっ、痛てーっ、痛てーよ龍生っ! 痛てーってッ!!」
結太が龍生の肩から手を離すと同時に、龍生も結太の腕から手を離した。
結太は床に膝をつき、両手で両腕をさすりさすりしながら、涙目で龍生を睨みつける。
「てめー、本気でつかんだろ!? 握力ハンパねーんだから、勘弁しろよッ!! オレの腕潰す気か!?」
「おまえがしつこいのがいけないんだろう。……いい加減にしろ」
両手両脚を組み、龍生は冷たく見下ろしてから、スッと目をそらし、
「俺だって、咲耶が初めての人なんだ。そんなにいろいろ、知っているわけがないだろう」
心なしか頬を赤らめ、言い訳するようにつぶやいた。




