第14話 結太、龍生に恋の進展具合を訊く羽目になる
結太は今、龍生が使用している一階の部屋の前にいた。
イーリスに押し切られ、〝龍生に『咲耶との関係はどこまで進んだのか』訊く〟ことを、約束させられてしまったからだ。
しかも、イーリス曰く、
「いい? 賭けの内容を整理するわよ? 『キス以上の関係になった』って秋月くんから訊き出した上に、結構詳しい内容――どうやって咲耶をその気にさせたのか、とか……とにかく、『キス以上の関係になった』って情報以上のことを訊き出せたら、アタシの勝ち。『キス以上の関係になった』ってことすら訊き出せなかったら、結太の勝ち。『キス以上の関係になった』ってことのみを訊き出せたら、桃花の勝ちよ。勝った人間は、負けた二人に対し、何かひとつ、お願いすることが出来るの。これが、勝った人へのご褒美よ。……わかった? じゃあ、成功を祈るわ。いってらっしゃーい、結太♪」
……とのことで。
ニンマリ笑ったイーリスと、心配そうに見つめる桃花に見送られ、龍生のいる部屋まで、足取り重くやって来たのだ。
(くっそぉ~~~っ。なんでオレが、こんな野次馬代表みてーなことしなきゃいけねーんだ? 訊く気満々の、イーリスが訊けばいーじゃねーか。面倒事全部押し付けやがってぇええ……! あいつが女じゃなかったら、ぜってー、言うとーりになんてしてねーんだからな!)
結太はギリギリと歯噛みしながら悔しがっているが。
結局は言いなりになっているのだから、この時点で、結太よりイーリスの方が、立場が上――と認めてしまっているようなものだ。
負け犬・結太は観念して、龍生の部屋のドアをノックした。
しばし間が開いた後、
「誰だ?――東雲か? それとも鵲か?」
中から龍生の声がし、結太は渋々、『どっちでもねーよ』とだけ答えた。
ドアが開き、龍生が姿を現わす。
「なんだ? 夕食後は、好きにしていていいぞ? 明日の予定は、また朝食の時にでも――」
「べつに、何していーかわかんなくて来たワケじゃねーし、明日の予定を訊きたかったワケでもねーよ。……おまえに用があったんだ」
「……俺に? 用って、何の用だ?」
「それは……。ここでは、ちょっと……」
内緒話であるかのような雰囲気を出しつつ、結太は龍生から視線をそらす。
龍生は眉間にしわを寄せ、怪しむような顔つきをしてみせたが、
「まあ、いいだろう。――入れ」
ため息をついた後、中に入るよう促した。
龍生の泊まっている部屋は、意外とシンプルな内装だった。
右の奥の壁側には、ダブルサイズのベッド一台に、サイドテーブル。
同じく右の、ドア付近の壁側には、アンティーク調のデスクとチェア。デスク前の壁には、小さめの絵画が掛けられている。
正面の窓辺に、一人用のソファと小さめのテーブルが置かれ、左側の壁、三分の二ほどは、クローゼットになっているようだ。
龍生はデスクとセットになっているチェアを引き、横向きに腰掛けると、ドアの前で突っ立っている結太に、『どこでもいいから座れ』と声を掛けた。
結太は少し迷った後、デスクから二メートルほど離れた場所にある、ベッドのフットボード側(眠る時に足を置く方)に座った。
窓辺にあるソファを選んでしまうと、龍生からは、少し遠くなってしまうからだ。
結太が座ったのを確認すると、龍生は単刀直入に切り出した。
「――で? 俺に用とは?」
「うっ。……あ、ああ……」
部屋に入った直後に、『おまえと保科さんの、進展具合を教えてくれ』と訊ねるのは、いくらなんでも、唐突過ぎやしないだろうか?
少々、世間話などをした後に、訊ねた方がいいのでは――?
結太は一分ほど迷った末、覚悟を決めて龍生を見据えると、
「なあ、龍生。おまえ……今日、保科さんとヤッたのか?」
かなり思いきって、どストレートな質問をぶつけた。
龍生は、無表情のまま数秒ほど固まった後、大きなため息をついて、額と目元を片手で覆った。
「……まったく。何を言うかと思えば……」
声を聞く限り、怒ってはいないように思えるが、呆れた様子は、仕草やため息から伝わって来た。
ストレート過ぎたかと、結太は内心焦ったが、口に出してしまったのだから、今更取り消せない。
龍生は片手を下ろし、結太をまっすぐ睨みつけると、
「『ヤッた』などと、下品な言い方はするな」
やや不機嫌そうに注意して来た。
結太はむうっと口をとがらせ、
「悪かったな、下品なヤツで。……どー言おーがおんなじだろ。さっさと教えろよ。ヤッたのか? ヤッてねーのか?」
こうなったらヤケだと、しつこく追究する。
「そんなこと、どうしておまえに教えなければいけないんだ? そんな義理はないだろう」
「義理があるとかね―とか、そーゆー問題じゃねーだろーが! 教えてくれたっていーだろ、幼馴染なんだから!」
「何故、幼馴染だと教えなければいけないんだ? そんな道理はないはずだが」
「ねーよ! あるワケねーだろそんなもん! あって堪っか!」
「……おまえ、何が言いたいんだ?」
教えろと言っているくせに、教えなければいけない道理はないはずだ、とのこちらの主張を、否定して来るわけでもない。
支離滅裂な奴だなと、龍生は訝しんだ。
教えてもらいたい気持ちは、結太にももちろんある。
しかし、龍生にペラペラと話されてしまったら、賭けは結太の負け――ということになり、女子二名どちらかの〝お願い〟を、聞かなければいけなくなる。
桃花は無理なお願いなどしないだろうし、恋しい相手のお願いであれば、何でも叶えてやりたいという思いもあるので、別に構わないのだが。
問題はイーリスだ。
彼女なら、平気で無理なお願いをして来そうではないか。
それを考えると、龍生には、固く口を閉ざしていてほしい……という感情の方が、強くなってしまうのだった。
結太は、これが最後というつもりで、三度目も同じ質問をぶつけた。
「教えろ、龍生! 今日、保科さんとヤッたのか、ヤッてねーのか!?」
「ヤッてない」
龍生の短い返答の後、室内はシンと静まり返った。




