第13話 結太と桃花、イーリスの主張に圧倒される
「……『二人の仲がどこまで進んだのかが知りたい』って……」
龍生と咲耶の〝恋の進展具合〟が気になって仕方がないらしいイーリスに、結太は呆れ顔だ。
「だいたい、そんなこと知ってどーすんだよ? イーリスに、何かカンケーあんのか?」
「ないわッ!!」
間髪をいれずに返され、結太はお笑い番組のお約束のごとくズッコケた。
「何だぁそりゃっ!? 結局、ただの野次馬根性ってだけなのかよ!?」
「そーよいけない? 友達の恋の進展具合を知りたいって思ったらいけないの? 罪になるの? 法律で罰せられるの?」
ものすごい早口でたたみ掛けられ、結太は思わず、体を大きくのけ反らせた。
桃花はイーリスの熱意(?)に圧倒され、口をポカンと開けたまま、ただただ彼女を見守るのみだ。
イーリスはソファから勢いよく立ち上がると、胸の脇辺りで両拳を握り締めた。
「だって気になるじゃない! 学校では、『今日も俺、保科さんに、ウジ虫見るような目つきで睨まれちまったぜ!』とか、『俺なんか、存在をまるっきり無視されちまった!』とか『俺なんか俺なんか、〝邪魔だ。どけ〟――とかってすごまれちゃったもんね!』なんて訳のわからない理由で、M男子達に陰で自慢大会開かれてたり、ツンデレだかクーデレだかってもてはやされて、半数近くの男子達に憧れられてる存在の、あの咲耶がよ!? いったいどんな顔して、秋月くんとの初体験に臨んだのかって考えると……。そりゃーもう、興味湧かずにはいられないでしょ! 湧くわよ! 絶対湧くに決まってるじゃない! しかも、相手はあの、学校一のモテ男の秋月くんなのよ!? 中身はどうなんだか、私はまだよく知らないけど、普段は爽やか美少年、『性欲なんてありません』って顔して澄ましてる彼が、よ!? どんな風に咲耶に迫ったのか。どんな風に咲耶をその気にさせたのか。どんな風にどんな風にって、どんどん好奇心が溢れ出して来るじゃない‼ 溢れずにはいられないじゃない!? ねえ! ホントはあなた達だって、知りたくて知りたくて知りたくて、好奇心大爆発で大変なんでしょ!? ねっ、そーでしょ!? そーなのよねぇッ!?」
引いてしまうほど鼻息荒く、イーリスは結太と桃花に迫る。
「……ね? ホントは知りたいわよねぇ、結太? 知りたいに決まってるわ。そーでしょ? いーのよ、桃花の前だからってカッコつけなくても? 桃花だって、口には出せないだろーけど、きっと気になってるに違いないんだから」
「な――っ?」
「ふぇっ?」
そう言ったきり、結太と桃花は、再び真っ赤になって絶句した。
……確かに、全く気にならないと言えば、嘘になる。
嘘になるし、実際、気になってもいる。
だからと言って、いくら友人であろうとも、好奇心丸出しであれこれ訊ねるというのは、下品ではないか。
それに、もし――ねほりはほり訊いたことにより、二人が気まずくなってしまったら……と思うと、とてもじゃないが、気楽には訊ねられない。
結太も桃花も、イーリスのあけすけな好奇心を、迷惑だと感じながらも……心の内では、ちょっぴり羨ましいとも思っていた。
彼女のように、無遠慮に訊ねることが出来たなら、まだいくらか楽な気持ちで、二人の側にいられるような気がしたのだ。
――とは言え。
あの龍生が、『どこまで進んでいるのか?』という質問に、素直に答えてくれるとは思えない。
咲耶から聞き出すのも、龍生以上に難しい……いや、不可能に近いだろう。
だとすれば。
やはり、諦めるしかない。
……という結論に至るのが、当然ではないだろうか。
結太はしばしの沈黙の後、イーリスを正面から見据えると。
「ここでオレが『知りたい』って言ったとしても、どーにもなんねーだろーが。……あの龍生が、大人しく〝進展具合〟なんて教えてくれると思うか? 教えてくれるワケねーだろ? だったら、訊くだけムダじゃねーか」
「教えてくれるかどーかなんて、訊いてみなくちゃわからないじゃない。秋月くんだって男よ? 友達に、初体験の自慢話をしたいって、思ってるかもしれないわよ?」
「ねーよ。それはぜってーねー。あの龍生を、そこら辺の男と同等に考えんなよな」
「あら。そーかしら? 秋月くんにだって、普通の男性と同じような願望や欲望は、あるに決まってるって、アタシは思うけど?……結太は秋月くんのこと、完璧人間だと決めつけてる気がするわ」
「そん――っ、……なこと、ねーよ……」
「あるわよ」
「ねーよ!」
「あるってば」
「ねーったらねーったらねーったらねーよッ!!」
「あるったらあるったらあるったらあるわよッ!!」
テーブルを挟んでの睨み合い、言い合いに、桃花は、ただオロオロと、二人の間で視線をさまよわせることしか出来ない。胸の前で両手を組み合わせ、見守ることしか出来なかった。
一分ほどの、睨み合いの末。
イーリスはため息をひとつつき、結太をビシッと指差した。
「じゃあ、賭けをしましょう!」
「……は? 賭け?」
「そーよ、賭けよ! もし、結太が秋月くんから、セ――ッ……ん、んんっ……じゃなくて。一線を越えた、キス以上のことをしたって教えてもらって、その上、その時の手順とゆーか……行為なんかを、結構詳しく教えてもらえたら、アタシの勝ち。彼が一切のことを教えてくれなかったら、結太の勝ち。『キス以上のことをした』ってゆー、事実のみを教えてもらえたら、引き分け。……そーね、この場合は……桃花の勝ち、ってことにしていいわ」
「ひぁっ……えッ!?」
まさか、自分も賭けのメンバーに加えられるとは、思ってもいなかったのだろう。桃花が奇妙な声を上げた。




