第18話 結太と桃花、収集活動に専念する
結太と桃花は砂浜にしゃがみ込み、ものすごく真剣に、貝殻とシーグラス集めに没頭していた。
初めは、軽い気持ちで探していた二人だったのだが。
綺麗な形の貝殻や、様々な色のシーグラスが、ひとつ、ふたつと見つかるたびに、夢中になってしまったらしい。気が付くと、かなり長い間、砂浜とにらめっこしていた。
「――うん。まー、こんなもんかな?」
結太は両手いっぱいの戦利品を見つめると、満足げにうなずいた。
色とりどりのシーグラスと、小さな貝殻の山。
これだけあれば、アクセサリーも幾つか作れるだろう。桃花も、きっと喜んでくれるはずだ。
意気揚々と振り返り、桃花の姿を探す。
すぐに見つかりはしたが、かなり遠い場所にいた。こちら側に背を向け、うずくまっている。
いつの間にか、こんなに離れてしまっていたんだなと、思わず苦笑してしまった。
いくら桃花のためとは言え、こんなにも長い間、無言のまま、ひたすら貝殻やシーグラス集めをしていたなんて、我ながら呆れる。
気を取り直し、桃花の背に向かって『おーい』と声を掛けた。
「伊吹さーーーんっ! こっちは結構収穫あったけど、そっちはーーーっ?」
片手を振りながら訊ねると、桃花は、しゃがんだままくるりと振り向き、同じように片手を振り返す。
「楠木くーーーんっ! こっちもたくさん取れたよーーーっ!」
――珍しい。いつも大人しく、控えめな桃花がはしゃいでいる。
ウキウキしているような、弾んだ声が返って来た。
(あー、よかった。テキトーに言った〝貝殻とシーグラス集め〟だったけど、予想以上に楽しんでもらえたみてーだ。伊吹さんが泳げねーって聞ーた時は、どーしよーかと焦ったけど……。うん。結果オーライだな。何でも、言ってみるもんだ)
桃花の返事に気を良くしながら、結太は彼女のいる方へ歩を進める。
数メートルほど前まで近付くと、桃花はすっくと立ち上がり、掌を上に向けた状態の両手を、結太の前に差し出した。
「ほら見て、楠木くん! こんなにたくさん、綺麗な色のシーグラス見つけちゃった!」
輝くような笑顔は、少し自慢げだ。
まるで、見つけた宝物を、親に示して見せる幼子のような無邪気さだった。
(か……っ、可愛いっ! 可愛過ぎだろ伊吹さんっ? あーもーっ、どーしてこんなに可愛いんだっ?……くぅぅぅーーーッ! チクショーッ、今すぐこの場で〝ギュ〟ってしてぇええーーーッ!!)
心の内で悶えながらも、グッと拳を握って歯を食いしばり、どうにか『抱き締めたい』衝動を抑え付ける。
結太は取り繕うようにニカッと笑い、
「そっか。よかったな、伊吹さん!――オレも、ほら。伊吹さんに気に入ってもらえるかはわかんねーけど、一応、こんだけ拾えたよ」
桃花を真似るように、握っていた両手を桃花の眼前に持って行き、そっと開いた。
結太の両掌を覗き込む桃花の瞳が、キラキラと輝く。
「わあ、綺麗! 貝殻も可愛い……!」
「うん。探してるうちに楽しくなって来てさ。思わず熱中しちまったよ。この砂浜、貝殻もシーグラスも、すっげー簡単に見つかったろ? フツーは、こんな短い間にこれだけの量は拾えねーよな? やっぱ、プライベートビーチだからかな?」
ゆっくりと周囲を見回した後、結太は桃花に視線を移し、小首をかしげた。
桃花も、同意するように大きくうなずく。
「うん。そーなんじゃないかな? 人がたくさん来るような海岸だったら、ここまで簡単には、見つけられなかったと思う」
「だよな! じゃー、プライベートビーチ様様、ってワケだ。龍生に感謝しねーと」
二人は視線を交わし合うと、同時にフフっと微笑んだ。
龍生には、心底感謝せねばなるまい。
夏真っ盛りの季節に、海岸(しかもプライベートビーチ)で、想いを寄せる人と二人きりでいられる確率など、極端に低いはずだ。奇跡と言っても、過言ではないのではなかろうか。
少なくとも、結太のような一般庶民には、二度と経験出来ない贅沢であることは、まず間違いないだろう。
うんうんとうなずきつつ、結太がしみじみ、感動を噛み締めていると。
「あの……。えっとね? 楠木……くん?」
ふいに。何か言いたげな上目遣いで、桃花がじっと見つめて来た。
「んー…………ん? んあっ?――ごっ、ごめん! ちょっとボーッとしてた! えっ、と……なっ、何かな?」
慌てて返すが、桃花はもろに目が合うと、パッと視線を外し、頭頂部どころか、頭の裏側まで見えてしまいそうなほど深く、深くうつむいた。
「え――。伊吹……さん?」
ためらいつつ声を掛け、しばらくの間、反応が返って来るのを待つ。
しかし、一分経っても、二分経っても、桃花は顔を上げようとしなかった。
結太はいよいよ困り果て、もう一度、どうしたのかと訊ねてみようと、口を開いた。
すると、ようやく桃花は顔を上げ、
「あのっ!……わ、わたし……この貝殻とシーグラスで、何か作ってみようと思ってるんですっ!……けど――」
そう告げた後、再びうつむいてしまう。
「……ん?……あぁ……う、うん……?」
結太はキョトンとし、曖昧な答えを返した。
……まあ、あれほど夢中になって集めていたのだ。何か作る気でいるのだろうなと、初めから思ってはいたが。
今更また改まって、どうしたというのだろう?
戸惑いの中、結太は桃花を、ただ見つめていることしか出来なかった。
桃花はと言うと、顔どころか耳の縁まで、熟した桃のようにピンク色に染め、胸の前で両手を組み合わせてモジモジしている。
再び沈黙が訪れ……それからまた、一分ほど経った頃。
「あっ、あのっ! まだ、何を作るかは、具体的には決めてないんですけどっ! でもっ、あの――っ、……つ、作り終わったらっ、きょ、今日の記念――に、楠木くんに、プレゼントし……したいな――って思っててっ!……で、で……っ、ですから、あのっ、……プ、プレゼントしてもっ、い……い……いー……です、か……?」
語尾に近付くほど、桃花の声はか細く、小さくなって行った。最後の方は、ほとんど聞き取れないくらいだった。
それでも、彼女の言おうとしていることは、充分理解出来た。
理解は出来たのだが……突然の申し出に、結太はとっさに返事が出来なかった。




