第19話 結太、桃花に〝プレゼント予告〟される
桃花に『今日の記念に、プレゼントしてもいいですか?』と訊ねられ、とっさに返事ができなかった結太だが。
――いや。
返事出来なかったと言うより、告げられた内容が、すぐには信じられなかったのだ。
まさか。
そんなこと、あるはずがない。
いつものネガティブ思考が邪魔をして、桃花の言葉が、すんなりとは入って来ず……。
だからこそ、しばらく脳内で、桃花の台詞を反芻していた。
「あ……あの……。ご、ごめんなさい。急に、変なこと言って……。や、やっぱり、メーワク……ですよね」
結太が黙り込んでしまったので、マイナスの意味に捉えてしまったのだろう。桃花の声は、涙混じりになっていた。
恥じ入るように、再び深くうつむいてしまった桃花に気付くと、結太はようやく覚醒し、
「そっ、そんなっ! め、メーワクなんかじゃ――っ! ぜ、全然ッ!! 全然全然ッ、メーワクなんかじゃねーってッ!!」
焦ってブルブルブルブルと、しつこいくらいに首を振る。
桃花は少しずつ顔を上げ、潤んだ瞳で、じっと結太を見上げた。
「ほ……ホント、に……? メーワクじゃ……ない……?」
「うんッ!! ホントにメーワクじゃねー!!――むしろ、すっげー嬉しいっ!!」
コクコクコクと、今度はしつこいくらいにうなずいてから、結太は満面の笑みを浮かべた。
その顔を見て、桃花もホッと出来たのだろう。口元をほころばせると、『よかった』とつぶやいた。
「……あのね? 今日、すごく楽しかったから、このこと、ずっと忘れたくないなって思って。記念に何か作っておけば、それを見るたびに、この日のこと思い出して……また、幸せな気分になれるでしょう? だから、あの……。あ、厚かましいかなって、思ったりもしたんだけど……。楽しいって感じてるのは、わたしだけかもしれないのに。楠木くんには、迷惑なだけかもって、思ったんだけど……。でも、どーしても……二人で集めた貝殻とシーグラスで、何か、記念になるもの作って……楠木くんにプレゼントしたいなって、思っちゃったの」
恥ずかしそうに顔を伏せたまま、桃花は、自分の気持ちをわかってもらえるよう、懸命に語った。
結太は、うつむいた桃花の頭頂部を、ぼうっとした顔つきで見つめ、
(オレ、今日……こんな幸せでいーのかな……? もしかして、オレ……明日、死ぬ運命……だったり?)
などという、『いくらなんでも、大袈裟過ぎるだろッ!』とツッコミを入れたくなるようなことを考えていた。
しかし、徐々に頭が冴えて来ると、
(――いや、だってさ! だって、伊吹さんがこのオレに、『プレゼント』くれるって言ってんだぜ!? しかも、プレゼントしたい理由っつーのが、『すごく楽しかったから』と、『ずっと忘れたくない』――なんだぜ!? 前にも一度、クッキーをプレゼントしてくれたことあったけど、あれはオレだけってワケじゃなかったし、ずっと取って置けるもんでもなかった。……けど、今度はオレだけに、ずっと取って置けるもんを、プレゼントしてくれるって言ってんだぜ!? それって何か、〝特別〟じゃね!? すっげー〝特別〟って感じしねー!?……するよな? ぜってーするって!! フツー、いくら楽しかったからって、わざわざ何か作ってプレゼントしてー……なんて思うもんか!? 思わねーよな!? 何とも思ってねー相手に、そんなメンドクセーこと、わざわざしたりしねーよな!?……ってことは……。もっ、もしかしてもしかすると、伊吹さんもオレのこと――っ?」
思い掛けない幸せの予感に、結太は胸を躍らせた。
いつもであれば、特別な好意らしきものを感じることがあっても、『自惚れちゃダメだ』『どーせ勘違いに決まってる』と、すぐさま打ち消しているところだが。
わざわざ手作りの物を――しかも、取って置ける物をプレゼントしたいと、桃花が思ってくれていることが、『こりゃー今度こそ、勘違いじゃないんじゃ……?』という期待を、結太に抱かせたのだ。
(……とするとこれは、チャンスじゃねーのか? 告白する絶好のチャンス、ってもんじゃねーのかっ!?……そりゃ、欲言っちまえば、もー少しムードのある場所で――夕暮れ時とか、降るような星空の下で――とか、ロマンチックな雰囲気の中でしたかったけど……。でもっ、このチャンスを逃す手はねーんじゃねーか!? ここで告っちまった方が、すんなり成功すんじゃあ……?)
ゴクリと唾を飲み込むと、結太は表情を引き締め、まっすぐに桃花を見つめた。
思い切って告白してしまおうと、口を開き掛けたのだが。
「ゆぅううーーーたぁあああーーーッ!! 結太結太結太結太ぁあああーーーーーッ!!」
いったいどこから現れたのか。
突如として、水着姿のイーリスが、大声で結太の名を連呼しながら、波打ち際を駆けて来るのが目に入った。
「へっ?――い、イーリスっ!?」
ギョッとして固まる結太目掛けて、イーリスは思いきり砂浜を蹴ると、
「わぁあーーーんっ!! ゆーーーたぁああああーーーーーッ!!」
今にも泣き出しそうな顔をして、飛び掛かるかのような勢いで抱きついて来た。
毎度のお騒がせ少女イーリスに、良い雰囲気をぶち壊されてしまった結太。
どうやら彼女にも、一大事件が起きてしまったようで……?
――と、ここまでが第3章となります。
お読みくださり、ありがとうございました!
お気に召してくださいましたら、下記☆☆☆☆☆での評価、ブックマーク、感想等お寄せいただけますと、大変励みになります。どうかよろしくお願いいたします!




