第16話 結太、桃花に怪我がないか心配する
結太は桃花に手を貸し、ゆっくり立ち上がらせると、顔を真っ赤にさせつつも、神妙な様子で謝った。
「ホントにごめん、伊吹さん! 頭とか背中とか、痛くねー? もし痛いんだったら、無理したりしねーで、ちゃんと言ってくれよな?」
桃花に何かあったら大変だ。
打ち所が悪く、後に症状が――などということになったら、悔やんでも悔やみきれない。
そんなことを思いながら、結太は桃花の顔を覗き込む。
桃花も、やはり顔を赤くしながら、『う、ううん……。ホントに、どこも痛くない、から』と蚊の鳴くような声で答え、そっと結太から目をそらした。
心配してくれるのは嬉しかったが、あまり顔を近付けられると、どうしたって意識してしまう。
特に今は、二人とも水着姿だ。
いくら上半身だけと言えども、男性の裸など、間近で見た経験のない桃花は、目のやり場に困ってしまうのだ。
結太も、いつもであれば、『伊吹さんに目ぇそらされたっ?』とショックを受けているところだが、心配する気持ちが強い今は、そんな風に捉える余裕すらない。
桃花の『どこも痛くない』との言葉を聞き、ようやく、ホッと胸を撫で下ろした。
「そっか。……あ~、よかったぁ~~。伊吹さんにケガがなくて」
ニッコリ笑う結太だったが、桃花は未だ恥ずかしがって、モジモジしながらうつむいている。
桃花のそんな様子には全く気付かず、結太は『あっ』と声を上げた。
「砂! 伊吹さんの体、砂だらけになっちまってる!……ごめん。オレがぶつかっちまったせいで……」
責任を感じてシュンとする結太に、桃花は慌てて顔を上げ、ふるふる首を横に振った。
「ううんっ、砂くらいヘーキ! それに、海に入れば、全部落ちちゃうと思うしっ」
せっかく結太と海にいるのだ。自分のせいで、暗い気持ちになってほしくない。
その一心で、桃花は必死に訴えた。
「だからっ、あのっ。……え……えっと……。う、海っ。海に入りませんっ……か?」
内心、『一人で入ってくれば?』と返されたらどうしよう……とヒヤヒヤした。
しかし、結太はパアッと顔を輝かせ、
「うっ、うん! 入ろー、海!……そーだよな。せっかく海にいるんだし、砂浜で、ただボーっとしてたら、バカみてーだよな」
嬉しそうにニカッと笑い、東雲達が用意しておいてくれた、荷物の方を振り返る。
そこに置かれているのは、先ほどまで東雲らと打ち合っていたビーチボール、大きめの浮き輪、シュノーケル(正確に言えば〝シュノーケルセット〟。マスクやフィン、ライフジャケットなど、シュノーケリングに必要なものが揃えてある)だ。
高校生らしく海で遊ぶのであれば、シュノーケリングだろうか?
浮き輪で海に浮かぶ彼女に、ちょっかいを出しては、キャッキャウフフするなどは、恋人同士であれば、充分成立するお遊びなのだろうが……。
残念ながら、結太と桃花は、まだそんな遊びが出来るほど、距離が縮まっていない。
島にいる一週間の内になんとかしたいと、結太などは願っているが……。とにかく、今はまだ早い。
結太は桃花に顔を向け、
「ここの海、すっげーキレーだし、シュノーケリングでもする?……っても、オレ、やったことねーんだけど……。ここにあるの全部身に着けて、泳ぎゃいーってだけかな? ダイビングと違って、免許は必要ねーんだってことは、聞ーたことあんだけど……。伊吹さん、遊び方知ってる?」
知識のない自分が恥ずかしかったが、ただでさえ、水辺での遊びには危険が伴う。
遊び方もろくに知らない者が、無責任に誘ってはいけない。
好きな子の前で知ったかぶりたい気持ちも、あるにはあったが。
見栄を張って良いところと、悪いところの区別は、一応付けられるのが、結太という人間だった。
「あの……ごめんなさい。わたしも、わからないの……。それに、あの……実はわたし、泳げなくて……」
消え入りそうな声で告げると、申し訳なさそうに、桃花は深くうつむいた。
「えっ、そーなの?……そっか。じゃーどっちにしろ、シュノーケリングは無理かな?……とすると、ビーチボールか……」
結太はじっとビーチボールを見つめる。
……二人で打ち合うだけでも、果たして、楽しめるものなのだろうか?
「ご、ごめんなさい。わたしが泳げないせいで、遊びの選択肢が少なくなっちゃって……」
ますます下を向いてしまう桃花に、結太は焦り、ブルンブルン首を横に振った。
「いやっ、ダイジョーブだって! こんなキレーな海なら、見てるだけでも楽しーしさっ。それにほらっ、砂浜で貝殻見つけるとか、シーグラス見つけるってだけでも、ジューブン楽しーんじゃねーかなっ?」
……まあ、結太は〝貝殻集め〟など、一度もやったことはないのだが。
それでも、桃花と一緒であれば、何でも楽しめる自信はあった。
結太は軽い気持ちで、〝貝殻とシーグラス探し〟を提案した。




