第15話 結太、桃花と体が密着しパニくる
東雲に突き飛ばされ、桃花を下敷きにして砂浜に倒れ込んだ結太は、直に感じる女性の肌の感触に驚き、且つ、感動していた。
桃花は華奢な体つきなので、女性特有の〝柔らかさ〟のようなものも控えめなんだろうなと、失礼ながら、結太は勝手に想像していたのだが。
その想像は大いにはずれ、倒れた拍子に触れた彼女の腕の感触は、思いの外柔らかかった。
結太は新鮮な感動に突き動かされ、『もっといろいろ感じたい。許されるなら、あちこち触りまくりたい』との欲望を抱いた。
だが、それも一瞬のこと。
耳元で、『く……楠木、くん』という可愛らしい声が響いた瞬間、結太は我に返った。
「う――っ、……わぁああああッ!! ごっ、ごごごごごめんごめんごめんっ!! ごめんっ伊吹さんッ!!」
慌てて砂浜に両手をつき、上半身を起こす。
眼下の桃花は、彼と目が合ったとたん、恥ずかしそうに目をそらした。――顔どころか、首筋までも真っ赤だ。
「ごっ、ごめんッ!! ホントにごめんッ!! オレっ、急に押されて、踏ん張りきかなくて――っ!」
結太も全身を真っ赤に染めつつ謝り、素早く東雲を振り返ると、抗議の意味を込めて睨み付ける。
「トラさんッ!! いきなり何すんだよッ!? オレのことはまだいーけど、伊吹さんが怪我したらどーするつも――っ……あ。伊吹さんっ、ダイジョーブかっ? オレ、思いっきりぶつかっちまったけど……。頭とか背中とか、打っちまったよな? ごめんなっ? ホントにホントにごめんっ!」
桃花をじっと見つめ、心配そうに訊ねるが、彼女は胸の前で両手を組み合わせ、結太から目をそらしたまま、消え入りそうな声で『だ……ダイジョ……ブ』と返事をした。
「だから言っただろ? 『伊吹様のお気持ちは、伊吹様にしかわかんねー』って。いー機会だし、直接本人に訊ねてみたらどーだ?」
焦る結太を見下ろし、東雲はニヤつきながら提案する。
結太は再び東雲を振り仰ぎ、眉間にしわを寄せた。
「た……訊ねるって、何をだよ?」
「伊吹様が、おまえのことをどー思ってるかってことを、だ」
「ふぇ――っ!?」
東雲の台詞に、結太の心臓はドックンと跳ね上がった。
ようやく元に戻りつつあった顔色も、再び真っ赤に染まる。
「なななっ、な――っ、何バカなこと言ってんだよッ!? どーして今、そんなこと訊かなきゃいけねーんだッ!?」
動揺する結太に、
「どーしてって、決まってんだろー? おまえが今、一番訊きたくて堪んねーことだろーから、だよ」
東雲は、相変わらずのニヤニヤ笑顔だ。
結太の全身からは汗が噴き出し、これでもかと言うくらい、肌は真っ赤に染まって行った。
恥ずかしくて、真下に横たわっている桃花の方へ、顔を向けられない。
「なん…っ、な、な……っ、何を言っ――?」
どうにかして声を絞り出そうとするが、頭は真っ白。言うべき言葉が見つけられず、結太は口をパクパクさせた。
東雲は尚、薄ら笑いを浮かべ、腰に手を当てながら結太を見下ろしている。
東雲の言う通り、桃花にどう思われているか知りたい気持ちは、もちろんあった。
――と言うか、告白出来るものなら、今すぐにでもしてしまいたい。
だが、こんなムードもへったくれもない状況下で、一年以上抱き続けて来た恋心を打ち明けるのは、絶対に御免だった。
告白するなら、夕暮れの海岸や、無数の星々が輝く夜空の下で……など、もっとロマンチックな雰囲気の中でしたい。
結太は東雲をキッと睨み、
「いー加減にしてくれよッ!! さっきから、よけーなことばっかり言ーやがって! いくらトラさんでも、これ以上、勝手なこと言ったりしたりしたら、ぜってーに許さねーぞッ!?」
恥ずかしさで涙目になりながら言い返すと、東雲は笑顔から一転、落胆したようにため息をついた。
そして『……ったく。じれってーなぁ』とつぶやくと。
「あー、わかったわかった。んじゃまー、邪魔者は退散すっから、後は若いもんどーし、勝手にやってくれ。――行くぞ、サギ」
くるりと背を向け、東雲は一人で歩き出す。
呼ばれた鵲は、
「えっ? あ――。ちょっ、ちょっと待ってくれよ、トラっ!」
慌てて呼び止めようとしたが、彼は構わず歩き続ける。
鵲は、東雲と結太を交互に見やり、しばらくその場でためらっていたが。
結局は東雲を追い掛け、どこかへ行ってしまった。
砂浜に残された結太は、彼らの姿が見えなくなるまで見送り……ふと視線を下に移すと、
「あっ! ごっ、ごごごごめ――っ! ごめんっ、伊吹さんッ!!」
未だ、桃花の体の自由を奪っていたことに気付き、慌てて立ち上がった。




