第5話 結太、イーリスと咲耶の仲を案じる
逃げるように別荘へと戻って行ってしまった咲耶と、その彼女を追って行った龍生の姿が、完全に見えなくなり、声も聞こえなくなってから、しばらくの後。
「まったく。だから言ったのに、咲耶ったら――」
イーリスのつぶやく声で現実に引き戻された結太は、くるりと彼女を振り返った。
「え……? 『だから言ったのに』、って……。イーリス。また保科さんに、余計なこと言ったんじゃねーだろーな? もしかして……だから保科さん、あんなカッコを?」
訊ねると、イーリスはムッとしたように結太を睨みつけ、
「失礼ね。何よ、『余計なこと』って? 一応言っておくけど、スクール水着を選んだのは咲耶の意思よ? アタシがせっかく、似合いそうな水着を選んであげたってゆーのに、『こんなの着られるか』って拒否するんだもの。だから、この結果を招いたのは咲耶自身。――ねえ、そーでしょ桃花? あなただって、水着を買いに行った日に、同じところにいたんだもの。アタシが押し付けたわけじゃないって、証明してくれるわよね?」
そう言って、桃花に同意を求める。
急に話を振られた桃花は、驚きつつも、慌ててこくりとうなずいた。
「う、うん。スクール水着を持って行くって言ってたのは、咲耶ちゃんだけど……」
「ほーら。桃花だってこう言ってるでしょ? アタシがスクール水着を勧めたわけじゃないんだから。むしろ、アタシは止めたのよ? 海で遊ぶのに、スクール水着を持って行こうとするだなんて信じられないって。恋人である秋月くんが可哀想――ってね」
べつに、『保科さんにスクール水着を勧めたのか?』と、ストレートに訊ねたわけではないのだが。
結太の言い方から、疑われているとでも思ったのだろう。イーリスは、桃花の口添えによって、無実を証明出来たと主張するかのように胸を張り、両手を腰に当てて仁王立ちした。
「いや……。イーリスがスク水勧めたのかって、訊ーたワケじゃねーんだけど……」
結太はただ、咲耶が怒ってムキになるようなことを、イーリスが言ってしまったのではないかと、チラッと思っただけだった。
二人はしょっちゅう言い合いをしているし、相性が悪いようにも思えたので、日頃から気にしていたのだ。
「けど、まあ……それはともかくとして。龍生達、ダイジョーブなのか? 二人がケンカしたりしたら、俺達だって気まずくなっちまうし……様子、見に行った方がいーよな?」
そう言って、結太が別荘に向かい、足を一歩踏み出した時だった。
「ストーーーーーップ!! ストップストップ!! ストォオーーーーーーップ!!」
「待ってッ!! 結太さんはここにいてッ!!」
東雲と鵲が、両手を大きく広げて結太の前に立ち、行く手を阻んで来た。
体の大きな二人に、突然通せんぼされ、ギョッとして結太は顔を上げる。
「どっ、どーしたんだよトラさん? サギさんまで……。ここにいてって、なんでだよ? 二人が心配じゃねーのか?」
二人は顔を見合わせた後、結太に向き直り、『心配に決まってる!!――けどっ、そーじゃなくてッ!!』と口を揃えて反論した。
「えぇ……? んじゃ、どーして……?」
困惑して訊ねる結太に、二人は再び顔を見合わせてから、イーリスと桃花をチラ見する。
そして、彼女達から少し離れた場所まで移動すると、結太をそっと手招きした。
首をかしげて二人に近付いて行ったとたん、両側から素早く腕が伸びて来て、ガッシリと肩を掴まれる。
戸惑っている暇もないまま、結太は二人の傍らまで引き寄せられ、ハッと気が付くと、三人で円陣を組んでいた。
女性二人の視線を避けた円陣の内側で、男性三人が、声を潜めて何を話していたかと言うと。
「心配だってのはわかるが、よーく考えてみろよ、結太? 今、別荘には誰もいねえ。そこに保科様が戻って行ったとしたら――だ。俺達が戻らねー限り、お二人は別荘で二人っきり……ってことになんだろーが」
「えっ?……あっ、そっか。……ってことは――」
「チャンスだよっ。坊ちゃんにとって、これは絶好のチャンスなんだよっ。伊吹様と藤島様を、ここに引き留め続けることが出来れば、坊ちゃんと保科様は、午後の間ずーーーっと、二人きりでいられるんだ!」
――なるほど!
そーゆーことかっ!!
様子を見に行くことを止められた意味を、ようやく理解した結太は、東雲と鵲と目を合わせた後、大きくうなずいた。
三人は円陣を解いて上体を起こすと、同時に振り返り、
「よーーーっし! まずはみんなで、ビーチボールで遊ぶかーーーっ!」
「おーーーっ! いーねいーねっ! ラリーをどんだけ長く続けられっか、チャレンジしよーぜっ!」
「うん! さーんせーーーいっ! みんなで楽しく、ビーチボールで遊ぼーーーうっ!」
口々に発した後、イーリスと桃花に向かい、ニカッと笑い掛けた。




