第4話 男性陣、咲耶の水着姿に言葉を失う
放り投げられたTシャツを目で追い、砂浜に落ちたのを確認してから、咲耶に視線を移した男性陣は、
「うぇ――ッ!?」
という奇妙な声を上げた後、固まってしまった。
咲耶は、両手で自分の体を抱き締めるようにして、顔を赤らめつつたたずんでいる。
両手で隠せない部分から覗いているそれは……明らかに、スクール水着だった。
結太達が通う桜月高校指定のスクール水着は、上下に分かれたセパレートタイプ。色は黒で、左右に白のラインが入っている。
上はタンクトップのような形状。下はほぼスパッツだが、丈は三分ほどあるので、太ももの半分以上が隠れてしまう。
ハッキリ言って、色気の欠片もないデザインだった。
せっかくのバカンスに、わざわざスクール水着を選んで着て来る人間がいるなどとは、思ってもみなかったのだろう。皆、唖然としている。
シンと静まり返った砂浜に、しばらくの間、寄せては返す波の音だけが響いた。
そんな中、最初に我に返ったのは結太だった。
(いやいやいやいや――っ! いくらなんでも、スク水はねーだろ保科さん!? なるべく露出の少ねー水着を――って考えんのも、わかんなくはねーけど……。それにしたってスク水はねーよ、スク水は! そんな色気のねー水着着て来られちゃ、龍生が気のどっ――く……)
そこで結太は、恐る恐る、龍生を盗み見た。
彼は他の者達とは違い、唖然とはしていなかった。
……が、呆れたとも、落胆したとも言えない、どうにも表現しようのない顔つきで、咲耶をただただ凝視していた。
表現しようがない――が、それでもあえて、彼の表情を言葉で表すとしたら……〝無〟だ。
〝無〟という言葉が、一番しっくり来る気がする。
もともと本心が読みにくいタイプではあるが、咲耶の前でだけは、素直な感情表現をしているように思えたので、この表情は、結太にとっては意外だった。
これでは、ガッカリしているのか、呆れているのか、はたまた、別の感情を抱いているのか、容易には判断出来ない。
正直に、どう思っているのかを訊ねるべきか、結太が決めかねていると。
ずっとうつむき、目をつむっていた咲耶が、静かに瞼を開いた。
ゆっくりと顔を上げて辺りを見回し、皆が固まっていると気付くや、心細そうに身をすくめる。
(な……なんだ? 妙に静かだと思ったら、みんな押し黙って……。やはり、呆れているのか? 海にスクール水着を着て来るなんてと、呆れ返っている――?)
それならそうと、ツッコむなり大笑いするなり、何かしらリアクションしてくれればいいのに。
ただ黙って、じっと見つめられているだけでは、何を考えているのかわからない。
そんなことを思いながら、救いを求めるかのように、龍生の方へ視線を移した。
(え……っ?)
予想外の表情にヒヤリとし、咲耶は大きく目を見張る。
きっと、微笑んでくれているだろうと思っていた恋人は、これっぽっちも、笑ってはいなかった。
呆れている風でもないが、かと言って、この水着を歓迎しているようにも見えない。
『秋月くんが、少しもガッカリした表情を見せなかったら、咲耶の勝ち。見るからにガッカリした表情をしてみせたら、アタシの勝ち』
イーリスに言われた台詞が、脳裏をよぎる。
〝見るからにガッカリした表情〟とは、違うような気もするが、〝少しもガッカリした表情を見せ〟ていないわけでも、ないように思えた。
……ということは、つまり――……。
つまりこれは、イーリスとの勝負に負けた――ということになるのか?
不安になって、斜め後方に顔を向ける。
とたん、イーリスと目が合い、咲耶がギクリとして顔をこわばらせると、彼女は『ほら見なさい』とでも言うように、ニヤリと笑った。
「う――っ」
その瞬間、完全に負けたのだと覚った咲耶は、『う……うぅ……う……』と、数回小声で呻いた後、
「わぁああああーーーーーッ!! 秋月の……っ、秋月のバカアホマヌケぇえええーーーーーッ!! スットコドッコイのトーヘンボクぅうううーーーーーーッ!!」
今度は大声でわめき立てながら、たった今歩いて来た道を、猛スピードで駆けて行く。
「――えっ?……さ、咲耶っ?」
咲耶の大声で夢から覚めたかのように、数回目を瞬かせてから、龍生は慌てて彼女の後を追った。
「咲耶っ、待ってくれ! いきなりどうしたと言うんだっ!?」
走りながら呼び掛けるが、咲耶は立ち止まるどころか、
「うわぁあああーーーーーッ!! 信じてたのにっ、信じてたのにぃっ!! 秋月のバカバカバカバカッ!! サイテーのスケベヤロォオオオオーーーーーーーッ!!」
ひたすら貶し言葉を発し、ますますスピードを上げて、彼との差を開いて行く。
「ええっ? 信じてた……って、どういうことだ咲耶っ? いったい、何の話をしているんだっ? 教えてくれっ、咲耶!! 咲耶ぁああああーーーーーッ!!」
困惑しつつ追い掛けて行く龍生の声が、徐々に遠ざかり……。
砂浜には、再び沈黙が横たわった。




