第3話 結太、龍生の従者操縦法(?)に感心する
国吉に『遊びではなく、仕事で来ている』という理由で、スーツから軽装に着替えることを断られた龍生は、腕を組み、しばし考え込んだ。
ボディガードが、『平日休日関係なく、いつでも対応出来るよう』にしておくのは基本ではあるが、常にスーツ姿でいる必要はないのではないか?
しかし、彼には彼の、こだわりやポリシーがあるのだろう。
その信念を破らせてまで、こちらの要望を受け入れさせるのは、いささか横暴な気もする。
そう考え直した龍生は、
「……なるほど。それは殊勝な心掛けですね」
微笑みながら告げた後、更に続けて。
「我が家のボディガード達も、あなたほど仕事熱心で、優秀でいてくれたなら、気苦労も少なくて済むのですが」
主がさらっと放った台詞に、東雲と鵲の胸は、グサリと貫かれた。
たちまち情けなく顔を歪め、
(酷ぇぜ坊ちゃん……っ! 確かに、俺達ゃー優秀じゃねーけど、でも……っ、いっつも坊ちゃんのお役に立ちてーって、頑張ってるつもりなのにっ)
(坊に対する忠誠心だけは、誰にも負けないつもりでいるけど……。やっぱり、気持ちだけではダメなのかな……)
明らかにガックリ来たようにうつむいて、二人は肩を落としている。
結太は慌てて、フォローしようと口を開いたが、それよりも一瞬早く、
「まあ、〝馬鹿な子ほど可愛い〟という言葉もあるように、抜けている部分が多々あるからこそ、よけい愛着が湧くものですし、見ていて飽きないという良さもあるのですが」
微笑みながら龍生が続け、落ち込んでいた二人は、たったこれだけで、見事なまでに浮上した。
(坊ちゃん! なんて有難ぇお言葉……っ!)
(やっぱり俺達、どこまでも坊について行きますッ!!)
瞳をキラキラさせ、うっすら涙など浮かべながら、単純な二人は、主人に熱い視線を注いでいる。
このように、二人の感情は、いつも非常にわかりやすい。
鈍めの結太ですら、簡単に心が読めてしまうレベルだが、それにしても……と、龍生をまじまじと見つめる。
(一度落としといて、すぐまた持ち上げる……か。やっぱ龍生は、ジンシンショウアク――ってのが、身についてんだろーな。一回りも違う大人を、こーも手懐けちまってんだから)
呆れるとも、感心するともつかぬ思いを抱え、結太はうんうんとうなずいた。
まだ龍生が幼かった頃から、二人が『一生ついて行く』と心に誓っていたことも、そのきっかけとなった事件も、結太は知っている。
しかし、そのことだけでは説明がつかない〝絆〟のようなものが、やはり、彼らの間にはあるのだろう。それが時々、とても羨ましく思えるのだ。
龍生の言葉に感動し、うるうるしている従者二人と、それを見て、つられてうるうるしてしまっている結太だったが、
「ハァ~~~イ! そこの男性達ーーーっ! おっ待たせーーーっ! 水着に着替えたレディ達のご登場よーーーっ! ちゅーもくちゅーもぉおおーーーっく!!」
イーリスの声が別荘側から聞こえ、ドキッとして振り返る。
十数メートル先に、手を振りながら歩いて来るイーリスと、少し緊張したように、ギクシャクしながら大股で歩いて来る咲耶、その後ろに隠れるように、うつむきながら歩いて来る桃花が見えた。
三人とも、何かしら上から着込んでいて、まだ水着姿にはなっていない。
しかし、これから桃花の水着姿が見られるのかと思うと、結太の頬には赤みが差し、心臓はドクンと跳ね上がった。
イーリスを先頭にして、女性陣が砂浜までやって来る。
すると、眩しいほどに真っ白なワンピース姿のイーリスは、東雲達が用意した数々のものを見やり、
「あら。こっちの準備は、すっかり出来上がってるみたいね。じゃあ、すぐにでも遊べるってことかしら?」
そう言って、結太の方に視線を移した。
ボーっと桃花に見惚れていた結太は、イーリスに訊ねられたことに、すぐには気付けなかった。龍生に肘で突かれ、ようやく我に返る。
「えっ?……あ、ああ……。うん。トラさん達が頑張って用意してくれたから、もう、いつでも遊べるぞっ」
慌てて答える結太に、イーリスはクスッと笑い、
「やーね、結太ったら。ボーっとしちゃって。……どーせ、桃花の水着姿でも想像してたんでしょー?」
まるでからかうように、彼の額を、人差し指でツンと小突いた。
結太はたちまち真っ赤になり、『ばっ、バカッ! してねーよ想像なんて!』と言い返し、焦って桃花をチラ見する。
彼女は結太以上に真っ赤になって、うつむいてしまった。
「フフフフッ。いーわねー、カップル未満は初々しくて。……さーて、そっちはどーかしらぁ~?」
結太達を軽くあしらい、イーリスはこちらが本命だとでも言うように、咲耶をまっすぐ見据える。
咲耶はぐっと詰まり、唇を噛んでイーリスを睨んだ後、
「わ、わかっている! 脱げばいーんだろ、脱げばっ!」
そう返すと、BIGTシャツを素早く脱ぎ去り、ブーメランでも投げるように、大空へと放った。




