第5話 龍生、身悶える結太を前に黙考する
いったい、イーリスにどんなことを言われたら、ここまで興奮しまくれるのだろう?
桃花の水着姿を妄想し、ソファで身悶えている結太を前に、龍生は呆れ返っていた。
冷めた目で眺めていると、結太はガバッと起き上がり、
「龍生もッ!! 人ごとみてーに放置してんじゃねーよッ!! イーリスとデートしてんのは、伊吹さんだけじゃねーんだぞ!? 保科さんだって、イーリスに掻っ攫われちまってんだろーがッ!! 彼女と過ごすはずだった貴重な時間を丸ごと奪われて、悔しくねーのかよ!?」
ギロリと睨みつけながら、痛いところを突いて来る。
咲耶とは、〝休日は共に過ごす〟という約束になっているのだ。
本当は、登下校も一緒にしたいところなのだが、『桃花を一人にしておけない。彼氏なんかが出来るまでは、一緒にいてやりたいんだ』と咲耶が強く主張するので、休日は共に過ごすことを条件に、泣く泣く受け入れたのだが……。
その〝共にいられるはずだった、貴重な恋人同士の時間〟を奪われたのだ。悔しくないわけがない。
しかし、咲耶に真正面から見据えられ、『一日くらいいいだろう? たまには、友人と遊ぶ時間も必要だ』と言われてしまっては、どうしようもないではないか。
ここでまた、『俺より友人を選ぶのか? 友人の方が大事なのか?』と責め立てたところで、ケンカになるだけだ。
夏休み前の大事な時期に、それだけは絶対に避けたかった。
「仕方ないだろう。別荘に行く前に揉めたくなかったんだ。予定を台無しにしたくないしな。――おまえだって嫌だろう? 伊吹さんと一週間も共にいられる機会を、みすみす失うのは?」
内心ムッとしながらも、どうにか平静を装って訊ねる。
結太はぐっと詰まり、『そりゃ……イヤだけど……』と小声で応じ、再びソファに身を沈めた。
「けど、今のイーリスの様子じゃ、別荘に行ってからも、何かとオレ達の邪魔して来る気がすんだよなー。あれ、ぜってー面白がってるぜ? オレらからかうためなら、どんなことでもして来そーでさ……ちょっと、なんつーか……イロイロ心配なんだよな~」
愚痴りつつ、結太は深々とため息をつく。
〝今度こそ桃花に告白する〟と決意している手前、少しでも邪魔をされそうな予感がすると、気が気ではなくなってしまうのだろう。
結太の心配もさることながら、龍生は、イーリスの真意も測りかねていた。
転校して来て間もない頃、イーリスは皆の前で、『結太に興味があるってゆーのは、間違いない事実よ』『運命みたいなものを感じちゃったのよね』などと言ったり、自転車通学の結太に、『乗せて行って』と頼んだりと、〝結太に気がある〟ような言動を繰り返していた。
しかし、最近のイーリスを見ていると、〝結太に恋をしている〟というよりは、〝からかって遊んでいる〟ようにしか思えない。
いったい何を考えているのだろうと、龍生ですら彼女の目的が読めず、戸惑っていた。
(藤島さんについては、まだまだ謎の部分が多い。お祖父様に訊ねても、詳しいことは教えてもらえなかったしな……)
別荘に行くのは、四人のみの予定だった。
そこにもう一人(――いや。ボディガードの国吉も連れて行くようなことを言っていたから、二人か)加わるとなると、秋月家当主である、龍之助の許可がいる。
そこで、イーリスのことを伝えてみたのだが――。
「……ふむ。藤島の倅とは、付き合いが全くないわけでもない。こちらから、娘さんも別荘に行きたがっているらしいと電話で伝えたら、『是非、同行させてやってください。よろしくお願いいたします』と、頼まれてしまってな。だから、まあ……イーリスという娘さんも、仲間に入れてやってくれ」
龍生の微かな期待(もしかしたら、『藤島家とはあまり縁がない。よく知らん家の娘を、島に行かせるわけにはいかん』と、反対されるのではないかと、ちらっと思っていたのだ)は見事に外れ、イーリスの別荘行きは、難なく即決されてしまった。
言動の読めない人物を相手にするのは、龍生ですら、不安に感じるところが多い。
だが、当主である祖父に、直接頼まれてしまっては、『嫌だ』と言うことも出来なかった。
(とりあえず、藤島さんには要注意だな。別荘に行ってからも、よくよく見張っておかなくては。結太の邪魔をするだけなら、放って置いても構わないが……俺と咲耶にまで被害が及んでは、堪らないからな)
結太が聞いたら、『放って置いても構わないってどーゆーことだよ!?』と怒り出すに決まっているが、龍生は素知らぬ顔で、優雅に紅茶をたしなんでいる。
別荘に行くのは、三週間後。
それまでに、出来るだけイーリスについての情報を集めておこう。
鵲と東雲だけでは、心許ない。悪いが、安田にも働いてもらおうかと、龍生はスマホを手に取った。




