サラのお弁当
体育の授業が終わった後、サラフィーバーはすっかり沈静化してしまった。嫌われたと言うワケではないだろうか、少しばかり距離を置いて様子を見ている様な感じだ。
お待ちかねの昼休みだと言うのに、サラと親しくなる為、我先にと彼女に近付こうとしていた連中はすっかり鳴りを潜めている。
たった一度の過ちで世界が変わる。学校生活と言うのはそう言うものだと思い知らされるが……、こちらとしては好都合だ。
「サラ! 俺の女神! 一緒に飯食おーっ!!」
いつも昼休みに俺の教室にやって来ていた友城だが、今日は俺をスルーしてサラの机へ向かった。予想はしていたので驚かない。
「サラちゃん! あのっ……、私も一緒に良い?!」
まさか隣のクラスからやって来た友城に先を越されるとは思っていなかったのだろう、慌ててそう言ったのは幾瀬だった。これは……予想外。
「オー! トモキ! コハル! ムロン! ランチの用意しこたまして来たデスから! 一緒にいっぱい食べるデス!」
体育の授業中から元気のなかったサラだが明るく笑ってそう答えた。
「ちょっと小春……」
その様子を見て、いつも幾瀬と一緒だったグループの女子が怪訝そうな顔で幾瀬に声を掛ける。そりゃそうだ。お昼を食べるグループってのは一度決まったらそう変わるものではない。何かきっかけでもない限りな。しかし幾瀬にとってサラの登場は十分なきっかけだったのだろう。
「ごめん……えと……」
口ごもる幾瀬を見て、グループの女子の一人が「良いよ、好きにしたら」と突き放した。ここでじゃあみんなで一緒に食べましょうなんて事になったら、サラだけでなく友城も付いて来るのだ。そんな面倒な事になるくらいなら幾瀬一人抜けた方が良いに決まってる。もともと、ただ一緒にお昼を食べるだけの仲だったと言う事だな。女子には良くある話だろう。
さて、友城がサラと二人きりが良いとか言うなら俺は身を引くつもりだったが……こうなっては引き下がれない!
「良し! 屋上行こうぜ!」
素早く弁当を取り出し、俺は当たり前の様に言った。
「うん!」
すぐに幾瀬が賛同し、サラを促してくれた。サラと二人きりをほんのり期待していたのか、友城は少しだけ複雑そうな顔を見せたが一緒に来てくれた。
そして……、昨日の嵐が嘘の様に晴れ渡った空の下、俺達は屋上で弁当を広げる。
しこたまランチを持って来たと言うサラはその言葉を裏切らず、学生カバンより遥かに大きいバスケットにいくつものタッパーを詰め込んで来ていた。
「サラいっぱい食うんだな! 俺そう言う女好きだよ!」
友城が照れもせずサラに好意をぶつけまくる。
「みんなサンにもオスサワケするつもりで持って来たデス! はち切れんばかりに食べるがよろしい!」
オスサワケ? お裾分け、かな。
そう言ってタッパーを一つ取り出し、星条旗の描かれた蓋を開けるサラ。その中から出て来たのは……
「ジャパニーズライスボール! デス!」
「ああ……ライスボール……おにぎりだ……おにぎりだけどよ、これって……」
言いながら友城が一つ掴む。
「海苔はブルマの形にカットしたデース!」
「すっ……すごい! 三角に切ってあるだけじゃないのね!」
幾瀬もそう言って手に取る。
そう、ただ単に三角に切った海苔を貼り付けたわけじゃない。それは丸く握ったご飯に、まるではかせたみたいな形で立体的に巻き付け、更にはその両サイドにスライスチーズだろうか? アイボリーの何かで二本のラインを入れてある。実に見事なブルマおにぎりだ!
「サラ! お前マジ最高だ! はぐっ……ん~~~! うめぇ! ブルマうめぇ! うめぇよ! もっとくれ!」
「うふふっ、トモキ食いしん坊! でもまだまだいっぱいあるから安心してよろしいデス!」
「むむっ……噛みきれない……中に何か……わぁっ! ブルマ型のグミが出て来たよ!」
「コハル大当たりデス! ライスボールには梅干しと心得てたのですが遊び心でグミ入れちゃったデス! ほらほらソースケも早く食べて! ハリーハリー!」
サラに急かされて俺もブルマおにぎりを手に取った。本当に良く出来ている。ブルマに対する愛情が溢れ出て具現化した、そんなおにぎりだ。
「何だかもったいなくて食べられないっ!」
「分かる! 分かるよ大嶋君! だから見て、私の貰ったやつまだブルマまで達してないの!」
「バッカお前ら食わなきゃもっともったいねぇだろうが!」
「それもそうだな! はははっ!」
「こんなに美味しいんだもんね! うふふっ!」
「見て良し食べて良しだなこのブルマは! わーははは!」
いつも友城と二人だけの昼休みは、それはそれで楽しかった。ゲームの話したり、誰かの悪口言ったり、こっそりブルマの話したり……。
だけど今は、それとは全く違う、スペシャルな昼休みだ。こんな事はそうは続かない、だから目一杯楽しんでおかなければ……なんて、貧乏性で平凡な俺はそんな風に思ってしまうくらいに、スペシャルだ。




