サラセニア・バーネット
「転校生を紹介しまーす。えー、お父様のお仕事の都合上、こんな時期に編入と言う事で、色々と大変な事も多いと思う。みんな助けてやってくれよ~?」
担任教師の横に、現実離れした美少女が立っていた。転校生と言うもの珍しさを除いても、十分視線を集めることが出来るであろう美少女だ。彼女は惜しげなくその美貌に笑顔を乗せてこう言った。
「サラセニア・バーネット言いますネ。サラ呼んで下さい。みんなサンどうぞよろしくお願い候デース!」
「おおお~」
その金髪碧眼の美少女から日本語(少々おかしかったが)が飛び出した事で、クラスから感嘆の声が漏れた。
サラちゃん、か……。確かに金髪碧眼の美少女は希少だが幾瀬には敵わないな。まぁ昨日の事がなけりゃ俺も他の連中と一緒に浮き足立ってたかも知れないが。
そんな風に思って幾瀬の方を見ると、幾瀬もサラにうっとり見惚れている様子だった。俺に気が付いて薄く笑うと、口をパクパクさせて「可愛いね」とサラを小さく指差している。バッカお前の方が女神だよ。
休み時間になると、サラは途端に生徒達に囲まれた。他のクラスから見学者が来る程度には金髪の転校生はフィーバー状態だ。
「ニポンに来たのは先月ですが、ニポンの文化サラ大好きデース! だからニポン語も勉強熱狂的にしてましたデス」
聞き漏れてくる情報によると、どうやら口先だけの親日家と言うワケではなさそうだな。ハーフでもなく、来日は先月でこの日本語。一体日本の文化の何がそんなに好きなんだろう。
「おっ! あれかぁ!」
何となくクラス中がサラに注目しているので俺もぼんやり眺めていたのだが、空いていた前の席に誰かが座って、遠慮なくサラを見物し始めた。
「友城……」
昨日、ネトゲの誘いを無下にしたブルマ仲間の田中友城だった。今は違うクラスなので昼休み以外にそう絡みはないのだが、こいつも転校生の噂を聞き付けてやって来た様である。
「どうせ金髪が珍しいだけでたいした事ないんだろうと思ってましたぁ! すみませんでしたぁ!」
ジロジロとサラを見た後、物怖じしない態度でそう言うと、さすがにサラも気付いてこちらに視線を向ける。
「おっ! こっち見たぜ奏介! 目ぇ青い!」
昨日の事を一言謝っておこうと思ったのだが、本人も別に気にしてない様だしタイミングも失ったしもう止めた。それよりも、こいつの小学生みたいな態度にこそ一言言いたい。
「おい友城、動物園のコアラでも見る様な態度はやめろ、失礼だぞ」
あからさまな好奇の目に対し、サラは怒るどころか俺達に笑顔を見せた。そして手をひらひらさせながらこう言ったのだ。
「うふふっ、断固気になりますま~い! サラも真実はコアラに囲まれている気分と近しデス、ソースケ! トモキ!」
なんと言うコミュニケーション能力! あの一瞬で俺達の名前を把握し、次の瞬間には呼び捨て……! 全員にこんな風に接する事が出来るのだとしたら思春期男子はもれなくサラを好きになっちまうぞ。女神が居る俺以外。
「……やべぇ……奏介、俺あの子好きになっちゃったよ……」
ほらみろ。
「ねねねーっ! 俺隣のクラスの友城~! あっ、もう知ってるか~! ズルいから俺にも名前教えて~!」
友城は弾かれた様に席を立ち、どさくさに紛れてサラを囲む輪の中に飛び込んだ。あの大胆さは大和撫子には不評だが……案外うまくいったりしてな。
サラフィーバーは続き、休み時間の度に友城はやって来た。しかし、三時限目の休み時間、次の四時限目は体育だったのでクラスの女が「着替えまーす」と威圧的な声を発する。
「なんだ体育かよ~。鐘の音と共にやって来たってのに」
友城がぼやくが、女子の「着替えます」には、出て行って下さい。男子のスケベ! まで含まれている。毎回このニュアンスで感じが悪い事この上ないが出て行かなきゃならないのは当然だ。
「オー! 体育! 次はイヨイヨお待ちかねの体育ナノデスネ?!」
ガタリと椅子を鳴らしてサラが勢い良く起立した。まだ半数以上の男子が教室に残っている。
「そうだよ。ちゃんと着替え持って来た~?」
「ムロン!」
話し掛けた女子に、サラが元気に返事をするのが聞こえてくる。無論……。もちろんと言っているんだろう。
「転校初日から体育なんてラッキー過ぎて、もう下に準備して来たので抜かりなしデス!」
そんな声と共に、シャッ! と勢い良く布が擦れた音がした。
「えっ?」
普通にしていても視線を集めるサラだ。あんなに張り切った様子を見せればほぼ全員がサラの方を見ていただろう。そしてその視線の持ち主達がハッと息を飲んだのが分かった。だから俺は何も考えず、何だろうと言う好奇心で……ほとんど反射的にサラの方を振り返ってしまった。
友城も、まだ教室に残っていた男子も、おそらく全員がサラを振り返った。
一瞬の、静寂。
そこに現れたるは、女神。
「奏介……あれ……」
「ああ……友城……」
二人で小さく、女神……と呟く。
俺の頭の中には、某有名RPGの荘厳なオープニングテーマが流れて来て、これから何かとんでもない冒険が始まるのではないかと言う期待に襲われた。あるいは、冒険の中でようやく巡り合えた世界を変えるスーパーヒロインが、満を持して登場し、後は私に任せて! と、俺達の不安を一気に拭い去ってしまったかの様な安心感とも言える。
「勝てる……!」
友城がそう続けた。何に? などと野暮な事は言わない。俺も漠然とそう思ったから。
「ブルマ……最高デース!!」
そう、そう言ったのは、上半身は制服のままに、スカートを脱いでブルマ姿になったサラセニア・バーネット、その人であった……!




