「どんなだと思う?」
ソファに座ったまま、どうしたものかと後ろで蹲っている幾瀬のつむじを眺めて居ると、ふいにその顔があげられて幾瀬と目が合った。その顔はやはり紅潮していたのだが、何かにひらめいた様な表情にも見える。
「恥ずかしくない……?」
「おっ……おお! そうだ! 恥ずかしくない!」
俺が無理やり言い放った主張を、時間差で幾瀬は理解してくれたらしい。おそらくはブルマと言う単語だけで転がり回ってしまったのだろうが、やっと俺の言いたい大事な部分に気付いてくれたのだな!
「そんなわけ……ないじゃない……」
幾瀬がゆらりと立ち上がる。説得の為、俺も立ち上がる。ソファを挟んで向かい合うような形だ。
「どうしてだ、あれはもともと運動をする為の物で、バレー選手だって陸上選手だってみんなはいてるじゃないか!」
「私はスポーツ選手じゃないもの!」
「ちょっ……ちょっと前は体育用にも使われていて……」
「知ってる!」
ひと際大きな声を出して、幾瀬は俺の言葉を遮った。母さんが何事かと様子を見に来やしないかとヒヤヒヤするくらいの声だ。
「でも今はどこの学校でも廃止になった……。うちでも生徒会がブルマを禁止してもう何年も経つ……それはどうしてか……」
「それは……」
思わず言葉に詰まる俺に、幾瀬が畳み掛ける。
「恥ずかしいからだよ! とっても恥ずかしいからだよ! ブルマなんかで体育の授業を受けるなんて、私考えただけでどうにかなっちゃいそうだよ! だって……だって下着と変わらない布面積で足を広げたりひっくり返ったりするんだよ?! おかしい! おかしいよそんなの!」
幾瀬の言い分に、俺は返す言葉がない。だが、幾瀬が続けた言葉は、俺をますます絶句させたのだった。
「でもだけどっ! だけどブルマは可愛い! お尻を丸く包んでちょっとテカって、サイドライン入りのブルマのデザイン性なんてあれを超える物はないと思えるわ!」
「……へっ?」
俺の女神は、はて? 一体何を言い出したのだろうか。ブルマが可愛いと聞こえたのだが。それも、サイドライン最高とか、そんな感じの……。
「そう、初めてブルマをはいたのは……小学校の頃だったわ」
そして始まる唐突な自分語り。
「親戚のおばさんが、自分の学生の頃はこんな格好で体育の授業を受けていたのよって、古いアルバムを見せてくれたの。気を付けていないとパンツがはみ出してしまうんだとか、それどころかお尻のお肉がはみ出してしまう事もあるのよってエピソードを加えて」
そっ……そうだったのか……。なんて貴重な体験談なんだろう。いや、母さんに聞けば俺もそんなエピソードを聞く事が出来たのかも知れない。とても聞けないけど。
「そんな危険な思いをしてまでどうしてブルマだったのか、私には理解出来なかった。出来なかったけど、ブルマを見ているだけで何だか身体が熱くなったの……」
お、おう……。
「私があんまりその話しに目を白黒させたものだから、おばさんは面白がって押し入れの中を漁り、とうとう本物のブルマを見つけ出して私に渡してしまったのよ」
学生時代のブルマがまだあるって……もしかして母さんのも実家に帰ればまだとってあったりするんじゃ……いや、たとえブルマでも、母さんの と言う情報が入ったブルマはさすがに愛せない。愛せたらダメだと思う。
「初めて手にしたブルマの感触を、私は一生忘れられないと思う」
「どっ……どんなだったんだ?!」
初めて手にしたブルマの感触……その生々しい、何とも甘美な呟きに、俺はたまらなくなって幾瀬に先を急かす。
「どんなって……それは……」
「それは??」
「どんなだと思う?」
思わぬ質問返しだ。ブルマの感触がどんなかだって? そんなの、俺が知ってたらおかしいし、俺の妄想を幾瀬にぶちまけて良いものとも思えない。
「分からない……分からないからどんな感じなのかなって……」
「言ってみて! 想像で良いから言ってみて!」
気のせいでなければ、幾瀬の様子がさっきまでと違う。様子がおかしいのに変わりはないのだが、さっきまでの幾瀬が怯えた子猫だとすると、今はそう、目の前のおもちゃに状況を忘れて来つつある子猫と言うか……簡単に言ってしまえば、楽しげである。




