新たな女神
「ソーリー……」
「ううん」
「ま、しょーがねぇだろ」
謝るサラに幾瀬と友城がそう答える。本当に、仕方がなかったのだろうか……。どうして、勝ちに行かなかったのだろうか……。どうしてもモヤモヤしてしまう俺の言葉を代弁してくれたのは、なんと敵チームの亜子であった。
「どう……して……?」
満身創痍のその身体をどうにか動かして、ネット越しにそう尋ねる亜子。
「オー、アコ、ナイスファイトね!」
サラもネットに近付いて、話し掛けてきた亜子に激励の言葉を伝えた。
「そんな事聞いてない……どうして私を狙わなかったの?」
「やめなさい亜子、そんな破廉恥な連中に近付いてはダメよ」
「そうです、勝ったのは我々です。亜子様を含め、我々が強かっただけの事」
いつも安池の後ろに隠れているイメージの亜子が、こうして自分の聞きたい事を聞いていると言うのに、安池も内山田もそれを止めている。
「二人共黙ってて!」
亜子の大きな声に、安池も内山田も……ついでに俺もちょっと、怯んだ。恐らく、亜子がこんなに感情を表に出す事は珍しいのだろう。
「二人共……本当は分かってるんでしょう? ねぇ、加納も、分かってるんでしょう? あのまま私が狙われてたら……、勝ってたのは……」
足を引き摺る様にして、加納もこちらへやって来た。亜子の質問にイエスもノーも言わないが、その目は真意を知りたがっている様に見えた。
「どうしてって……だって弱い者いじめは、ブルマのする事じゃアリマセン!」
「!」
サラの言葉に、俺がハッとする。
そう……、そうだ……。その通りだ……。
俺は……情けない! ブルマの為に戦っていた筈なのに、いつしか勝ちに固執して、ブルマでやってはいけない事をやってしまっていた……!
「何……言ってるの……? 負けたらはけないんだよ!」
すべてがスッと腑に落ちた俺とは違い、亜子はちっとも理解出来ていない様子だった。何と言ったものかとウーンと顎を弄るサラに変わって幾瀬が言う。
「だとしても、ブルマは正義の存在でいたいから……。あれ以上亜子ちゃんを狙うのは、戦略じゃなくて弱い者いじめだもん」
「ま、俺はそんな強いポリシーもなかったんだけどよ、あれで勝ってブルマに悪いイメージが付いちまったら嫌だしな」
チェッ……。みんな、カッコ良いや……。
モヤモヤしていた俺の心は、お陰さまですっかり晴れた。試合には負けた。ブルマはもうはけない。だけど、試合に負けたからと言ってブルマが何の役にも立たないものだと、見ている連中は思っただろうか? いや、違う筈だ。本当はきっと、生徒会だって分かってる。だけど安池がこう言うのも……、こう言わなきゃならないのも分かってる。
「何をどう言っても構わないけど、勝負は勝負。私達の勝ちよ。約束通り、速やかに着替えてもらいますから」
抵抗するつもりはない。俺達は頷いて、コートを去ろうと一歩踏み出した。亜子はまだ納得が行かないのか、ネットを握りしめたまま動かない。
「さ、亜子……」
「…………」
「亜子? どうしたの、行くわよ、すぐに傷の手当をしなきゃ、いっぱい打身が出来てしまったでしょう、可愛そうに」
「……ね……お姉ちゃん……、ブルマって……ね、重ね着が楽、なんだよ……」
「え?」
怪訝そうな安池の声。俺達も突然の亜子のブルマ擁護に足を止めて振り返る。
「いきなり何を言ってるの亜子、頭を強く打ったのね、念の為精密検査を……」
「上にはくのがスカートじゃなくても……、たぶん、ピッタリしたパンツでも、大丈夫、なの。だから、もちろん、こんなブカブカのショートパンツなら……」
そう言って、亜子は自分のショートパンツの両サイドをおもむろに握りしめた。
「下にはいてても……全然、邪魔にならないんだ……よ!」
シャッ! と、それは紛れもなく布ずれの音であった。亜子がショートパンツを降ろす際に生まれた、布ずれの。
「おおおっ?! そっ……それは……!」
「オー……、アメージング……! アメージングアコ!」
「す……凄い……こんな……こんな事って……」
「おっ? 似合うじゃん」
そこに突如現れた新たな女神に、俺達がそれぞれ反応してもなお、安池の顔は固まったままだった。どうやら理解が追い付いていないらしい。そりゃ俺達も相当驚いたから無理もないだろ。
亜子の、ブルマ姿に。




