校長の覚悟
「よーし! もっと書こうぜ! 俺達が書いたって別にずるい事じゃねぇよ!」
「ああ、そうだな、俺達にも目安箱を使う権利はあるわけだし」
「いや……!」
浮足立つ俺達を校長が止めた。しかしそれは悪い意味ではなくて……
「十分だ。これ一枚で十分……。私はね、確かにブルマニアだが、君達の頑張りをどうにかしてあげようとまでは思わなかった。ブルマーに限った事ではない。私はもっと、生徒の味方をしてあげなくちゃいけなかったね。君達の無限の可能性のお手伝いをしてあげなくちゃ……。さぁ! この奇跡を持って、行こうか、生徒会室に……!」
「校長!」
紙切れ一枚が、俺達だけじゃなくて校長の心までをも動かした。
みんなで彼を取り囲み、校長校長! と縋り付く。
「はっはっは! こらこらやめないか、ほら、行かないと遅くなってしまうぞ?」
「はいっ! 校長せんせぇ!」
完全に校長を格下に見てイメージ的に頭をペシペシしていた友城が手のひらを返して言った。お調子者めと咎める校長だがその表情は柔らかい。
そして俺達は、かの生徒会室へと向かった。
足並みを揃え、しっかりと前を見て。
生徒会室の扉は、校長室のそれよりも重厚だ。現生徒会長就任時にわざわざ作り変えたのである。
俺達は扉の前で立ち止まり、校長を囲んで次の段階を待った。
気持ちを再確認しているのか、校長はまだ扉に手を伸ばさない。校長のタイミングでと思っていたのでしばらく待っていたのだが、チラリと横目で確認すると……。
「ふーっふーっふーっ……」
「あっ! 校長てめ! 完全にビビッてんじゃねぇか! 大丈夫かよ!」
先に気付いた友城が遠慮のない言葉をぶつける。
「こここら、こんなところで大きな声を出すんじゃない! 行かないって言ってないだろう! 行くよ行きますよ!」
さっきちょっとカッコ良かったのになぁ……。
このまま校長のタイミングを待っていたら気が変わるかも知れないと思った俺は校長の代わりに扉をノックし、返事を待たずに中へ突入してやった。
「失礼します!」
「しっ……失礼しますっ!」
「オヒカエなすってー!」
「おら入れって!」
結局校長は友城に小突かれてどうにか生徒会室へ入った。
「ふぅ、まったくせっかちな……。私はもう、ちゃんと覚悟を決めているよ……」
「あなた達……。校長先生までご一緒で一体何のご用でしょうか?」
これまた校長机よりも立派な机に座り、斜め後ろに副会長の内山田を従え、安池亜弥が鋭い視線を向ける。手前の長テーブルには他の生徒会員も座っていて、その中には亜子も加納も居た。
「やっ……やぁ安池君、今日も生徒会の活動お疲れさま……ゴホンッ……あー、いやぁまぁ特に用事と言うか……」
ドンッと友城が校長の脇腹を叩く。結構強めだぞ。
「やめないか、ちゃんと言ってあげるからそう急かさないでくれっ」
「それ……」
長テーブルに座っていた亜子が小さな腕を伸ばして校長の手元を指差した。そこには目安箱に投稿された大事な交渉アイテムが握られている。
「何ですか?」
「あ、ああ、これはね……これは……、そう、ちょっとこれを読んでみてくれるかな? 安池君」
亜子がキッカケを作ってくれて、ようやく校長の心も落ち着いたらしい。
内山田が受け取り、座ったままの安池までお持ちしている……。こちとらは立ったままだ。
安池はこちらに目線を向けたまま、内山田から二つ折りのそれを受け取ると面倒そうに開いて確認した。
ピクリと眉が動く。
「それがね、目安箱に入っていたんだよ」
「それで?」
「どう思ったね?」
「どうとも?」
そう言って安池はその紙を内山田に突き返した。そして奴は確認もせずまたこちらに歩いて来て校長に突き出す。
「どうとも思いません。たった一枚の投書が何だと言うのです? ……校長……まさかそんな物を見せる為にわざわざ奉仕活動中の生徒を引き連れておいでになったんじゃありませんわよね?」
「いいや、これを見せに来たんだよ」
「フッ……、ご冗談を」
ここらで怯むかと心配だった校長だが、どうやら本当に覚悟は決まったらしい。
「冗談ではないよ安池君、これはたった一枚かも知れないが、こう言う生徒が居ると言う事を君は知らねばならない」
「知ったところで風紀を乱すものは排除するだけです」
「そう、君はずっとそうやって来たね……。しかし、今回の件は多くの生徒が目撃している。あれを見た生徒の一人がこの投稿をしたワケで、同じ考えを持つ生徒がたくさん居る可能性もある。生徒会が、頭ごなしに全部を否定してしまうのはいかがなものかと思うんだよ。今まで皆が生徒会に付いてきたのは君達が常に公平で、信頼に足る存在だからだ。このままこの子らに奉仕活動をさせる事で解決しようとしているのなら少し考え直した方が良くはないかね?」
けんもほろろな安池にどう説得をするつもりなのかと思ったが、なかなか上手にやってるじゃないか校長。生徒会の権威に関わると言われれば、さすがの安池も少しは考えなければならないだろう。現に安池の顔色は変わった様に見えた。




