女神の影
「メヤスバコ……?」
さすがのサラもこの日本語は知らなかったのか、校長の言葉をオウム返しする。
「そう……、例えば目安箱にそう言う意見が寄せられれば、私も少しはやりやすくなるんだが……」
「……んっだよ、頼りねぇなぁ校長! そんなに怖いのかよ」
だいぶ口も悪いが、友城の言ってる事に反対する気にはなれないな。だいたい、目安箱なんてものの存在を覚えている生徒の方が少ないだろう。俺だって今思い出したよ。昇降口に一番近い階段の踊り場にあるアレ。そんな影の薄い存在に、ブルマに自由をなんて書いて投稿する奴が居るワケないじゃないか。となれば……。
「俺達が自演するしかないですね。そんな事で動いてくれるならやりますけど」
「それってジャパニーズギゾウ?!」
「サラ、偽造にジャパニーズも何もない」
「君達、やるならもっと私に隠れてコッソリやってくれないかね……、私にだって罪悪感と言うものが……」
「私早速紙を持って来ます!」
幾瀬がパッと飛び出す。校長の見ている前で堂々とやるつもりだ。校長は頭を抱えたがこれしか方法がない事くらい分かってた筈だろ。
「はぁぁ……」
「しっかし校長せんせーよぉ、なんでこんなレアなブルマ持ってんだよ~」
「やめなさい君、返しなさい」
「おっと返さねぇよ、やる事やってからだ」
「寄越しなさい!」
「おっとっと~、ほらこっちだこっち~」
友城と校長が返せ返さんとイチャイチャしてる間に幾瀬は戻って来た。走って来た様で息が切れている。
「お待たせ~! また出しに行くの面倒かと思って箱ごと持って来ちゃったよ」
律儀に箱に入れるつもりだったのか。
「サンキュー、悪いな走らせて……ん? 何か入ってるぞ」
幾瀬から受け取った目安箱からカサリと紙が擦れる音がした。
「本当? 走って来たから気付かなかった」
「珍しい事もあるものだ。一応毎週チェックしているがここ三年何かが入っていた事などないのだが」
「……もうこれ終わったら撤去しろよ」
校長が目安箱の鍵を開けて中を確認すると、中から一枚だけ紙が出て来て校長が黙読し始める。
「それ後にしてくんねぇ?」
「いや、ちょっと待ちなさい」
俺達にタジタジだった校長が少し鋭く友城を制した。
「……これを書いたのは、君達じゃないんだね?」
「えっ? ええ、今持って来たところですから……」
何を言ってるんだろう校長は? と、俺達が顔を見合わせていると、それを真実と見たのか、黙読していた紙をこちらに渡してくれた。
「読んでみなさい」
それは恐らく女生徒の文字で、こう書かれていた。
――ブルマで体育をしたいのでブルマの使用を許可して下さい――
「……! こ……これ……」
それ以上声が出ない俺に向かって校長がゆっくりと深く頷いた。
俺達の起こした行動によって、学校の誰かが、ブルマをはきたいと思った……。ブルマをはきたいと思って、その想いを目安箱に投稿すると言う行動を起こした。
それは、たった一枚の紙かも知れないけど……もしかしたら、もっと居るかも知れない。心を動かしてくれた人がもっと居るかも知れないじゃないか。ただの自己満足じゃなくて俺達のやった事にほんの少しだけど意味が出てきたじゃないか。
「私達は……間違ってなかった?」
そう、俺だってそう思いたいけど、たった一枚さと自重する自分も居た。きっと幾瀬もそうだから最後が疑問形だったのだろう。
でも、サラがそんな控え目な俺達を立ち上がらせる。
「トーゼンデス! ブルマが可愛いのに間違いアリマセン! つまりサラ達がやった事は間違ってイマセン!」
「ははっ……!」
「ああ!」
「……うん!」
ほんの少しだけ見えた、光。
この学校にはまだ、女神が居るのだ。




