目安箱
ガチャリと校長室の扉が開いて、その人物は目を見開いた。
「こらこら、そこは私の机だぞ? そんな所に座ったらいかん……ん? 君はあの騒動の……」
校長机の上にはサラが足を組んで座っている。その美しい顔に悪魔の様な笑みを浮かべて。その両サイドを固める様に、俺と幾瀬は立っていた。
「少し話しをしようぜ? 校長せんせ?」
扉の後ろで待ち構えていた友城が校長の背後からそう話し掛け、静かに扉を閉めた。
「なっ……なんだね君達? 奉仕活動で来ているのだろう?」
少し慌てた素振りを見せた、上品そうな白髪の紳士……。物腰柔らかく、俺達を頭から抑え付けようとはしない。話し合いには応じてくれそうだが、こういうタイプの方がやりにくい場合もある。さて……。
「良い写真ですねぇ……。どうしてこんな素敵な写真を表彰盾の後ろになんか隠しているんですか?」
「……はは、そんなところまで掃除してくれたのかい……」
言いながら写真立てを見せると、校長は特に顔色を変える事なくこう言った。だが質問の答えにはなっていない。
「サラ達はブルマをはいた事でここでこうして奉仕活動をしてイマス。残念な事に、この学校においてブルマは悪……と言う事みたいデス」
「校長先生も、その様にお考えですか?」
威圧的な態度をとるサラのフォローをする様に、幾瀬が言葉を続けた。
「ふむ……。そうだね、君達のパフォーマンスは私も見ていたよ」
パフォーマンス……。そんな平和なもんじゃなかったと思うが……。
「ブルマーが悪とか、私はそんな事は思わない」
「じゃっ……! じゃあ!」
まさかこの段階で肯定的な意見を聞けるとは思わなかったので、サラは嬉しそうに校長机の上から飛び降りた。
「しかしね……」
「シカシ……?」
「しかし、生徒会が禁止した物を学校で使用する事は出来ない。良いとか悪いとかの話ではないんだよ」
おっとっな~~~~! ザ・大人の意見にめまいを起こしそうだぜ。あとブルマの言い方も大人過ぎ!
「そう……デスカ。本当はサラも、こんな事はしたくなかったのデスガ……トモキ! 例の物をお願いするデス」
「なっ……なんだね一体……」
「校長せーんせ! これなーんだ?」
ずっと校長の後ろをとっていた友城が、楽しそうにまたブルマを掲げる。振り向いてそれを確認した校長は分かり易く狼狽えた。
「そっ……! それをどこで……!」
校長室ですけど。あれ? 意外と校長バカ?
「ああいや、それは、没収したブルマーの一つだよ……。報告書なんかをね、書く為に一枚手許に置いておいたんだ」
自分でもバカだと気付いた様で見え見えの言い訳をぶっ放す校長。しかし俺達にそんな嘘を吐くなんて、余計にバカだと思うがな。
「俺達を舐めないで下さい。それが没収されたブルマかどうかなんて、すぐに分かりますよ!」
「いや……、本当に……」
「そのブルマ、タグにバネテックって書いてありますよね、校長先生?」
そう言ったのは幾瀬だ。
「それが……なんだと言うんだ……」
「バネテックのブルマは、私達が産まれる前に生産終了しています。中古品がオークションに出回る事も稀で、私達にそれを用意する事なんか不可能です。そしてそれを持っていると言う事は……校長先生! あなたはかなりコアなブルマニアである事を証明しています!」
「ぐはっ……!」
ガックリと両膝を付く校長。幾瀬の知識のお陰で完全勝利だ!
見本みたいな校長の負けっぷりにサラのスイッチが入った。
「まさかデース……まさかこの学校のコーチョ先生がブルマニアだったなんて……サラ達の味方デスヨネ? コーチョ先生?」
「協力して……頂けますよね」
幾瀬もいつになく強気だ。
こういう顔もあったのね二人共……。悪くない。
「生徒会に逆らえと言うのか?! 私はただの校長だぞ!」
上品そうな白髪の紳士……。校長の事をこう形容したのが遠い昔の事の様だ。これじゃただの、可愛そうな小物臭漂う老人だ。悪者なのは俺達の方だろう。でもやめない。
「ただの校長って言いますけど、この学校で生徒会をどうにか出来る可能性があるのは、その校長くらいしかいないじゃないですか!」
ここまで来たら、この事を世間にばらすと脅しても良いし、そんなにレアなブルマならそいつを引き裂くぞと脅しても良……出来るかそんな事! ま、まぁ色んな選択肢があるが、幾瀬は心情に訴える方法で出た。
「そうです校長先生! バネテックのブルマをお持ちの校長先生なら! 私達の気持ちが分かる筈です! お願いします!」
「ふぅ……ふぅむ……」
校長はしばし押し黙ってしまったが、俺達は校長の出方を大人しく待った。
そしてとうとうポツリと校長が口を開く。
「目安箱……」




