抜き打ち
「おはよう、気合入ってっか?」
「おはよう」
友城の質問に、俺はいつも体操着を入れるのに使っているショップバックをトンと叩いてブルマの存在を示し、気合十分だと伝えた。
「怖気付いてないよな?」
「俺はな」
すね毛まで剃ったっつーの。
「バーカ、俺なんかもうはいてるよ」
「マジか!」
友城がニッと笑って手を差し出した。その手を強めに握り返す。
「二人だけでズルいよ」
そう言ったのは幾瀬だ。サラと一緒に俺の席へ近付いて歯を見せずに笑っている。その微笑みは強さを感じさせた。
「そう、サラ達は仲間デス。一緒にやらせてクダサイ」
そう言ってサラは右手を差し出す。うんと頷いてから幾瀬も友城も、その手に自分の手を重ねた。
「ああ、結果がどうなろうとも、俺達は一人じゃない。これだけは覚えておこうな」
俺も手を重ねる。
空いている方の腕で隣の奴の肩を組み、自然と円陣を作ると、サラがウィスパーボイスで言った。
「イエス、マイ、ブルマ……」
まだ……。まだだ……。
まだ大声でこれを言っちゃダメだ。サラも分かってるから囁いたんだ。
『イエス、マイ、ブルマ』
俺達は重なり合う掌を見詰めながらサラに続いて囁いた。四時限目には、これを大声で叫ぶつもりだ。魂の限り……!
「それにしてもちょっと残念だな、今日は生徒会の書記長様が居ねぇじゃねぇか」
小声のまま友城が加納の席を顎でくいと指し示した。言われてみればこの時間にはいつも必ず着席して居る筈の加納が居ない。
「でもカバンはあるな……。てか、居ない方が良いだろ。校庭に出る前に阻止されたらどうするんだ」
「生徒会全員に俺達の心をぶつけてやりたかったじゃねぇか! それなのにこんなとこで阻止される様ならお話にならない。覚悟が足りないんじゃないかぁ?」
「そんな事ねぇよ! イエス、マイ、ブルマ」
『イエス、マイ、ブルマ』
再度気持ちを確かめ合い、予鈴が鳴ったので友城が自分のクラスに戻ると、ガラリと教室の戸が開いた。いつもの様に退屈な朝のホームルームが始まるんだと思ったが、入って来たのは教師ではなく、生徒会の連中だった。生徒会長の妹である安池亜子が数名の生徒会員を引き連れてやって来たのだ。
何だ? と構えると、奴はとんでもない事を言い出した。
「抜き打ちの持ち物チェックを行います。各自持ち物を机の上に出す様に」
「……様に」
ほとんどの台詞を取り巻きに言わせて亜子は教壇の上で俺達を見下ろしている。と言っても、サラに小学生と間違われる程小さい亜子の身体は教卓に胸くらいまで隠されているのだが。
それにしても今日このタイミングで持ち物チェックとか最悪中の最悪じゃないかっ! まさかこのブルマ計画が漏れたわけではないだろうし、持ち物チェックは度々行われていた事ではあるが……はっ! そうか! どうしてもっと早く気付かなかったんだ! 加納書記長が居なかったのはこの為だったのか……!
持ち物チェックがある時、生徒会員は全員招集されて自分のクラスとは関係なしにチェックに回るのだ。だから抜き打ちとは言え、生徒会員がクラスに居る場合はそれで事前に何かあるぞと予想を立てる事が出来るのに! 品行方正な学校生活を送って来た俺も幾瀬も、すっかり失念していた……!
「くっ……!」
幾瀬の方を見ると、意外にも彼女はけろりとした顔で言われた通りに持ち物を机の上に並べていた。体操着を入れているバックも、なんて事はなさそうな顔でぼすんと机に置いて順番を待っている。
幾瀬ぇぇ~~! どうしてお前は平気そうなんだぁぁ~~!
と、念を送ったら幾瀬もこちらを見た。
俺の顔色と脂汗で俺が何に困っているかすべて察したのだろう。目が合った瞬間にハッ! と口元に手を当てて青ざめた。
そしてその手をそのまま口元に添えて隠したまま、俺にだけ分かる様に唇を動かした。俺に読唇術の心得はないが、なんとしても読み取って見せる! えーっと……
――ぶ、る、ま、は、い、て、な、い、の――
「…………」
ブルマはいてないの。
最後は首を傾げていたので疑問系だろう。ブルマはいてないの? お前は、今ブルマをはいていないのか? と、幾瀬はこう聞いている。うん、はいてない。
今ははいてねぇよぉぉぉぉ~~~!!
俺は朝からはいてたらいつふぁあああっ! てなるか怖くてはけねぇよぉ! 友城ははいて来たって言ってたけど俺無理だよぉ! 四時限目までに仕込めば良いと思ってたもんよぉ!
そうか、幾瀬はいつもブルマはいてるんだもん持ち物チェックなんて怖くねぇよな。さすがにスカートの中までチェックはしないし……。て事はサラも? サラもはいて来てるのか?
サラの席に視線を飛ばすとサラはすでにこちらを向いていた。俺のただならぬ気配を感じたのだろう。サラは俺と、順番に迫り来る生徒会員を交互に見ている。そわそわした様子だが自分の列に来る生徒会員は見ていないので、どうやらサラもブルマはいてる!
まずい……! この状況でピンチに陥っているのは俺だけだ。俺のせいで今日の計画がダメになってしまうかも知れない!




