生徒会長、安池亜弥
「何てものを亜子に食べさせてくれたんですの!」
憎々し気に落ちたブルマクッキーを踏み付け、更にはブルマおにぎりをパンと払い除ける安池。おにぎりはコロコロと地面に転がってその場の空気を凍り付かせた。
「ひどい! 何するんですか!」
その仕打ちにサラはまだ傷付くどころではない。状況が分からないのだ。変わりに声をあげたのは幾瀬である。
「それはこちらのセリフです。学校にこの様な物を持ち込んで一体どう言うおつもりですか? ブルマはもう何年も前から禁止されているのよ?」
「別にはいたワケじゃないだろうが!」
友城も声を荒げて参戦する。
本当は今日ちょっとだけはいたけどな! あとたぶん幾瀬は今日もこっそりはいてるけどな!
「そう言う問題ではありません。この様な物は風紀を乱します。例えそれを模した物でも許可するわけにはいきません」
「風紀を乱すってよ……、じゃあ妹の乳を後ろから揉むのは風紀を乱す事にならねぇってのか?」
おお、友城ナイスリターン! もっともだ!
「え? 何を言っているの? 姉が妹の成長を確認する為の行為がどうして風紀を乱す事になるのよ? 微笑ましくこそあれどそれが風紀を乱すだなんてあなた大丈夫?」
たぶん安池は心の底からそう思っている。ナイスリターンだと思ったがこれじゃダメージはゼロだ。
「お前こそただブルマの形をした弁当食ってた俺達が風紀を乱すとか大丈夫か?」
「ただ食べていただけなら許したかも知れません……。ですが、あなた達は大声で、他の生徒の迷惑になる様な大声で騒いでいましたわよね? 何故そんな事になったのか、それはそのブルマ型のお弁当のせいではなくって?」
「それは……」
確かにそうだ。俺達はブルマに浮かれて大声をあげ、乱痴気騒ぎをした……。しかしそれは俺達が未熟だからであってブルマのせいでは決してない筈だ! むしろ日頃抑圧されていたブルマ愛が一気に放出してしまっただけでブルマが禁止されていなければこうはならなかったとも言える。
しかしこんな事を言えば……状況は益々悪化するだけだ……。
「分かったらこれは没収させて頂きます」
「そんなっ! 横暴だ!」
叫びも虚しく、安池がパチンと指を鳴らすと、どこからともなく生徒会の男連中が沸いてきた。
「お呼びですか会長」
その中には副会長、内山田昂も居て、副会長のテンプレみたいな眼鏡を光らせている。しかし、その身体はテンプレ顔に似合わず立派なもので、一九〇近い身長に加え、制服が窮屈そうな筋肉……運動部に入ってその身体を有意義に使った方が良いんじゃないかと言いたくなる。
「内山田、ここにあるお弁当をすべて片付けなさい。風紀を乱すと判断しました」
「会長が風紀を乱すと判断された! 一刻も早く会長の目の前から抹消しろ!!」
『イエス! マイ トップ!』
まるで見せしめの様に、屋上全体はもちろん、校庭にも響き渡る様な声で内山田が皆に号令を掛けると、すぐさま了解を意味する生徒会用語が帰って来た。
その声と同時くらいに動き出した生徒会連中は不躾にサラのタッパーを掻っ攫う。
「没収袋!」
『イエス! マイ トップ!』
「あーっ! どうしてこんな酷い事するデスカ! ホワイ?! いっぱいありますから一緒に食べてクダサイ! 持ってかないでデス!」
何でもかんでもぶち込んでしまう生徒会の没収袋、通称ダイソン、あれが出て、没収されなかったものは未だかつてないと言う。噂にたがわず、その悪魔の袋はサラの悲鳴をも吸引して飲み込んだ。
「止めてください! 私達はただ楽しくお弁当を食べていただけです! それにサラちゃん……彼女は今日転校してきたばかりなんです! まだ日本の文化に慣れていなくて、戸惑っているだけなんです!」
「そうだ! サラが一生懸命作った弁当だぞ! 返せ! 返せよ!」
「騒いだのは確かに悪かったけど……、断じて弁当のせいじゃない! 他の罰を受けるから返してくれ!」
そう言って俺達が邪魔をすればする程、ブルマ弁当は乱暴に扱われ、四方に飛び散ったり、踏み付けられたりしてしまう。その度にサラはとても悲しそうな顔をして届かない声を張り上げる。
「持って行かないでデス! ヨナベして作ったデス! 食べてクダサイ! 美味しく出来たデスカラ! 日本のみんなサンと仲良くしたかっただけデーーース!」
「うるさい! 会長のご判断だ!」
縋りつくサラを払い除けると、サラは吹き飛ばされて尻もちを付いた。
「アウチ!」
「あっ! てめぇサラに何すんだよっ!」
友城が激昂して内山田に掴みかかる。すぐさま他の生徒会員が友城を引き剥がす。
このままじゃ乱闘になってしまうんじゃないかと思ったが連中の行動は俺が思うよりもずっと迅速だった。一人に付き二人ずつ、いつの間にか後ろを取られてガッチリ拘束される。
「作業の邪魔だ。退場させろ! 怪我はさせるなよ? 女生徒の扱いには十分気を付けろ!」
『イエス! マイ トップ!』
そうしてズルズルと引き摺られる俺達。なす術はない。
「離せよ! サラが可哀想だろ! せっかく作ったんだぞ!」
「ホワイ?! ホワーイ!! サラの……サラのブルマ……!」
「ううっ……やめて……やめてください……」
口々に何かを叫びながら屋上を追い出される俺達。俺はと言うと、ただただ、奥歯をギリギリと噛みしめていた。目の前で蹂躙される、愛しくも悲しいブルマ弁当を両の目に焼き付けながら。そしてそのブルマの向こうで、生徒会長、安池亜弥は冷徹な表情を浮かべていたのだった。




