ブルマの歴史
東洋の魔女?!
情報が古い! 古くてピンと来ねぇ! 東洋の魔女っつったら俺らの母親通り越して婆ちゃんレベルの話しだよな?!
「そっ……!」
そんな古い話しかと、思わずサラに言ってしまうところで、友城が口を挟む。口の中には常にブルマなにがしが入っている状態なのでだいぶモゴモゴしていたがギリ聞き取れた。
「やっふぁり分かっふぇんなサラは! ありゃブルマがいかに機能的で強ぇかって事をよーく教えてくれたオリンピックだったよな!」
えっ? 何で友城がそんな歴史的な事知ってんの?
「私もそう思う! 二本ラインこそなかったものの密着型ブルマが広く認知されたのはやっぱり東洋の魔女あってだよね」
えっ? えっ? 幾瀬まで? ただ単におばさんの思い出話の影響だったんじゃなかったの?
「ムロン! ムロン! 十九世紀中頃にコルセットに反対した女性解放運動家によって考案された物が、紆余曲折の末あの奇跡のフォルムに辿り着き、東洋の魔女が完成させたと言って良いデショウ!」
紆余曲折とか難しい言葉知ってんね! 何か留学生キャラぶれてない? だいぶ流暢だったよ?!
「ああ、それだよそれ! 女性解放運動家が絡んでるとか奥深いよな!」
「奥深いってどう言う事? 田中君?」
何で友城が訳知り顔でうんうん頷いてるのか分からんが幾瀬みたいに聞かせて聞かせてなテンションになれない俺がここでは異端なのか。
「だってそうだろう? ジーンズは鉱山の労働者達が丈夫なズボンを求めた結果でー、ブラジャーはおっぱいが揺れない様に改良しまくって今の形になった! 要はファッションの大本はただ単に効率や快適さを求めたものじゃねぇか」
「うーん、そう言い切るのは語弊があると思うけど……」
「まぁな! が、それにしてもだ! 女性解放運動家がだ、女性を解放しようとした人がだ、良し! じゃあこれだ! これで女性は解放されるのだーーーー! つって作ったのがブルマって事だろ?」
「本当だ! 奥深いね田中君!」
「オー! トモキ! ナイスデス! それってもはやミステリー……神秘って言って良いべき思うデス!」
おいおいおい何だこれは……。
俺が……この俺だけが取り残されていると言うのか? このブルマ談議に! 正直ブルマの歴史とか普及とかには全然興味なかったああああ!
「ソースケも? ソースケもブルマ好き?」
会話にも食事にも参加出来なくなっていた俺を、ふいにサラが振り返った。
うっ、と言葉に詰まると、友城も幾瀬もじっとこちらを見詰めている。自分は正直に言ったぞと……。
「俺だって……」
「ん?」
「俺だって……、ブルマ好きだよ! 全然知識はないけど……理屈抜きにブルマが好きだ! 大好きだ!」
ああ、何かが……パンと弾けて溶けたようだ……。
三人とも俺を見て微笑んでいる。
ばっかやろう……目をキラキラさせやがって。
「なぁサラ! これも貰うぞ! たまんねぇよこのブルマ春巻き!」
「もちろん! もちろんねソースケ!」
十分楽しかったスペシャル昼休みが、自分を偽る事を止めた途端に更にスペシャルになったじゃねぇか。もしかしたら、昼休みだけじゃなくて、これからずっと、こんなスペシャルな気分で居られるんじゃないだろうか。だってさっき溶けた何かは、きっと俺の自由を奪っていた見えない鎖だったからだ!
これからずっと! きっともっと! 見えない鎖振りほどいて飛ぶのさ僕ら。なんか良い歌出来た。
「色は!」
「紺!」
「ラインは!」
「二本!」
「体操着は?」
「ブルマ!」
「ブルーマ!!」
いつも友城と二人でやっていたやりとりを、幾瀬にもサラにも教えて一緒にやってもらった。楽しくて楽しくて、もちろん酒に酔った事などないが酔っぱらうってこんな感じなんじゃないかって思った。
「うえーい!」
「うええーい!」
「いえーい!」
「イェアアアアーー!」
「いい加減になさいっ!!!」
もはや正気を忘れ、正に乱痴気騒ぎをしていた俺達。サラが本場仕込みのイエーイを披露したところで、それを上回る怒声が響き渡った。
この声の主は俺の想像した人物で間違いないだろう、そう思ったら、あっと言う間にスペシャルな気分とは真逆のテンションに陥った。
「一体これは何の騒ぎなのか、ご説明願おうかしら」
逆光で表情は良く分からないが、オーラで真っ赤な怒りを伝えながら腕組みをして凛と立っているその人は、生徒会長、安池亜弥。
そしてそのすぐ後ろ、安池に隠れる様にしてこちらを覗いているのは妹の亜子、会計補佐だ。




