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【コミカライズ企画進行中】婚約破棄された悪役令嬢は聖女となって竜族と趣味を満喫する  作者:


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21/23

無事、聖女になった理由がわかりました

 王城でのドタバタ劇から数日が経ち――――――――


 竜族の城の執務室で私は来客用のソファーに座っていた。王城を出てから、私はニアに連れられて竜族の城へ移動。訳あって、そのまま暮らしている。


 原因はバカ王子が兵を連れて攻め込んだためと、迎賓用の豪華な馬車が迎えに来たため。山の麓の町では噂になっているだろうし、どう頑張っても好奇の目で見られるのは避けられない。


「工房には戻れないのかなぁ」


 私の呟きを書類仕事をしているニアが拾う。


「難しいだろうな」


 黒髪をオールバックして竜族の正装を着ているニアの姿はいつ見てもカッコいい。前髪で隠れ気味だった夜明け色の目がいつでも見放題。ついニヤけてしまいそうになるが、そこは気合で我慢。


 かという私も、ここに来てからは竜族の民族衣装を着ている。ドレスよりゆったりとした作りで、一人で着ることができるし、動きやすい。


「はぁ……」


 でも、出るのはため息ばかり。ニアの背後にある大きな窓。そこから見える立派な庭は散歩しつくしたし、家事は城の使用人がしてくれる。

 つまり、やることがない。


「師匠、ガラスアクセサリーが、作りたいです……」

「そのことだが」


 トントン。軽いノックの音か響く。そして、執務室の主であるニアの返事を聞かずにドアが開いた。


「失礼します」


 白銀の髪をなびかせたキヌファが入室する。こちらは竜族の正装をしているが、前髪をおろして少しラフな感じ。


「人族の王より書簡が届きました」

「思ったより早かったな」


 ニアが封筒を受け取り、中を読む。


「どのような内容ですか?」


 身を乗り出す私にニアが書簡の内容を説明してくれた。


 今回の事件について、公爵令嬢であるセリーヌとの婚約を、相談もなく勝手に破棄したグリッドの愚行が始まりであった。しかし、それらの行動を容認した(自分)にも責任はある。

 そう結論づけた王は、婚約破棄の引き金となったナターシャを養女にした大臣を国外追放。グリッドを僻地(へきち)へ幽閉。グリッドの級友たちは騎士から兵士へ降格。王は隠居し、王位を第一王子に譲渡、という処分を下した。


 ニアが私に視線をうつす。


「書簡にはこう書いてあるが、これでいいか? もっと重い処分にしたかったら、一筆(いっぴつ)書くぞ」

「別に、それでいいです」


 もう関わりたくない私はすべてを投げた。そんな私にキヌファがクスクスと冷えた声で笑う。


「セリーヌ殿は本当にお優しいのですね。私なら王家全員処刑でもいいぐらいなのに」

「バカ王子にこれ以上、私の時間を取られたくないだけです」


 頬を膨らませた私にニアが首をかしげる。


「なんか、怒ってるか?」

「怒っているというか、不満なんです」

「不満? ガラスアクセサリーが作れない不満か?」

「それもありますけど。それより、ニアが竜族で、しかも盟主様だったなんて。先に教えてくれても良いと思いません?」 


 私は下からニアをにらみあげた。なのに、ニアは怯むどころか顔を赤くして、視線をそらす。


「それは悪かった。言い出すタイミングがなかったんだ」

「……わかりました。ちなみに、盟主は世襲制なんですか?」

「いや。魔力が一番強いヤツが盟主になるって、誰かが決めちまって、それがずっと受け継がれている」


 キヌファが困ったように肩をすくめた。


「今のところ、ニアより魔力が強い竜族はいませんからねぇ」

「それな。現れたらさっさと交代するのにな」

「で、キヌファ様の役職は?」

「私は盟主補佐です」

「護衛ではないのですか?」


 驚く私にキヌファが微笑む。


「こんな魔力バカに護衛など必要ないでしょう」

「ま、腐れ縁でこうなっただけだ」

「そういうことです。ところで、セリーヌ殿。少しお時間よろしいでしょうか? セリーヌ殿の癒やしの力について、お話をしようと思いまして」

「ぜひ、してください」


 私はキヌファの話に飛びついた。そもそも、私が聖女なんて無理がありすぎる。


 キヌファが私の向かい側にあるソファーに腰をおろした。


「最初の頃の話になりますが、セリーヌ殿は勘当されたあとガラス工房を探している途中、足を滑らせて湖に落ちたそうですね?」

「はい」

「その湖、実は(けが)れ落としに使われる聖なる泉なのです」


 私は血の気が引いた。すぐに頭を下げる。


「すみません! そんな神聖な泉に入ってしまって!」

「いえ、そこはいいんです。ただ、湖に落ちて汚れがなくなったセリーヌ殿に、ニアが魔力を注いでしまって……」


 ニアが慌てて補足説明をする。


「あれは死にかけてたから、回復させるために必要なことだったんだ! あそこまで効果があるとは思わなかったが」


 もしかして、全身の痛みが一日で治ったのはニアのおかげ?

 私が質問する前にキヌファがニアを軽くあしらう。


「はい、はい。ニアは黙って仕事をしてください。で、セリーヌ殿は湖で汚れがない無防備な状態になりました。そこにニアが魔力を注ぎ、眠っていた癒やしの力を刺激、目覚めさせたようです。そして、その力で無意識に自身のケガを治したのでしょう」


 思いもしなかった話に私は言葉が出なかった。


「あとは、セリーヌ殿がニアと一緒に生活する中で、ニアの魔力を自然と浴びて体内に蓄積していったと予測されます。ニアは魔力量だけは無駄に多いですから」

「最後はいらねぇだろ」


 ニアが書類を読みながら文句を言う。だが、キヌファが気にする様子はない。


「普通の人族が治癒魔法を使うは莫大な魔力が必要になります。ですが、セリーヌ殿の場合はニアの魔力を使うので、最小の魔力量で治癒魔法が使えます」

「どうしてニアの魔力だと最小の魔力量で治癒魔法が使えるのですか?」

「元々、セリーヌ殿に癒やしの力の才能があったことと、こんなニアですが、意外なことに治癒魔法と相性が良いのです。その二つが合わさった結果ですね」

「意外で悪かったな」


 ここで私はニアが神官長に言っていた言葉を思い出した。


「だから、私が治癒魔法を使えるのは偶然の産物?」

「そうです。これは、とても珍しいことですけどね。普通の人に竜族の魔力を注いでも、すぐに抜け出てしまいますから」

「なら、どうして私は抜け出ないのですか?」

「ニアの魔力との相性が、相当良かったのでしょう。でなければ、ニアの駄作に一目惚れなど……」


 ニアが書類に走らせていたペンを止める。


「駄作、駄作って、しつこいぞ」

「事実です」


 ニアの怒りがこもった言葉もキヌファが華麗に無視する。ニアが諦めて書類に視線を戻した。


「体は人族で、魔力は竜族。だから、どっちも癒せる希少な存在、聖女ってわけだ。普通は自分の種族しか癒せないからな」

「そうですね。それと、セリーヌ殿が作るガラスアクセサリー。あれにはセリーヌ殿の癒やしと防御の魔力が含まれています」

「あ……」


 グリッドの級友が放った魔法を防いだのは、ネックレスに私の魔力がこもっていたから……


 並べられた事実に、私は自分が聖女であることを認めないといけなくなってきた。


「はぁ。やっぱりキャンセルできないかしら」


 私の真剣な呟きをキヌファが口元を押さえて笑う。


「し、失礼。やはりセリーヌ殿はおもしろい方ですね」

「オレの弟子だ。やらねーぞ」


 ニアの言葉に私の顔が一気に赤くなる。

 弟子って言葉にはモヤッとするけど、それ以上になんか恥ずかしい。


 キヌファがニアをスルーして私に微笑む。


「残念ながら、キャンセルはできません」

「……ですよね」


 私は力なくソファーに腰を下ろした。


「ただ、ニアが言った通り、あなたは竜族の盟主の弟子であり、人族も竜族も癒せる中間の存在。あなたが希望するなら、竜族に迎えましょう」

「え?」

「そして、作られたガラスアクセサリーを竜族に売っていただけると助かります」


 キヌファが今日一番の良い笑顔になる。なるほど。それが目的、ね。


「身の安全を保障するから、竜族のために癒やしの力が付与されたガラスアクセサリーを作れ、ってことかしら?」

「そこまでは言いません。それに、身の安全なら竜族が守らなくても、ニアが勝手に守るでしょうし」


 話をふられたニアがペンを折る。


「な、なな、ななに、言ってるんだ!?」

「おや? 師匠として、弟子を守るのは当然のことなのでは?」

「そ、そ、そりゃあな! 師匠は弟子を守るもんだ!」


 キヌファが笑顔で私のほうを向く。


「ということで、そこまで深く考えなくても大丈夫です」


 あ、これニアで遊んでいるだけね。


 そう理解した私は笑顔で頷いた。


「そうですね。作ったガラスアクセサリー全部を竜族に売ることはできませんが、今回のこともありますし割引はしましょう」

「いくらほど?」

「そのあたりは、また落ち着いてから」

「いいでしょう。待ちますよ。竜族は気が長いですから」


 私はキヌファと微笑みあった。これは本気で商売しないと足元をすくわれそう。


「終わった!」


 机にペンを置いたニアが大股で私のところに来る。

 無言で見下ろしてきたニアに、私は(ねぎら)いの言葉をかけた。


「お疲れ様で……え?」


 突然、手を握られて立たされる。え!? 何事!?


 顔を赤くする私を無視してニアがキヌファをにらんだ。


「手を出すなよ」

「あなたの魔力が染みついた子に手をだす竜族なんていませんよ」

「行くぞ」


 ニアが私の手を引いて歩きだす。キヌファを見ると、良い笑顔で手を振られた。



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