無事、趣味を満喫できるようになりました
私の手を握るニアの手が大きくて。スルッと抜けてしまいそうなのに、しっかりと掴まれていて。
なぜかドキドキしてしまう。
慣れないことにドギマギしていると、ニアがボソッと呟いた。
「まったく。オレ以外のヤツとへらへら笑い合うな」
声が小さすぎて聞き取れなかった。
「どうかしましたか?」
「なんでもない」
庭にでたニアが私の手を握ったまま、どんどん進む。木で作られた緑のトンネルを抜け、その先にあったのは……
「ガラス工房?」
山にあったガラス工房と同じ……より少し大きい。
「あの山にはしばらく戻れそうにないから、ここに作った」
「中に入ってもいいですか?」
「あぁ」
ニアにエスコートされて工房の中に入る。置いている設備や機材は山のガラス工房と同じ。あとは簡易キッチンやテーブルと椅子まである。
「なんか、ここで暮らせそうですね」
「まあ、一泊ぐらいならできる……か?」
「うーん。もう少し改良したら、ここに住めますか?」
私の質問にニアの目が丸くなる。
「ここに住む気か?」
「いつまでもお城暮らしをするわけにはいきませんし」
ニアは盟主だから城に住んでも問題ないけど、私は関係ない、ただの人。
「おまえはオレの弟子だ。別に問題ない」
……弟子。
前は言われて嬉しかった言葉なのに、今はモヤッとしてしまう。なぜだろう。
理由は分からないけど、私は笑顔を顔に貼り付けて答えた。
「弟子なら尚更ですよ。工房に住みこまないと」
私の顔を見たニアは困ったように頭をかき、天井を見上げる。
「あー、いや。オレが悪かった。やっぱり、こういうことはハッキリ言わないとな」
ニアが私の前に小さな箱を出して、蓋を開けた。箱の真ん中には宝石が一つ。複雑な形にカットされ、星のように光を弾く。
「竜族では透明な宝石に自分の魔力をこめて、伴侶になってほしい相手に渡すんだ」
ニアの魔力がこめられているのか、宝石は夜明け色に輝いている。
「そうなんですね。きれい……これを伴侶に……」
どこか他人ごとだった私の頭がようやくニアの言葉を理解した。その瞬間、顔が沸騰したように熱くなる。
「は、伴侶!? そ、それを、私に!?」
「……あぁ」
恥ずかしいのかニアが顔をそらして肯定する。
私ではなく、遠くを見る紫の瞳。私が一目惚れしたガラスと同じ色。ずっと、見ていたい。その気持ちと同じぐらい、私を見ていてほしい。そして、ずっと側にいたい。
あぁ、そうか。私は弟子ではなく…………
「へ、返事は急がな……ん?」
私はニアの服の裾を引っ張った。つられてニアが私の方を向く。
「あの、そういうことは顔を見て、はっきりと言ってもらえません? 私も、その、返事がしづらいので」
私の言葉にニアは驚いた顔になった。そして、覚悟を決めたように大きく息を吐くと、片膝をついて宝石を私に差し出した。
「セリーヌ、オレの伴侶になってくれ」
まっすぐ見つめてくる夜明け色の瞳。私はこの色に恋をした。そして、今はニアに…………
「はい!」
私は返事と同時にニアに抱きついた。
それから――――――――
私は新しい工房でガラスアクセサリーを作っている。特に竜族と人族の女性に人気となり、私の魔力がこめられた虹色に輝くガラスは、幸福の象徴として男性がプロポーズに使うほど。
私は工房の外にセッティングされたテーブルと椅子に座り、ニアが淹れてくれた紅茶を飲んでいた。周りは手入れをされた木と花に囲まれ、秘密の隠れ家みたい。
「んー、美味しい」
程よい甘さに鼻を抜ける紅茶の香り。紅茶を楽しむ私の前でニアが呟いた。
「……おまえが淹れたほうが美味しいな」
「ニアが淹れてくれた紅茶のほうが美味しいですよ」
私が即座に訂正すると、ニアが不機嫌そうに顔をそらした。
「そ、そうか」
その表情で私はふと思い出した。
「そういえば、私が竜族の話をした時もそんな顔をしてましたよね」
「いつだ?」
「えっと、私が初めてガラス玉作りをした時です。集中しすぎて水を用意するのを忘れて、ニアが持ってきてくれました」
「あ、あぁ。あの時か」
ニアが景色を眺めながら紅茶を飲む。
「あの時は、どうして不機嫌な顔をしたんです? 私、なにか失礼なことを言いました?」
「いや、あれは……だな。その、アレだ」
「アレ?」
「竜族を褒められて、つい嬉しくなって……だな」
つまり、ニヤケないように我慢した結果の不機嫌顔。
「そうだったんですね」
「そういうことだ!」
ニアが紅茶を一気に飲みこむ。
そのまま無言になってしまったけど、不思議と居心地はいい。穏やかな空気に紅茶の香り。
これって、幸せっていうのかな。
思わず笑みがこぼれる。そんな私をニアが怪訝な顔で見下ろした。
「どうした?」
「幸せだなぁ、と思いまして」
ぽろりとこぼれた私の本音にニアは夜明け色の瞳を丸くする。そして、満足そうに微笑んだ。
「そうか」
「はい」
私は貼り付けではない笑顔をニアに返した。




