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【コミカライズ企画進行中】婚約破棄された悪役令嬢は聖女となって竜族と趣味を満喫する  作者:


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19/23

無事、城に連れていかれました

 ボロボロになったバカ王子がなにか叫びながら撤退。王族にふさわしくない罵詈雑言だった気がするけど、聞かなかったことにする。その姿を眺めながら、私は意識を失っていた。

 ずっと緊張していたのと、安心感からと。とにかく疲れていたのだろう。気がつけば、私は丸一日寝ていた。


 そして、次に目を覚ましてた時には――――――――


 私は王城にいた。いや、目を覚ましたら王城だったというわけではない。

 目を覚ましたら城からの迎えが来ていて、ニアとまともに話す時間もなく、王命だからと連れていかれた。


 ちなみに迎えの馬車が山道を登れるわけもなく、麓の町に停まっていたけど、迎賓用の馬車だからとにかく豪華で。山をおりた時の野次馬がすごかった。

 好奇の視線に(さら)され、ここでもニアとまともに話せず。


 ただ、馬車に乗り込む時、ニアが私の手を掴み、


「かならず迎えにいく」


 と、言ってくれた。無理だとは分かっているけど、嬉しくて。泣き顔を見られたくない私は、何も言えずに馬車に飛びこんだ。


 こうして激走りする馬車に激しく揺られて王城へ。ここまで急ぐのは王命の書面からも分かった。


 表向きには、今回のバカ王子が仕出かしたことの聴取だけど、実際は後処理の手伝いだろう。竜族との戦争は回避したい。そのために、竜族のニアと交流がある私を利用するつもりなのだ。

 でなければ、公爵家の名を出して脅しまがいの文まで書かない。父がどうなろうと私には関係ないけど、母や使用人たちが路頭に迷うのは避けたい。


「私は、私のできることをして、帰るだけ」


 ニアが待つガラス工房へ。そのためには、ここが踏ん張り場。


 私は久しぶりに袖を通した戦闘服(ドレス)をひるがえし、謁見の間(戦場)へ踏み出した。



 訪れる者を威圧する謁見の間。一番奥の高い台座には、この国の王。つまりバカ王子の実の父親が座る。

 四十代ほどのはずだが、目元のシワは深く、苦労の跡がうかがえた。まだら白髪を頭になでつけ、けわしい顔で私を見下ろす。

 聖人君子というわけではないが、そこそこ実直で無難に政治をおこなっている。

 なのに、なぜ息子があんなにバカなのか。


 私は玉座に座る王を前に淑女の礼をした。


「顔をあげよ、セリーヌ。急に呼び出して悪かったな」


 王が謝罪から入った。そのことに周囲がざわつく。

 ここにいるのは大臣クラスの要人のみ。息子の愚行を(おおやけ)にしたくないのだろう。第二とはいえ、王子は王子。世間体の問題もある。


 王の左下に第一王子のセグリックと第二王子のグリッド。反対側には公爵である私の父。あとは、宰相やら、外交大臣やら、神官長やら。なんで、神官長がいるのかしら? 今回のことは神殿側に関係ないのに。


 黙ったままの私に王が話を続ける。


「この度の経緯をそなたの口から直接聞きたいと思い、呼び寄せた。語ってはくれぬか?」


 明らかに下手の態度。バカ王子が迷惑をかけたからか、私の機嫌を損ねて竜族との交渉カードを失いたくないからか。


 たぶん、後者。


 私は優雅に頭を下げた。


「今回のことはグリッド様の突然の婚約破棄が始まりでした」

「おまえ! なにをデタラメ「グリッド! おまえの発言は許可しておらん!」


 王の叱責(しっせき)が飛ぶ。こんな面前で堂々と(いさ)めるなんて。まさか、私に少しでも悪かったと思っている? ……まさかね。


 頭を下げたままなのでグリッドの顔は見えないが、悔しそうに歯ぎしりをする音は聞こえた。


 私は悠然と話を続ける。


「婚約発表の予定の場での突然の婚約破棄。突然のことに混乱し、傷心した私は言葉が出ず、そのまま帰宅しました。しかし、父より釈明しなかったことを責められ、家を追い出されました」


 父から声が漏れかける。ここで言葉を出せばグリッドの二の舞い。

 私は淡々と事実(・・)を話していく。


「馬車を乗り継ぎ、いつの間にか山に入り込んでいた私は、途中で足を滑らせてケガをしました。そこで竜族の一人に助けられました。彼は竜族の特徴である翼と尻尾を隠しており、私はつい最近まで彼が竜族であることを知りませんでした」


 本当に。ニアが竜族なんて考えもしなかった。けど、ニアが竜族でも人間でも関係ない。ニアはいつも優しく、私を守ってくれた。


「私は手当てをしてもらった礼に、家事をおこない、彼の仕事を手伝っておりました」


 そこで王からの驚きの声が入る。


「公爵令嬢のそなたが、家事、だと?」

「公爵家を追い出された身。生きるためには家事ぐらいせねばなりません。これが証拠です」


 私は頭を下げたまま、水仕事で荒れた手を差し出す。ニアからハンドクリームをもらったが、もったいなくて使えなかった。なので、手は荒れたまま。


「……本当に勘当されていたのだな」


 王の呟きが静かに落ちる。王子といい、父といい、どれだけ自分に都合がいい話をしたのか。

 たぶん、そこで矛盾が生じて私の話を聞くことになったのだろう。


「こうして、なんとか生活に慣れた頃。突然、グリッド様が兵士を連れて来られました。そして、いきなり攻撃をされました」

「それは、あいつが!「グリッド!」


 王の一喝でグリッドが黙る。


「竜族の彼、ニアが家から出ると同時に、グリッド様に同行していた騎士の一人が魔法で攻撃をしました。しかし、グリッド様はそれを諌めることをしませんでした。その後は多勢に無勢。私を人質にとられたニアはなにも出来ず、兵に殴られ続けました。そして、最後は無抵抗のままグリッド様の剣で胸を刺されました」


 私の最後の言葉に全員が息をのんだ。ざわつくどころではない。鎮痛な沈黙が落ちる。


 グリッドが声を震わしながら言った。


「それは、そいつの狂言だ! 現にあいつは生きている!」


 王が手だけでグリッドを下がらせる。


「そこについて詳しく聞きたい。竜族といえど、胸を刺されれば絶命する。なぜ、その竜族は生きているのだ?」

「ニアは治癒魔法を使って、すぐに傷を治した、と話しておりました」

「ふむ。では、グリッドが竜族を刺した、というのは事実なのだな?」

「左様でございます」


 すべてを話し終えた私は顔をあげた。王が私の目を見て確認する。


「すべて、事実か?」

「事実でございます」


 嘘は言っていない。ただし、すべても言っていない。まあ、全部話してたら時間がかかるし、省略したということで。


 王が深くため息を吐いた。


「さて、今後の対応についてだが、グリッドたちの処罰は追って報告する」


 あら? なんか考えていた展開と違うような? 普通なら、ここで処罰について話し合うのに。


 王が私を見据える。これで終わりなら、さっさと帰してほしいし、竜族との交渉に私を使う気なら、早くその話をしてほしい。


 けど、王から出た言葉はまったく予想外のもので。


「神官長、どうだ?」


 謁見の間のすみでナニかの魔道具を操作していた神官長が進み出てきた。


「魔道具が反応しております。この者は癒やしの力があります」

「え?」


 長いローブを羽織った白髪の神官長が私の前に立つ。そして、懐からガラス玉を取り出した。


「……それは」


 私が最近作ったガラスアクセサリーに使ったガラス玉。なぜ、ここに?


「最近、市井で癒やしのアクセサリーなるものが出回っていると神殿に報告がありまして。念の為、確認をしたところ、このガラス玉には治癒の魔力が宿っておりました。場合によっては聖女の再来となるため、神殿はこのガラス玉の製作者を探しておりました」


 神官長の言葉をグリッドが鼻で笑う。


「ハッ。この見た目だけの女が聖女なわけあるか」


 このあと処罰されるのに大した余裕……というか、処罰されると思ってないのかも。それぐらいの鶏頭だし。


 しかし、その鶏頭も全員から冷めた視線を向けられたことで、異変を感じたらしい。少し慌てだす。


「だ、だって、今までそんな様子はなかったぞ! 癒やしの力があるなら、もっと早く気づいているはずだ」


 神官長が頷く。


「その通りです。ですので、セリーヌ様が聖女の力を授かったのは、都を出てからかと」


 私は笑顔を貼り付けたまま、心の中で悪態をついた。私を呼び出した理由が、ここにもあった。もし聖女だとしたら、伝説級の存在。逃がすわけがない。

 まあ、そんなことありえないんだけど。


 私は頭を振って穏やかに否定した。


「私はただガラス玉を作っただけです。そのような力はありません」

「ですが、魔道具はしっかりと反応しました」


 そこに父から歓喜の声が響く。


「さすが、我が娘だ! 我が公爵家から聖女が出るとは!」


 相変わらず面子のことしか考えていない父。もし聖女と認定されたら、自由はほぼない。王家のお飾りになるか、神殿で人々を癒やし続けるか。


 そもそも、ガラス作りができなくなる!


「キャンセルで!」


 私は思わず叫んでいた。全員が啞然とする中、神官長が恐る恐る私に訊ねる。


「それは、聖女になることをキャンセルする、ということですか?」

「そうです」

「あのですね、聖女はキャンセルするようなものではなく……」

「ですが、キャンセルしないと神殿か城に閉じ込められるでしょう?」

「それは……」


 神官長がなんとか私を説得しようと言葉を探す。そこに一人の兵士が転がり込んできた。


「で、伝令!」

「何事だ! 誰も通すなと厳命しただろ!」

「ですが、りゅ、竜族が!」


 兵士の必死の報告に全員が黙る。そこに聞き覚えがある笑い声が響いた。


「キャンセルとは、またいいな。おまえらしい」


 ここで聞くはずがない声。私の幻聴?


「だが、神殿か城に閉じ込められるのは良くない」


 胸が締めつけられる。違う。胸が張り裂けそう。


「ガラス作品が作れなくなる」


 私はゆっくりと振り返った。そこには、大きな翼と大きな尻尾を揺らし、悠然と歩くニアの姿が。


「どう、して……ここに……?」


 ニアが私の前で止まり、当然のように手を差し出す。


「迎えにいくって言っただろ?」


 私は現状を忘れてニアの胸に飛び込んだ。



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