規律と正義
人の持つ「欲」というのは業が深い。
金や地位などの権力を持つ者は尚更だ。
一方、それを抑制するために「法」があるわけだが……
権力者逹に都合の良い法が存在した場合は悲惨な事になる。
法に守られた権力者は容赦なく「弱き者」を食いつくすからだ。
怪我人を連れてきた獣人から、この国の「歪んだ法」を俺は聞く事となった。
「俺達は、知り合いの酒場で安酒を飲んでいたんです。そしたら……憲兵の奴等が来て「内職」を始めて……」
「……内職?」
治療を終えて再び椅子に座ったクロは、煙草を吸いながら答えた。
「税金を払えない奴に対して憲兵逹が「個人的」に徴収する隠語だ。もっとも、国で設定された金額をまともに払える奴は裕福な奴に限る。一般的には桜花組に仲介してもらって減税してもらっているがな」
どうやら、ヴァルス王国には所得に応じて税の金額を設定していないようだ。
それでは「弱者」にとっては悲惨な事になる。
「桜花組の仲介があっても払えないものなのか?」
クロは呆れた顔をしていた。
「……貧民街に桜花組の息なんぞ、かかってねぇよ。憲兵逹の「狩り場」だからな。勿論、内職で徴収した金を国に納める事なんてしやしねぇ。自分逹の懐に入れちまう……桜花組は見てみぬフリだ。所詮、国の下部組織に成り下がった犬だからな……憲兵に逆らうつもりなんてないのさ」
桜花組が国の下部組織……?
なるほど……入国時に兵士から検閲を受けずにスムーズに入れたのは、桜花組が「関係者」だったからか。
「国として成り立つには公平な法が必要だ。この国の法律を俺は知らないが、そんな横暴がまかり通る程、いい加減な法律しかないのか?」
「法律だと……?そんなものは権力者逹の為にあるようなもんだ。弱者を救済する法なんぞねぇよ。この国は、どんなに無能でクズでも貴族に生まれれば安寧な生活が保証されてる。血統が全てだからな」
中世時代にあった「貴族主義社会」というやつか。
俺は歴史に詳しいわけではないが、貴族主義ってやつは貧富の差が激しく、貧民は常に虐げられていたと記憶している。
だが、腑に落ちない事がある。
そういった国の横暴から弱者を守るのが桜花組であるはずなのに、弱者を虐げる行為を見てみぬフリをしている事だ。
「クロさん……アンタが桜花組と相容れない決定的な理由は、今の桜花組が弱者を守ろうとしていないからか?」
「まぁ、それだけじゃねぇが……それも大きな理由の一つではあるな」
クロは煙草の火を灰皿に押し付けて消すと、再び椅子に深く座った。
「これで理解したか?桜花の若い兄ちゃんよ……俺は腑抜けた桜花組なんかに薬を渡すつもりはねぇ。帰ってボルクの野郎に伝えとけ、二度と俺の前にテメーの組の人間を寄越すな、とな」
声を荒げて罵倒してくるクロを尻目に、俺は怪我人を連れてきた獣人に一つ尋ねた。
「アンタ逹に絡んできた憲兵逹が今どこいるか分かるか?」
「え……?アイツらなら俺達から金を巻き上げた店で酒を飲んでいると思うけど……」
「……そこに案内してくれ」
憲兵逹に会うのはチャチな正義感からじゃない。
俺は桜花組とは違う事をクロに証明するというのもあるが、何より俺自身……性根が腐った輩が死ぬほど嫌いだからだ。
「桜花の兄ちゃんよ……何考えてやがる。餓鬼の火遊びじゃ済まねぇ事になるぞ?」
「別にアンタらに迷惑をかけるつもりはない……見返りに薬を貰うつもりでもない。ただ……俺自身の為に行くだけだ」
俺は獣人と一緒にクロの店を出て、憲兵逹がいる酒場へと向かった。




