救えぬ者達
狼藉を働いた憲兵達がいる店についた俺は、中の様子を伺う事なく扉を開けて入っていった。
それなりに奥行きがある店内は随所に「こだわり」が見え隠れする内装だった。
小洒落たインテリアと、ほどよい薄暗さが落ち着いたBARの雰囲気を出している……普段なら酒を嗜みながら静かに談笑をするような場所だ。
だが、今は粗暴な男達の下卑た言葉が飛び交っていた。
カウンターにいた店長らしき男が俺を見ると慌てた様子で近寄ってきた。
「お客様っ!い……今は貸切中でして……また今度来て頂けませんでしょうか?」
「貸切中……?カウンターが空いているじゃないか……勝手に座らせてもらうぞ」
俺は店長を無視しながらカウンターの椅子に座った。
カウンター席の左側にはソファーに腰掛けた4人の男達がいた。
皆、酒瓶を手に持ちながら従業員と思われる獣人の女を横に座らせて卑猥な行為を続けている……話に聞いていた憲兵達に違いない。
下劣な行為に夢中な憲兵達は俺に気付いていなかった。
「店長……従業員達が嫌がっているように見えるが、何故止めないんだ?」
震える店長は「仕方がないんです……」と俯きながら小さな声で呟いた。
どうやら憲兵達の「行為」は強制的に黙認されているようだ。
おそらくは日常的に行われているのだろう……
店長はグラスに酒を大急ぎに入れて俺に渡した。
「お客様……それを飲んだら早く出ていって下さい。憲兵達に睨まれたら…………あぐッ!!」
話しの最中に酒瓶が飛んできて店長の頭に当たった。
割れた酒瓶の破片がカウンターに飛び散り、店長は頭から血を流しながら倒れる。
「酒が切れちまったぞっ!この野郎っ!早く次を持ってこい!……んー?なんだテメェはっ!?いつからそこにいやがった!」
ようやく、憲兵達はカウンターにいた俺に気付いたようだ。
憲兵の1人が座っていた半裸の女従業員を突き飛ばして俺へと近寄ってくる。
「この店は俺達が貸し切ってんだ!テメェみたいな若造はさっさと消えな!死にたくねぇならなぁーっ!」
カウンターの椅子を蹴り飛ばしながら憲兵達はチンピラのような脅し文句を吐いた。
「1つ聞きたい事がある……アンタ達、憲兵とは国の民を守るのが仕事じゃないのか?」
俺の問いに憲兵達はゲラゲラと笑いながら答えた。
「ハーッハッハッハ!俺達が守るのは税金をたんまり払った金持ちだけだ。コイツらみたいな貧民を守る義務はねぇ。どう扱おうと俺らの勝手だ!」
座っていた憲兵の1人が従業員の女を笑いながら蹴り飛ばした。
「俺達は退屈な公務を毎日やらされてイライラしてんだよっ!たまには息抜きしねぇとなぁ~」
蹴り倒されて泣きじゃくる女の頭に手に持った酒を浴びせて笑う憲兵達……獣人の女従業員はそれでも顔を下に伏せて堪えていた。
俺は椅子から立ちあがり、従業員に酒を浴びせていた憲兵の腕をねじり上げて言い放った。
「本当のクズとは、お前達の事を言うんじゃないのか……?」
「テメェっ!?……何をっ!……おっ!?折れるっ!やめっ……」
憲兵の腕をねじり上げた俺の右腕からは蒼い炎が出ていた。
大した力をいれる事なく、憲兵の腕はあらぬ方向に折れ曲がり、店内には憲兵の悲痛な叫び声が響きわたった。
痛みで泣き叫びながら転がっている憲兵の腹を蹴り飛ばし、俺は憲兵達の前に立った。
「今のお前達の姿を見たら、桜花宗次郎はどう思うんだろうな?」
「あぁっ?桜花宗次郎だとっ!?何を寝言を言ってやがる!桜花組は憲兵団の配下だ!俺達に指図なんか出来やしねぇ!」
クロの言った通り桜花組は憲兵達には逆らえないのか……しかし、これでは初代の桜花宗次郎が嘆いているだろうな。
憲兵達は抜剣し怒りの表情を浮かべていた。
「クソ餓鬼が……ぶっ殺してやらぁーっ!!」
顔を真っ赤にしながら憲兵の1人が斬りかかってきた。
威勢はいいが、酒が回っているのか足元がおぼつかない……
憲兵の放った袈裟斬りを難なく避けて、腹に強烈なボティブローを鳩尾に叩き込んだ。
反吐を吐きながら両膝をついてうずくまった憲兵の顔面を床に叩きつけてやろうと髪をつかんだ、その時……
「貴方達っ!何をやっているんですかっ!?」
店の入口から大きな声が店内に響く……
そこには黒い全身鎧の騎士が立っていた。




