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異世界リセットマラソン  作者: 秘匿
3/4

「リセットリセットリセットリセットリセットリセットリセットリセットリセットリセットリセットリセットリセットリセットリセットリセットリセットリセットリセットリセット……(略)」

 ………………

 …………

 ……

 突然だが、ここらでいったん中間報告しよう。


 あれから僕は50回ほど【結晶の洞窟】に挑戦をした。挑戦1回で約1時間程度、つまり50時間はかるく経過している。キャラメイクの時間を合わせると100時間超……。

 とりあえず挑戦した50時間の成果を報告したいと思う。



 まずこのダンジョン【結晶の洞窟】の情報だ。

 この場所は数百年前の大魔導師が『なにか』を生み出そうと研究をしていたいわくつきのダンジョンだといわれている。『なにか』がなんなのかはいまだに不明だ。

 階層は1階のみ。しかし内部はそれなりに広く、地形も入り組んでいてかなり迷いやすいので注意が必要だ。固く閉ざされた扉がいくつもあったので、なにか特殊な仕掛けがあるものと思われる。

 外壁のあちこちには謎の結晶がへばりついていて、そこから『結晶の幻獣』が生み出され襲いかかってくることがある。おそらくやつらはダンジョンのガーディアンだろう。


 次にこの『僕』のことを書き連ねよう。

 転生した僕は【結晶の洞窟】の中間地点にある謎の結晶に封印された状態からスタートする。これは毎回同じだ。おそらく決定されている事項だろう。

 しかし生成された僕の肉体は、『人間』か『ホムンクルス』のどちらかになる。これは僕の意思は関係なく完全にランダムで決められてしまう。

 さらに僕の封印を解いてくれる人たちが、現時点で3グループいることも判明した。ひとつがオッサンたち『冒険者グループ』、ひとつがおじいちゃんたち『魔法学者グループ』、そして美少女たちだけで構成された『勇者グループ』だ。ただしほとんどがオッサンたちかおじいちゃんたちが封印を解き、勇者たちはめったに出会えない低出現率のレアな存在だったりする。とても残ね……なんでもない。


 最後に、封印を解かれてからの大まかな流れを書こう。

 結論から言うと、どのパーティーグループも遅かれ早かれあの部屋(・・・・)に向かう。そしてあの化け物(・・・・・)にやられて全滅する。

 さりげなく撤退を進言しても、どのグループにも確固たる目的があって絶対に退くことはなかった。僕にできるのはせいぜい寄り道をさせて全滅するまでのタイムリミットを伸ばすことくらいしかない。それもわずかなものだが。


 ふいに女神さまの言葉が思い出される。彼女は「世界を救ってほしい」と言っていた。

 これはおそらく「彼ら彼女らが全滅することを防いでほしい」という意味なのだろう。どうにかして全滅させることなくあの化け物を倒さなくてはならないのだろう。きっとそれが【結晶の洞窟】のクリア条件に違いない。

 かなりの難題だけど、僕には頼もしい特殊スキル【リセット】がある。


 とにかく僕はやるしかない。

 結晶の外には出られたけれど、まだ洞窟の外には出られていないのだ。せっかくの異世界だというのに、その広い世界の片隅のちっぽけなほんの一部の端っこしか冒険していない。そんなのはいやだ。


 そんな決意をした直後、僕を封じている結晶が砕かれた。

 どうやら時間のようだ。それではいってきます。



 ………………

 …………

 ……

 ここらで中間報告をしよう。そう、まだ中間報告なんだ。


【結晶の洞窟】の挑戦数は、200回を超えたあたりからもう数えてない。挑戦1回あたりの時間にばらつきが出始めてきたので逆算も難しい。ちなみに現在の経過時間は500時間をちょっと過ぎたくらいだ。

 ともあれ、わかった情報の追記をしよう。



 まずあの化け物のことだ。

 その名を【狂気の成れ果て】という。禁忌の魔術と錬金術を使い、結晶の肉体を持つ魔法生物を創造しようとした大魔導師の変わり果てた姿らしい。あれが元人間だったなんて、正直なところ今でも信じられない。そしてやっぱりあの化け物がこのダンジョンのボスで間違いないらしい。


 僕が封印されていた中間地点からボス部屋までは『中央コース』『左コース』『右コース』の3通りの道が用意されている。

 中央はボス部屋まで最短距離だが、ザコ敵が多くてそれなりに苦労するコースだ。

 左右のコースはそれぞれ大きく回り道をする形だが、左コースには『結晶武器』が、右コースには『結晶魔法』という大魔導師の研究成果の一部を発見することができる。

 さらに左右のコースにはそれぞれ強力な大型の『幻獣』がいた。確認した限りでは左コースに【結晶キメラ】、右コースには【結晶ゴーレム】が配置されていた。ちなみにどちらも隠し部屋の中で休眠状態だった。


 そういえば僕の封印を解くのがどのグループなのかでも、ダンジョン全体の難易度が変化することがわかった。

 オッサンたち冒険者グループはとっても有能だ。さすが熟練の冒険者というべきか、ザコ敵との戦闘はおろか罠の対処や隠し通路の発見法、さらに野営の準備や簡単な料理までなんでもできてしまう。唯一の欠点はむさ苦しいビジュアル面か。あと全員が脳筋なので若干バランスが悪いパーティーだ。

 おじいちゃんたち魔法学者グループは、正直なところかなり微妙だ。全員が現場慣れしていないので歩みは遅いし、年齢層が高いため休憩も多いし、そもそもその休憩の仕方も冒険者たちと比べると手際が悪い。しかしさすがというか知識量はすごい。このダンジョンのこともほぼ彼らから教えてもらった。あと攻撃魔法の瞬間最大火力がヤバい。

 勇者グループは美少女、万歳! あ、間違えた。勇者たちはたぶん経験が足りないのだろう、まだ年若いこともあってか凡ミスが多い。ただし彼女たちは能力値がほかのグループの人よりもはるかに恵まれているため、まったく問題にならない。苦戦するにしても中ボス以上からなので、おそらく僕がちょっとフォローするだけでどうにかなるのではないだろうか? つくづく出現率の低さが悔やまれる。いろんな意味で。


 難易度といえば、僕が『人間』か『ホムンクルス』かでも難易度が大きく変わることがわかった。ぶっちゃけホムンクルスだと戦闘は楽勝だ。

 僕の初期能力値は、転生ボーナスを含めてすべて「1105P」だ。これはもっとも高いステータスを誇る美少女勇者よりもさらに高い。『ホムンクルス』に転生すると、そこにさらに強力な『種族補正』がプラスされてとんでもないことになるのだ。

『人間』に転生すると、それなりに強い性能の『紋章の剣』が手に入る。けれどホムンクルスの強さを知った後だとあまり魅力を感じない。

【結晶の洞窟】を確実にクリアするにはホムンクルス一択だと言わざるを得ない。


 しかしながら、まだ【結晶の洞窟】の攻略法は確立されていない。ボスを倒す方法すらわかっていない。


 僕はあと何回あのダンジョンに挑戦すればいいのだろう。

 僕はあと何回あの化け物たちと戦えばいいのだろう。

 僕はあと何回、死にかければいいのだろう。

 僕はあと何回【リセット】すればいいのだろう。


 そしてふたたび結晶が砕かれた。

 大丈夫。僕はまだ頑張れる。それじゃあ逝ってきます。



 ………………

 …………

 ……

 まいどどうも、中間報告のお時間です。


 ついに挑戦回数だけでなく経過時間までわからなくなりました。まさか『999時間』でカンストしてしまうとは思ってもみませんでした。しかもそれに気づいたのだって、けっこう前のことだし。

 まあ、そんなことはもはやどうでもいいから、ちゃっちゃと報告しよう。



 最初は悪い報告から。

 なんと超強い『ホムンクルス』は、自らの生命力を削って戦闘力を維持していることが判明した。つまり戦えば戦うほど死期が近づく儚い戦闘生物だということだ。しかもなるべく戦闘を避けたとしても、その寿命はせいぜい2、3年らしい。なんてこった。

 せっかくダンジョンクリアしたとしても、その後たった数年で死んでしまう運命なんて、そんなのゴメンだ。異世界を満喫するどころの話じゃない。このせいで僕は難易度が高めの『人間』バージョンでクリアするしかなくなった。


 もちろん良い報告もある。

 ついにあのめっちゃ強いボス【狂気の成れ果て】の攻略法がわかった。

 こいつは2体の中ボス【結晶キメラ】【結晶ゴーレム】を先に倒すことで弱体化させることができるのだ。キメラ討伐で攻撃力が、ゴーレム討伐で防御力がそれぞれ下がる。両方のステータスを下げれば、どのパーティーでもぎりぎりクリア可能なのではなかろうか。

 ただしこの2体の中ボスは時間経過で復活してしまう。復活するとボスの能力も元に戻ってしまう。この条件がとても厄介で、事実上の3連戦のスピード勝負だ。こうなると最後のボスまでたどり着くのが半ば運任せになってしまうのがつらいところだ。現状だと中ボス×2の突破率は4割弱といったところか。



 それぞれのグループでのボス3連戦の様子も書いておこう。


『冒険者グループ』は、キメラ戦が得意でゴーレム戦が苦手だ。

 オッサンたちは大型魔獣を討伐することに慣れているらしく、動きの速いキメラを流れるような連携で倒してしまった。かっこいい。だが頑丈なゴーレムにはまともなダメージを与える方法がほとんどなく、かなり苦戦して消耗させられてしまう。そして消耗した状態ではボスに勝てるはずもなく、惜しくも敗退してしまう。

 消耗を避けるためにあえてゴーレムを無視、キメラ討伐からボス直行するパターンも試してみたけれど、【成れ果て】の防御力の高いままだとけっきょく持久戦になってしまい、その間にキメラが復活してボスもパワーアップという最悪の結果になった。


『魔法学者グループ』はちょうど冒険者の逆、ゴーレム戦が得意でキメラ戦が苦手だ。

 おじいちゃんたちの魔法は威力が半端じゃないため、動きの鈍いゴーレムが接近する前に討伐できてしまった。マジすごい。だが素早くて動きがトリッキーなキメラには魔法がとにかく当たらず、しかも運が悪いと懐に入られてボコボコにされて脱落者が出てしまうことさえあった。壊滅寸前のパーティーではやっぱりボスに勝てなかった。

 キメラ戦を避けるパターンでもダメだ。魔法学者たちでは攻撃力が高いままの【成れ果て】の一撃を耐えることができなかった。1人ずつ確実に削られて確実に敗北する。僕がどれだけ頑張ったとしても前線1人、盾役1人ではカバーしきれない。


 では最後の『勇者グループ』ではどうだろうか?

 驚くことなかれ、ボスに勝利した。

 中ボスの結晶キメラや結晶ゴーレムを両方ともスムーズに討伐。そしてあの【狂気の成れ果て】まで見事に撃破したのだ。それは余裕のない、本当にギリギリの死闘だったが。

 だがしかし、『勇者グループ』とともに戦った結末は……



 ………………

 …………

 ……

「なん……だよ。これは……?」


 たった今、死闘の末に【狂気の成れ果て】を倒した。

 僕たちは必死だった。【結晶キメラ】【結晶ゴーレム】との連戦を重ね、弱体化したとはいえ、それでもまだ恐ろしい力を秘めていた【狂気の成れ果て】を相手に、周りを見る余裕なんてまったくなかったのだ。

 いっしょに戦った勇者たちも彼らを憐れむような、自分たちの力不足を嘆くような、そんな悲しい顔をしていた。


「どうやら私たちより先に、この方たちはボスに戦いを挑んだようですね」

「そんな……どうして……」


 ボス部屋の中に転がっていたのはおびただしい数の遺体。そのいくつかの真新しいものには見覚えがあった。

 それはあの冒険者たちだった。

 それはあの魔法学者たちだった。

 なぜ僕は、『ダンジョンの中にいるのが僕の封印を解いたグループだけ』と思い込んでいたのだろう。たまたま出会わなかっただけで、彼らはずっと同じダンジョンを探索していたのに。


 でも……鍵は? このボス部屋の扉は『僕』という鍵がなければ開かなかったはずだ。その答えは冒険者たちのすぐ近くに転がっていた。ぼんやりと発光するそれには紋章が浮かび上がっている。

 そこには人形と呼ぶには奇妙すぎる、出来損ないの小さな『ホムンクルス』があった。たぶんこれは選択されなかった『僕の器』だ。人間が選ばれれば紋章の剣が、そしてホムンクルスが選ばれればその肉体そのものが鍵となって扉を開けるのだろう。


 やっとの思いで【狂気の成れ果て】に勝ったというのに、ぜんぜんうれしくない。何百回、何千回と試行錯誤して掴んだ勝利だというのに、なんでこんなに虚しいんだろう。


「どうして、あなたは泣いているのですか?」

「えっ?」


 いつの間にか目から雫が溢れていた。


「彼らは見ず知らずの人間です。私も残念だとは思いますが、あなたのように涙を流すことはできません。親しい者たちでもないのに……もしや、知り合いだったのですか?」

「……いいや。知り合いじゃない」


 この周回では(・・・・・・)、知らない人たち。赤の他人だ。

 でも――――


「――――でも(・・)知っている(・・・・・)


 オッサンたちが勇敢で強かったこと。顔に似合わず面倒見がよくてやさしかったこと。ガハハッと豪快に笑っては僕のくじけそうな心を支えてくれたこと。彼らには大切な家族が待っていること。

 おじいちゃんたちが賢明で強かったこと。頑固で偏屈だけど悪い人じゃないこと。聞けば必ず答えてくれる真摯な人柄だったこと。今は亡き息子の研究を完成させたい一心でここまでたどり着いた熱い男だったこと。

 僕は彼らのことを語らずにはいられなかった。そして僕がどうやって彼らのことを知ったのか、その理由も。


「僕は【リセット】という特殊スキルを持っているんだ」


 その言葉を聞いた勇者たちはめっちゃ驚いていた。当たり前だ。

 そんなイカれた便利な特殊スキル、他人には黙って隠しておくのは常識中の常識だろう。ヘタな相手に自慢したら最後、利用されるか殺されるかだ。

 でも僕は彼女たちがどれだけ信頼できる人間なのか、すでに(・・・)知っている(・・・・・)


「先に謝るよ。ごめんなさい。

 ひょっとしたら僕は今回の勝利をムダにするかもしれない。でも僕は、こんな中途半端な結果をとうてい受け入れることはできないんだ」


 そういう性格なのだから、もうこれは自分でもどうしようもない。根負けして妥協できるような性格なら、もうとっくにダンジョンをクリアしたことにして外の世界を満喫している。


 絶対にみんなが生き残ったままで【狂気の成れ果て】を倒してやる。

 僕はそう決意して呟いた。



「【リセット】」




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